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統一教会問題の解決にも悪影響か?地裁がオウム解散請求記録を全破棄という大罪

旧統一教会への解散命令請求に関心が高まる中、オウム真理教の解散命令請求に関する全ての記録が破棄されていたことが発覚し、貴重な資料の杜撰ともいうべき扱いを問題視する声が上がっています。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、歴史的記録文書の廃棄がいかに罪深く、その愚行により誰が一番困るのかを考察。重要な記録であっても原則5年で処分してしまうという現状に、強い異を唱えています。

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オウム、モリカケ、統一教会…歴史的記録文書の廃棄という罪:「デモくらジオ」(11月25日)から

今日、冒頭でお話申し上げようと思って少し考えてきたのは、歴史的な資料の保存に関することです。

歴史的な資料というと範囲が広くなるので、この間問題になってきたのは、皆さんご存じのような公文書の扱いですね。とりわけ、今回、旧統一教会に対して法人の解散を命令するに至るのかどうかということに関して、文科省が質問権を行使している最中ですけれども、この問題で先行事例と言えば2つあって、オウム真理教のケースと、それから明覚寺という、これは和歌山のお寺ですけれども、組織的に詐欺を働いたということで結局解散命令、法人としての資格を奪うということになった。それよりもオウム真理教の方がもちろん有名でしょう。

で、このオウム真理教の法人格が失われる過程で行われた様々な出来事に関する公的な記録、これが全部廃棄されていたということがわかりました。これ、驚愕の事実ですよね。さすがに時間はそれなりに経っていますよ。経っていますけれど、世界を震撼させたサリンを使ったテロ事件に至る教団の、法的な人格を巡る行政措置の中で、どんなことが明らかになり、どのような理由で解散の結論に至ったのか、それらに関するすべての資料がもう存在しない。

考えてみればこの種のことはこの間、実に頻発していますよね。あの、例の森友学園事件での改ざん、改ざんが行われた件はありましたけれど、それ以外にも例えば自衛隊の南スーダンPKOのときの日誌がないということがありました、後で見つかるのですが、公文書の記録の仕方として実におかしなことがその過程で明らかになってきました。

これ、誰がどう困るのかということを一つ一つ考えてみると、一つは非常にハッキリしているのは、官僚が困るんですよ、まず。どういうことかというと、例えば今回の質問権の行使を巡る行政手続き、これ、初めて踏むわけですよね。で、そのためには旧統一教会の何をどのように質問していくのかについても、過去の事例、これは質問権行使とは違いますが、裁判でしょうが、その内容というのですかね、それを参照しないと…。官僚というのは特に前例主義ですから、非常に困るのだと思います。

今回特にね、問題の大きさの割に、対応する行政の部署が小さいのですよ。文化庁の宗務課というところ。文科省の下にある文化庁の中の宗務課というところ。ここだけでは対応しきれないということで、政府は何をしたかというと、凄いですよ…法務、警察、国税、金融庁、この4つの役所から合計8人の専門家というか、この問題に関して専門的な知見を持つ、要するに詳しい人たちを派遣する。宗務課に加えてその人たちで作業をしている。

直接は質問権をどういうふうに構成するかということなのでしょうが、法人格を失わせるかどうかという非常に大きな行政行為の仕様というか、何をどうしたらいいのかということについて、この4つの役所の人たちが集まっているということなのですね。で、この人たちにとって困るだろうなという気がします。過去の事例についての記録がないわけですから。

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それから、もちろん、官僚が困るということ以上にもっと大きな意味で、学術研究、学術研究だけではないですね、国民の興味関心を充足する上でも、このような資料が残っていないのは非常に具合が悪い。学術研究ということで言えば、史料的価値。

この場合の「しりょう」の「し」は歴史の「史」の方ですけれど。その史料的価値が非常に高いものであるし、まああの、よく、こういう言い方するじゃないですか。何かこう、大きな政治的判断を下した後、批判されると、「批判は甘んじて受ける」と、しかし「結果に関し、良かったか悪かったかに関しては、後世の歴史家の判断に委ねたい」って。よく言うよね、そういうこと。だったら資料は全部残しておけよと。そういう話ですよ。

で、かなり重要なものでも一般に役所は5年たつと処分してしまう。あるいはそのような資料をまとめて置いておく場所が埼玉県かどこかにあって、以前、農水省を取材したときにあったのですが、そこに集められたりしている。年金の資料もそうでしたよね、確か、埼玉だったと思います。そういう扱いをこの行政文書、公文書についてやっておきながら、「後世の歴史家の判断に委ねたい」などということはとても言えないのだと思います。

実はこの問題というのは、私はもともと法制史学を志していた時代があって、研究者の卵だった…残念ながら卵は孵化しなかったんですけれどね(笑)、いくつか論文を書くときに、私が対象としていたのは明治初期の日本でしたので、近代の日本の始まりのところですね。日本の法律が出来ていく歴史を勉強していたわけです。

ほとんど今の人は知らないと思うのですが、旧刑法という法律があったんですよ。その当時は「旧」とは言わず、ただ「刑法」なんですが。明治15年に施行されて明治40年過ぎまで実際に効力を発揮していた法律でした。その後、現行刑法になっていくので、そちらは「刑法」で、その前の刑法を「旧刑法」と呼ぶんですね。

これの凄いところは、ボアソナードというフランスの法律学者を呼んできて、いわゆる「お雇い外国人」の1人で、法政大学とその後、縁の深い方になりましたので、法政大学の方はよくご存じでしょうが、そのボアソナードと日本人の法務官僚が議論をして旧刑法を作っていった会議がありました。その会議の記録というのが、これが普通のところにはなかったのですね。

明治は公文録という、公文書を集めたものがあるのですが、これは内閣制度が出来る明治18年までの色々な公文書を集めて編集したものなのですが、そこにもないのですね。どこかから見つかったのかというと、このときにボアソナードと議論をした日本側の法務官僚で鶴田さんという人がいて、この人が、議論の過程を書き起こしたものを家に持ち帰っていたのですね、で、最終的に家に保存されていた。これ、鶴田文書と言われていたのですが、そうやって出てきた資料を「日本刑法草案会議筆記」という名で早稲田大学が出版したりした。これで旧刑法の研究がダーッと進んだということがありました。そうやって官僚が、公式には残していなくても、結構自分のものとして残している場合がある(*南スーダンPKOの場合、そういうものもありました)。

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だから話が飛びますけれど、オウム真理教に関するデータ、法人の解散に関することで資料が全部無くなっているというのですが、誰か持っているのではないかと思うのです。これ、捨てちゃっていいのかなというある種の義侠心というか、ある種の心配からそのようなものを保存しようということで持っているケースも多分あるでしょうし。そのようにして出てくる文書が歴史研究には非常に重要なのですが、もう一つ、さっき言った公文録。先ほど言いましたように日本に内閣制度が出来るまでの公文がたくさんあって(太政官と各省間の伺指令)、私はその中から、あまり陽の当たっていなかったものを見つけ、さらに鶴田文書も使って修士論文を書きました。そういうことが出来なければいけないのですよね。

今度のことは本当に酷い話で、解散請求に関する関連記録、これを全部廃棄してしまっていると。これに関わった官僚の方で、データを持っている方はどんな形でもそれを公にする義務があると思いますので、是非、公表してもらいたいと思います。そういうことです。

(『uttiiジャーナル』2022年11月27日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: F.Adler, Public domain , ウィキメディア・コモンズ経由で

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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