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親が支援を拒否するケースも。ヤングケアラー問題の解決を“阻むもの”の正体

数年前に我が国でもようやく社会問題として認知され始めた「ヤングケアラー」。やむを得ない事情で家族の介護や世話を担う彼らに対して、どのような救いの手を差し伸べるべきなのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、ヤングケアラー問題の現実に迫るとともに、各地で広がりつつある支援状況を紹介。さらに問題解決に重要となってくるポイントについて考察しています。

【関連】高校生の25人に1人の衝撃。若者が家族を介護する日本の厳しい現実

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巷で話題の「ヤングケアラー」は何が問題となっているのか?全国に広がる動き

家族の介護や日常の世話に追われる「ヤングケアラー」の子どもたちの現状が、日本においても徐々にスポットが当てられるようになってきた。

祖父母や幼いきょうだいの面倒をみている子どもたちが、しかし負担が重くなり過ぎると、日常生活や学校の勉強にも悪影響が出始める。

家の用事や手伝い、あるいは幼いきょうだいの世話をする子どもは、一定数、昔からいたしかし、これほど注目されるようになったのは、ここ最近のこと。

成蹊大学の渋谷智子教授(社会学)によると、ヤングケアラーという概念は1990年代前半のイギリスで広まった。日本では2000年ごろから研究者の間でも認知され、2010年代になりようやくメディアでも取り上げられるように(*1)。

問題の背景としては、家庭や社会構造の変化がある。1世帯当たりの平均人数は1960年に4.14人だったが、2020年には2.21人にまで減る(*2)。

さらに共働き世帯やひとり親家庭が増えた結果、大人が家庭にかけられる時間が少なくなった。

ヤングケアラーとは、大人が担う家事や家族の世話などを日常的に行なっている子どもとされる。厚生労働省が昨年公表した調査によると、世話をしている家族がいると答えたのは、中学2年生の5.7%、全日制高校の2年生の4.1%。

目次

何が問題となっているのか

「毎日のようにスーパーで買い物をしている」
「幼いきょうだいの送迎をしていることがある」
「優等生でいつも頑張っている」

これは、今年4月、厚労省が自治体に通知した「ヤングケアラー支援マニュアル」だ。周囲がその存在に気付くきっかけとして以上の例を挙げた。

「遅刻や早退が多い」「服装が乱れている」などといった比較的イメージしやすいものもあるが、しかし家の用事を手伝い、きょうだいの面倒をみるといった、一見すると「よい子」と映る子どもが、実はヤングケアラーであったというケースも少なくない。

厚労省の調査では、平日1日あたり7時間以上、家族の世話をしているヤングケアラーもいた。子どもたちは、「睡眠が十分に取れない」「友人と遊ぶことができない」などの声が。

ヤングケアラーは進路や就職に影響するケースも。ヤングケアラーの中には、家族や介護のために高校卒業後、すぐの大学進学をあきらめたり、進路を決めるときに実家を離れてよいのか悩んだりする人も。

渋谷教授は、

「『家族』の余裕がなくなってきている。家族のことは家族でやるという価値観が残る一方、大人は生活のために働かざるを得ず、子どもが頼られるようになっている」(*3)

と指摘。しわ寄せが子どもにまで及び、ケアの負担が重くなり過ぎているとした。

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全国に広がる支援の動き

ヤングケアラーの存在が広く知られるようになったことで、行政の支援も徐々にではあるが広がってきているようだ。

今年6月、自民、公明、国民民主の3党は、ヤングケアラーの支援を充実させるための方針をまとめる。今後、法制化も視野に入れている。

他方、自治体では埼玉県入間市が今年7月、全国で初めての「ヤングケアラー支援条例」を施行。ヤングケアラーを含むケアラー全般の支援についての条例は、2020年3月に埼玉県で施行されたのを機に各地で制定が相次いでいる。

最近では10月に、長崎県が条例を可決。

しかしながら、課題も。支援の現場では、「家族の問題だ」と、親が行政からの支援を拒否することも少なくないという。

あるいは、ヤングケアラー本人が家族の世話を当たりまえだと思っていたり、支援を求めたいものの周囲から特別な存在であるとみられることを嫌っていたりするケースもあるという。

ヤングケアラーの経験者は、「助けてほしいと言えない心境だった」(*4)と振り返る。

とくにヤングケアラー支援に不可欠なキーワードが「連携」。

ヤングケアラーを取り巻く問題解決のためには、障害者や高齢者福祉、学校教育、貧困対策など行政の複数の部局が関わることが多く、さらに民間の支援団体を含む関係者の連携が重要だ。

世界の状況 イギリス、ヤングケアラー支援の先進国

世界における支援はどうなっているのだろうか。「ヤングケアラー」という言葉は、もとは1990年代の初め、イギリスで使われるようになった。そのイギリスは、今はヤングケアラー支援の“先進地”とされている(*5)。

ケンブリッジ大学のソール・ベッカー教授は今から30年近く前、世界で初めてヤングケアラーの存在を、社会的な支援対象とすべきであるとする論文を発表。

その後もヤングケアラーの研究を牽引してきたとともに、これまでに世界各国のヤングケアラー支援に向けた政策を提言してきた。

イギリスは2014年に「子どもと家庭に関する法律」という法案を可決。その中で、ヤングケアラーを支援が必要な存在であると位置付けだ。

法律では、ヤングケアラーを

「他の人のためにケアを提供している、または提供しようとしている18歳未満の者(ただし、ケアが契約に従って行われている場合や、ボランティア活動として行われている場合は除く)」

と定義。地方自治体に対し、ヤングケアラーを特定するとともに適切な支援につなげることを義務付けた。

他方、世界的にも優れた福祉国家であるスウェーデンでさえ、ヤングケアラーがいることが判明し、政府が対策を講じている(*6)。

引用・参考文献

(*1)小池勇喜「ニュースの門」読売新聞 2022年11月15日

(*2)小池勇慶 2022年11月15日

(*3)小池勇喜 2022年11月15日

(*4)小池勇喜 2022年11月15日

(*5) 山本健人「ヤングケアラー支援の先進地イギリス ソール・ベッカー教授に聞く」NHK  首都圏ナビ 2021年4月30日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年11月27日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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