MAG2 NEWS MENU

台湾の統一地方選挙で蔡英文総統の与党・民進党が大敗した「意味」

11月26日に投開票された台湾の統一地方選挙では、事前の予想通りに蔡英文総統が率いる与党が大敗。選挙戦終盤には、対中警戒を煽ることで劣勢を挽回しようとしましたがまったく実りませんでした。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、この大敗を受け、「神通力は尽きてきた」と分析。内政に不安と不満を抱える与党が強硬な対中政策を続けた場合の反動を危惧しています。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

蔡英文の台湾統一地方選挙大敗で見えてきた 習近平が台湾統一を急がない理由

予想されていた結果とはいえ、蔡英文政権にとっては、厳しい審判が下されたといえよう。26日に投開票された台湾版統一地方選挙での痛い敗北である。

首長選の投開票は、6の直轄市と15の県と市で行われた。テレビ局TVBSの選挙速報(日本時間26日午後10時15分現在)によると、民進党は高雄市や台南市で勝利し、5市県を獲得したが、基隆市を8年ぶりに失った。改選前に14市県を有した最大野党・国民党は、台北市と桃園市など13市県を得た。台湾民衆党は新竹市で初めて勝利した。(11月26日付 読売新聞オンライン)

最重要の台北や北部の桃園の主要市長選で敗れた。そして、「蔡英文(ツァイインウェン)総統率いる与党・民進党は、焦点だった首長ポストの獲得で改選前の7市県に届かず、大敗した。総統の任期を1年半残す蔡氏は敗北の責任を取るとして、党主席については辞任を表明した」(同、読売新聞オンライン)のである。

そもそも現状維持に近い目標は、やはり大敗北した前回の統一地方選挙(2018年)が基準となっていると考えれば、新聞各紙が「大敗北」という見出しで報じたことにも誇張はない。

早速、中国のカウンターパートは、この敗北を踏まえて「結果は平和と安定を求める民意を反映」と発表した。またメディアは「台湾の人々が理性的な選択をした」と、控えめながら、選挙結果に大いに満足している論調で評価した。

だが、気をつけなければならないのは、今回の統一地方選挙は、選挙の性質上、生活に密着したテーマに焦点が当てられやすく、対大陸(=中国)という台湾の人々にとっての「対外」の視点とは切り離して考える必要があることだ。単純に、蔡英文が進めたある種の独立路線が否定されたとして扱うことにも慎重でなければならない。

事実、台北市長選挙に民進党を背負って出た陳時中氏をはじめ、多くの民進党の候補者がスキャンダルに塗れ、有権者をうんざりさせていたことも民進党敗北の原因である。

ただし、その一方で選挙戦において、蔡総統が、「中国に抵抗して台湾を守ろう」とか「『抗中保台』(中国に抵抗し台湾を守る)」、「中国共産党大会のあとに行われる初めての選挙に全世界が注目している」、「(世界に向け)自由と民主主義の擁護に向けた台湾の粘り強さと決意を示す選挙」といったスローガンを連発したことも間違いない。

日々伝えられる自党の劣勢を、大陸への警戒を煽ることでなんとか跳ね返そうと目論んだためである。しかし、必死の訴えも劣勢を挽回することはかなわなかった。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

結果が示しているのは、蔡総統がいくら対中警戒を煽るだけで政権に留まろうとしても無理があるということだ。対中の一本足打法では、もうそろそろ神通力も尽きてきたといえるのだろう。

思い出すのは4年前である。前回の統一地方選挙に続き、今回は2回目の統一地方選挙敗北である。この審判は、与党・民進党が域内経済を向上させ、島民の暮らしの改善を進める民政に関わる問題で、有権者の満足を勝ち取ることができなかったことを意味している。党としては致命的な欠陥だ。

そうなれば問題はアジア全域の不安定化へと波及しかねない。内政で島民を満足させられない蔡政権が、対中国で存在感を発揮しようとしてさまざまな仕掛けを繰り出せば、それに刺激された中国が反応し、台湾海峡の波が高まることが予測されるからだ。

思い出されるのは、前回の統一地方選挙後に台湾で吹き荒れた高雄市長、韓国瑜旋風である。韓氏の人気が爆発した当初、蔡英文の総統再選は絶望視された。しかし、その後に起きた香港のデモで、島民に対中警戒心が一気に高まり、民進党と蔡英文は支持率を急回復させ、総統選挙にも勝利できたのである。

トランプ政権末期に高まった米中対立やそれによって製造基地が中国から台湾に移る動きが高まり、台湾経済に追い風となったことも響いたはずだ。だが、再選されてから約4年が経ち、蔡政権は再び内政の問題で疑問符を突き付けられてしまったのである。

一方、中国への警戒では島内には変化が起きていた。ナンシー・ペロシ下院議長の訪台で、政権の支持率が落ちたことは典型例だが、そうした過激な選択への嫌気に加えて、持続可能性にも疑問符がつけられるようになったからだ。

ここ数年、自由と民主主義の旗印を掲げて多くのアメリカの議員が台湾を訪問した。またリトアニアなど、台湾との交流のレベルを上げる国も目立った。しかし、こうした動きが台湾の人々を単純に勇気づけてきたかといえば、決してそうではないのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年11月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by:glen photo/Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け