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財務省のウソを垂れ流す岸田文雄の魂胆。年間1兆円の防衛増税など必要ない理由

大混乱の末に一応の決着を見た、大幅に増額される防衛費の財源。年間4兆円のうち1兆円を増税分で賄うとの決定ですが、果たしてそれは妥当と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、財務省が「防衛増税」にこだわり国債発行を嫌う理由を解説。さらに危機的状況にある少子化対策を先送りしたに等しい岸田首相の施策姿勢に対して、大きな疑問を呈しています。

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防衛費倍増と増税をめぐる嘘八百

ウソがまかり通っている。「国家安全保障戦略」など3つの文書を閣議決定したあとの記者会見。岸田首相は言った。防衛力を5年かけて抜本的に増強するために、毎年4兆円の安定財源が必要で、そのうち3兆円は歳出改革で賄うが、あと1兆円は税負担をお願いしたいと。

3兆円が予算の組み換えでなんとかなるのなら、なぜ4兆円までがんばらないのか。無駄な予算は掃いて捨てるほどあるだろう。それを削って回すのにわざわざ3兆円までという限度を設ける。そして、その数字に確たる根拠があるわけではない。どの予算を切るかの検討は今後の作業であるからだ。

つまりこれは、財務省のウソである。岸田首相は言われるがままに垂れ流し、メディアはメディアで、どうしても1兆円足りない理由を問い詰めようともしない。不思議な物語を素直に受け入れ、せいぜい、国債発行で賄う手もあるのではないかと言う程度なのだ。

いうまでもなく財務省の“力の源泉”は、各省庁が要求する予算を査定する権限にある。そういう立場からすると、財源となる税収は多いほどいいわけで、理由が見つかりしだい課税し、取り立てる。

一方で、国債発行について財務省が嫌がるのは、税収という限られた財源のなかから予算を捻出するありがたみが失われ、財務省の権限低下につながるからであって、必ずしも「財政健全化」というお題目のためだけではない。

防衛増税に対して安倍元首相のシンパ議員から反対の声が上がっているが、これもまた国民のためというよりは「防衛をワルモノにするな」というのが本音であろう。要するに誰もかれも、自分たちのことしか頭にないのである。

岸田首相は自民党本部で開かれた党役員会で防衛増税について「責任ある財源を考えるべきで、今を生きる国民が自らの責任として、しっかり重みを背負って対応すべきものだ」と語ったと報道された。実は発言を紹介した茂木幹事長が、今を生きる「国民」ではなくて「われわれ」だったと報道後に修正したのだが、大意はさして変わらない。

これを聞いて、終戦直後の1945年8月17日、当時の首相、東久邇宮稔彦王が敗戦の原因について語った発言内容を思い出した。

「事ここに至ったのは勿論政府の政策がよくなかったからであるが、また国民の道義のすたれたのもこの原因の一つである。この際私は軍官民、国民全体が徹底的に反省し懺悔しなければならぬと思う」

国民が政府の言うとおりに動くものと思っている。これに似たようなニオイを岸田首相の財務省的発言からも感じるのだが、どうだろうか。防衛力は必要だが、その膨張には賛否がある。「今後5年間で43兆円の防衛力整備計画を実施し、2027年度にはGDPの2%の予算を確保する」と岸田首相は語るが、選挙で国民に問うことも、国会での審議を経ることもなしに、「われわれ国民」に責任の重みを押しつけるのは、まさしく“おかみ”の発想である。

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そもそも、防衛費を「GDPの2%」にするというのは、1%程度である現在の2倍であり、常識外れな軍備拡張策だ。憲法に基づき専守防衛に徹すると宣言している国が世界第3位の軍事大国化してしまう。これは一体どこから来た数字なのだろうか。

この国の政治家でいちばん早く「GDPの2%」論を唱えたのは2021年9月の自民党総裁選に立候補したさいの高市早苗氏ではないかと思う。安倍政権で始まった敵基地攻撃能力の議論を念頭にしており、この総裁選で安倍元首相の支援を受けるポイントになる主張だった。

高市氏に先駆けをつとめさせたうえで、おもむろに登場したのはもちろん、安倍元首相だ。今年6月2日の安倍派の会合で「NATO加盟国の正面にあるのはロシアだけだが、日本の場合は中国と北朝鮮も加わってはるかに状況は厳しい。本来であればGDPの2%を超える額が必要になる」と述べた。

「GDPの2%」はもともとトランプ米大統領が2020年、NATO諸国など同盟国に要求した数字だ。各国の軍事費を増やせば、その分、米軍の経費を減らせるし、米軍需産業の利益にも繋がるというわけだ。

