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習近平政権をイライラさせる米の「言行不一致」は2023年も続くのか?

2023年の年明け早々にも中国を訪問するアメリカのブリンケン国務長官。12月11日と12日には次官級の事前協議が行われ、中国側はその内容を評価するコメントを発表しました。しかし、額面通りに受け取れないと解説するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、バイデン政権が今回の事前協議の前後にも中国への対抗を意図した言動を繰り返し、習政権を苛立たせる「言行不一致」が続いていると指摘。アメリカ・アフリカ会議で米国が表明した投資強化も、アフリカ諸国に響くかは疑問とする理由を伝えています。

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アメリカ・アフリカ会議でバイデン政権は第三世界の勢力図を塗り替えられるのか

先週も書いたように、中国の都市部では新型コロナウイルス感染症(=コロナ)が凄まじい勢いで拡大し、街から人影が消え、多くの学校が休校になった。

習近平が「ゼロコロナ(=動的ゼロコロナ政策)にこだわり経済を犠牲にしている」と半ば嘲笑し、反ゼロコロナで声を上げた若者を持ち上げたメディアは、そのロジックがいかにいい加減で、身勝手なものだったかを思い知ったのではないだろうか。

習政権が恐れてきた「中国の国情」というものが、まさにこれなのだ。コロナが弱毒化したと見切り、対策緩和に踏み切ったものの、ここから先は大きな賭けだ。果たしてどうなることか。

さて、今回はコロナの話題ではない。米中関係に目を向けたい。目下の注目は、2023年の年明け早々にも実現するとされているアントニー・ブリンケン米国務長官の訪中である。その前提の話し合いのため、2022年12月11日と12日の2日間、訪中したダニエル・J・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)と国家安全保障会議(NSC)のローラ・ローゼンバーガー上級部長(中国・台湾担当)が謝鋒外交副部長(外務次官)と会談した。場所は、河北省廊坊市だ。

国務省はこれに先立ち、今回の話し合いについて、「先の首脳会談を踏まえた検討状況を確認し、両国間の競争を責任を持って管理し、協力できる可能性がある分野を探る」(10日)と発表していた。

会談終了後の会見で、中国外交部の汪文斌報道官は、「バリ島での中米首脳会談での共通認識の実行、中米関係の指導原則に関する協議の推進、台湾問題など双方関係における重要かつ敏感な問題の適切な処理、各レベルでの交流と関連分野における協力の強化について踏み込んだ意思疎通を行うとともに、関心を共有する国際・地域問題について幅広く意見を交換した」と説明。協議は「率直で、深く、建設的だった」と評価をした。

だが、これを額面通り受け止めるわけにはいかない。というのも中国側はずっとアメリカとの会談において、会談の中身よりもその後の言動をより重視しているからだ。このメルマガでも書いてきたように習政権は、バイデン政権の「言行不一致」に苛立ちを募らせてきたのだ。

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事実、この話し合いが行われたのと同じ12日、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がワシントンで記者会見に臨み、中国に対する半導体規制の抜本的な強化に向け、日本やオランダに協力を要請したことを明らかにしたのだ。これは、半導体製造装置で強みを持つ日本やオランダなど「懸念を共有する国々」に呼び掛け、対中輸出を絞り、高機能な先端半導体を中国国内で生産できなくさせることを狙った動きだ。

前述した河北省廊坊市の高官会談でも「バリ島での米中首脳会談での共通認識の実行」が基準だと汪報道官が語っているが、中国側の目には「言行不一致」の典型的な例だと映るはずだ。試みにバリ島でのジョー・バイデン大統領の発言(中国側が発表)のなかで、中国側が期待した部分について、以下に抜粋して見てみよう。

「私は中国の安定した発展はアメリカと世界の利益に符合すると考えている。アメリカは中国の体制を尊重し、体制転換を求めない。新冷戦も認めないし、盟友国と関係を強化することで中国に対峙することもしない。台湾独立も支持しないし、『二つの中国』も『一中一台』も支持しない。中国との衝突も望まなければ、デカップリングに向かおうとも思わない。中国の経済発展を阻害しようとも思わないし、中国包囲網を築くつもりもない」

読めば明らかなように、半導体の問題に限らず、言っていることとやっていることはちぐはぐだ。

ワシントンでは中国に対抗する動きも見られた。12月13日から3日間の日程で開催されたアメリカ・アフリカ首脳会議だ。出席したバイデン大統領は、今後3年間で総額550億ドル(7兆5千億円)をアフリカ支援向けに拠出すると表明すると同時に、アフリカ連合(AU)が20カ国・地域(G20)の常任メンバーとなることを支持すると正式に表明。アフリカ取り込みに意欲を示した。

アメリカが対アフリカ外交に力を入れると聞けば、真っ先に思い浮かぶのが中国との資源獲得競争だ。NHK(国際報道2022)は早速「コンゴ民主共和国とザンビアの間で電気自動車の電池に使われる『コバルト』の生産に協力する文書に調印した」ことに着目した。

番組では、ブリンケン国務長官の「コンゴ民主共和国は世界のコバルトの70%以上を生産。ザンビアはアフリカで2番目のコバルト生産国で6番目の銅生産国だ。重要な鉱物に対する世界の需要は今後数十年間、急増する」という発言も紹介した。

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コンゴの資源と聞けば、やはり思い出されるのは広島と長崎に落とされた原子爆弾の原料、ウラン鉱石だ。エノラ・ゲイ号で運ばれた原爆「リトルボーイ」が広島の相生橋を目標に、上空600mで爆発した1945年8月6日は、日本人には忘れられない日だ。

ウランの含有量がきわめて高い上質なウラン鉱石がコンゴ産出だと他国に知られないように米英が「カナダ産」だと偽装工作したことは良く知られている。アフリカの資源が重要であることを思い出させるエピソードだ。

しかし、いまや時代はアフリカをただの資源争奪戦の「草刈り場」としてだけ見ようとすることを許すのだろうか。そこにはアフリカのメリットなどないことは、アフリカ自身が積み重ねてきた歴史が何よりも物語っている。そうした点では、どうやら中国に一日の長がありそうだ。

本稿の冒頭ではコロナに触れたが、思い出されるのは、ワクチン不足に苦しむアフリカが頼ることができたのは欧米ではなく中国だった。西側先進国では、期限までに使い切れなかったワクチンが大量に破棄されるという行為が目立ったが、アフリカに回されることはなかった。そのことをアフリカの国々は見てきたのだ。

またアメリカとアフリカの接点は、これまでずっと下降線をたどってきた。『環球時報』の記事(12月15日)によれば、アメリカの対アフリカの直接投資は2014年には690億ドルだったのが、2021年には448億ドルまで下がり、貨物の貿易額も昨年は643億ドルにとどまり、その数字は2008年のほぼ半分だという。

アメリカ・アフリカ首脳会議の様子を伝えたPBSのキャスターは、「この会議でアメリカは民主主義の価値観に合わない国の指導者を招いていませんか?」と皮肉とも批判ともとれる質問をしていたが、まさにアメリカのダブルスタンダードに鋭く切り込んだ形だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年12月18日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Salma Bashir Motiwala/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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