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串カツ田中 坂本壽男社長が語る「財務畑の私が2代目社長になった意味」勘頼り脱却、第二第三の矢で売上高1千億円めざす

大阪の串カツ文化を日本中に広げた立役者といえば、「串カツ田中」。2008年の第1号店オープン以来14年で300店舗出店を達成した同社ですが、今年6月に発表された社長人事が業界内の注目を集めています。今回、創業社長の指名で後を継いだ「財務のプロ」である2代目社長・坂本壽男(としお)氏を直撃したのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは記事中で、串カツ田中を外食業界のリーディングカンパニーに成長させたいという新社長の売上目標と、その実現のために打とうと考えている具体的な手を紹介しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

あの「串カツ田中」が300店舗で後継にバトンタッチ。「財務のプロ」監査法人出身社長が新業態チャレンジへ

白いテントに筆文字の看板、赤と黄色の提灯が飾られた「串カツ田中」は街でよく見かける店となった。店舗数はこの11月末段階で首都圏を中心に300店舗強ということだから当然である。創業したのは大阪でバーを営んでいた貫啓二氏(1971年1月生まれ)。2004年東京に出て高級和食店を営業したが、リーマンショックの影響でそれを閉店することになった。「次の商売を」と考えを巡らせていた時に、ビジネスパートナーの田中洋江氏の父が残した串カツのレシピを発見。それを元に串カツ居酒屋を創った、というのが創業のストーリーである。

白地の筆文字、赤と黄色の提灯の看板は「串カツ田中」のトレードマーク

1号店は東急世田谷線の世田谷駅近くで2008年12月にオープン。以来東京の住宅街で展開し、2012年5月に初の都心ターミナル駅近く、渋谷桜ヶ丘店を出店して注目度を増した(再開発工事で閉店)。2016年9月東証マザーズ市場に上場、2019年6月東証一部上場と着実に企業基盤を固めていった。

最近はセットメニューをアピールして串カツを注文しやすくしている

その同社、串カツ田中ホールディングス(HD)では今年の6月にトップ人事を行った。代表取締役社長CEOに坂本壽男(としお)氏(1976年4月生まれ)が就任、創業者の貫氏は代表権のない取締役会長となった。業界をよく知る人にとってこの代表者の交代は「あっさり」といった印象をもたらしたようだ。

坂本氏は慶應義塾大学経済学部を卒業、化学メーカーに勤めていたが、公認会計士の資格を取って大手監査法人に入社。ここで飲食のチェーン企業を担当、またIPOを目指す企業の営業を担当したことから串カツ田中の貫社長(当時)との知己を得た。そして誘いを受けて2015年2月同社に入社した。

串カツ田中のCFOとなった坂本氏は、株式公開に向けて精力的に仕事に励んだ。貫社長の「上場するぞ!」の号令の下で全社員が一致団結して進んでいったという。

成長のために「勘に頼った経営」から脱却

坂本氏は貫社長(当時)から社長就任の打診に際してこのように言われたという。

「これまで『串カツ田中』を300店舗までやってきたが、勘に頼っていたところもある。これから1,000店舗を目指して日本を代表する食文化にしたい。そのためには金融の知識、細かい数字の分析、再現性のある根拠とか。しっかりとした経営が必要なんだ」

この時を振り返って坂本氏はこう語る。

「貫社長は自己分析がしっかりとできていて先見性があります。私は不安ばかりでしたが、副社長となる大須賀(取締役副社長 大須賀伸博氏)と力を合わせていけば何とかできるのではないかと。そこで引き受けることにしました」

同社では将来の事業拡大を見据えて2020年3月事業会社のセカンドアローを設立。沖縄県に本拠を置く、みたのクリエイトが展開している「鶏と卵の専門店 鳥玉」(鳥玉)を譲受し沖縄県以外での展開を可能にした。その1号店を2020年9月モザイクモール港北(横話都筑区)のフードコートにオープン。以来商業施設内のフードコートで展開し現在4店舗(沖縄県には5店舗)出店している。また、セカンドアローでは新業態として今年3月韓国料理『焼肉くるとん싸다』(焼肉くるとん)の展開を開始してFC展開も行おうとしている。同じく6月米国ポートランドにジョイントベンチャーでカツサンドが主力メニューのカフェ「TANAKA」を出店した。

「鳥玉」はフードコートで展開する業態で串カツ田中HDの新しい領域をつくった

坂本氏はこう語る。

「外食業界でのリーディングカンパニーになりたいので、売上高1,000億円を目指します。串カツ田中が事業の中心ですが、売上高1,000億円を達成するには第二、第三の矢が必要になります。そこで『鳥玉』や『焼肉くるとん』が重要になる。コロナ禍で居酒屋業態はすごく落ち込みましたが韓国料理の『焼肉くるとん』はそうでもなかった。こんな具合に時代の流れに耐えうるような、さまざまな業態をつくっていく必要はあります。ただし10店舗ぐらいで終わる業態はやらないつもりです。次の『串カツ田中』として100店舗200店舗になるようなブランドを育てていきたい」

「焼肉くるとん」は韓国料理で、サムギョプサルが看板メニュー

第二、第三の矢に託していること

この第二の矢、第三の矢について、同社ではこのように認識している。

まず、「鳥玉」の場合、この食材は世界の中でタブーになっているところが少なくアレルギーも少ないことから、世界的な展開が可能となる。

「鳥玉」の使用食材である鶏肉と卵は世界的に通用する食材として展望が広がる

そして「焼肉くるとん」の場合。韓国料理は今やブームではなくなって定着してきている観があり、ヘルシーで客層も広い。また大きなチェーン店がない。客層も「串かつ田中」と違い若者や女性が多く、アルコール比率は「串カツ田中」の約40%に対して『焼肉くるとん』は約20%。9月にオープンした代官山店は「串カツ田中」から転換した店で、以前600万円くらいを売っていたのが「焼肉くるとん」になって「オープン景気かもしれないが」(坂本氏)1,000万円を超えている。客単価は「串カツ田中」が2,700円に対し『焼肉くるとん』は3,000円強。

「『焼肉くるとん』はこれからFC展開をはじめて3年間で50店舗くらいは出したい。『鳥玉』の立地は商業施設が多いので、仕込みに時間がかかる。そこで、3年間で20店舗くらいを目指す」(坂本氏)という。

第三の矢「焼肉くるとん」はFC展開も行い急ピッチで展開する意向

米国ポートランドの「TANAKA」の動向はどうか。

この業態はカツサンドが主力メニューのカフェで、客単価28ドル、月商が日本円で3,000万円弱となっている。アメリカでは普通ラーメン1杯が20ドル、刺身4~5切れで20ドルとなっていることから、「TANAKA」はアメリカでいま一般的な業態となっていると言える、

1号店はセントラルキッチンを兼ねて126坪(店内54席、店外36席)と広めにつくったが、2号店、3号店は小さくして効率化を図っていきたい、とのこと。現状、串カツ田中HDが80%出資、現地の社長が20%出資しているジョイントベンチャーだが、これからはFC展開もしていく意向だ。ポートランドでは上質のブランドが展開していることから「ポートランド発のTANAKA」ということをアピールして西海岸からアメリカ全土に広げていく意向だ。

他の経営者の声に真摯に耳を傾ける

日本国内での「串カツ田中」はどのような形で拡大を図ろうとしているのだろうか。

ちなみに、同業態はFC店舗が半分程度を占めている。加盟している中にはファイブグループ、プロダクトオブタイム、ビッグベリーとった直営店展開で個性的な店舗を展開している企業があるが、例えば「FCオーナー会」での意見交換の席で「化学反応」的な機会はあるのだろうか。坂本氏はこう語る。

「加盟店のみなさんからいろんな意見を言っていただいて、とても勉強になります。若者の中にはあえてお酒を飲まないソバキュリアンも増えてきていて、店からお酒色が薄くなっている。また、MZ世代(20代から30代半ば)対策を含めて、私は『串カツ田中』から提灯を外してみてはどうかという考えを披露したところ、加盟店のみなさんは『串カツ田中はベタな方がいい』という。私もそれは一理あると思いますよ。お酒を飲まない人、子供とか、このような人たちにとって異空間の感覚や楽しみがあります。このようなちょっとしたことで売上が変わるということが、貫会長が言うところの『勘が当たった』という瞬間なのでしょう。ただし、古い店舗があるので、破れている提灯を付け直したり、きれいな看板にしていきたいと考えています」

CFOからCEOに就任した坂本氏であるが、先人である多くの経営者からのアドバイスへ真摯に耳を傾け串カツ田中HDの新たな成長の足場を築こうとしている。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社串カツ田中ホールディングス

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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