おそらく日本に対しても同じような働きかけがあったに違いない。米国は中国を封じ込めるため、日本に大きな役割を求めている。台湾に中国が武力行使するようなことがあれば、自衛隊に働いてもらい米軍兵士の命や兵器の損害を最小限に抑えたいというのが米国の本音だ。全面戦争に発展することさえなければ、米軍の損失は最小限にとどまり、米中の経済関係も、一時的にはどうであれ、持続できると踏んでいる。

こうしたオフショア・バランシングといわれる米国の戦略を安倍・菅政権は積極的に受け入れてきた。2021年12月1日、安倍氏が台湾のシンクタンクが主催するシンポジウムにオンライン参加し「新時代の日台関係」と題して講演した内容の一部。

「尖閣諸島や先島、与那国島などは台湾からも100キロ程度しか離れていません。台湾への武力侵攻は、地理的、空間的に必ず日本の国土に対する重大な危険を引き起こさずにはいません。台湾有事、それは日本有事であり、すなわち日米同盟の有事でもあります」

岸田首相もまた、安倍氏の防衛政策を踏襲した。今年5月にバイデン米大統領が来日し首脳会談をしたさい、防衛費の大幅な増額を約束した。バイデン米大統領は、中国が台湾に侵攻したら米国は台湾防衛に関与するかと記者に問われ、「イエス」と答えた。今回、岸田首相が国民に十分な説明をすることもなく防衛3文書の決定を急いだのは、来年1月にも訪米し、バイデン大統領に防衛費倍増の報告をしたいからだと見られている。

しかし、いざ台湾有事となった際に、必ず米国が軍事介入するとは限らない。米国がウクライナ戦争に介入しないのは、第3次世界大戦に発展することを恐れるからだ。同様に、核保有国であり、経済大国でもある中国とコトを構えるのは避けたいはずである。中国だって、下手に台湾に手出しして米国の介入を呼び込みたくはないだろう。経済制裁や輸出管理によるダメージは計り知れないのだ。

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それでも、事態が切迫していると考える日米の安全保障専門家は多い。元国家安全保障局次長の兼原信克氏もその一人。夕刊フジの記事に掲載された兼原氏の主張の一部を抜粋した。

習氏は、幅広い国際的知見や、複雑な現代経済運営のノウハウを持たない。鄧小平を超えたと自負する彼が、毛沢東を超える偉人となる方法は「台湾併合」しかない。自由の島となった台湾人のほとんどが、独裁中国との併合など望んではいない。ならば答えは武力行使しかない。

兼原氏は、習近平氏が力ずくで台湾併合をはかる可能性が高いと指摘。そのうえで、以下のような状況を予測する。

今、台湾有事になれば、無能に近い日本のサイバー防衛を突破した中国軍のサイバー攻撃が、沖縄や九州の電力をブラックアウトさせるであろう。(中略)米軍は、中国の「A2AD(接近阻止・領域拒否)戦略」の下で、ずらりと並んだ対艦ミサイルや爆撃機を恐れて、はるか太平洋の遠方から飛び道具で応戦する。(中略)前線にいる日本の自衛隊はそういうわけにはいかない。巨大な中国軍と正面で対峙するのは、わが自衛隊である。

米国が軍事介入したとしても、日本の自衛隊を前線に立たせ、米軍ははるか太平洋の遠方から参戦するだけだろう。だからこそ、日本を守る自衛隊の飛躍的な能力増強が必要だ、というのが兼原氏の結論である。

しかしこれは、米側のいいなりになって集団的自衛権の行使を容認した結果、日本は台湾有事の際に最前線に立たねばならないところに追い込まれた現実を物語っている。

安倍元首相を米国側から操ってきたのが「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる米国人たちだ。代表的なのが、米シンクタンク「CSIS」のリチャード・アーミテージ(元国務副長官)やジョセフ・ナイ(元国防次官補)、マイケル・グリーン(ジョージタウン大学外交政策学部教授)の各氏。彼らと安倍氏の親密な関係はよく知られている。

2020年12月7日に公表された「アーミテージ・ナイ報告」は、日本の防衛費について、「GDPのたった1%で、中国の国防予算に比べるとごく僅かな額である」と指摘した。ちなみに20年度の中国の国防費はGDPの1.75%だった。

こうした米国からの圧力と、自民党内のタカ派議員の突き上げを受け、戦後、政府が一貫して「持たない」としてきた「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を持つことにしたのが、今回の防衛政策大転換だ。倍増させる防衛費の使途について、岸田首相は「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということです」と言明した。

実際に攻撃を受けていなくとも、着手したと判断すれば、こちらから攻撃できる「反撃能力」の保有で、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を得られると言うが、本当だろうか。日本にとっては単なる気休めに過ぎず、相手国から見れば、攻撃材料になるだけではないのだろうか。

日本を守るという観点からいえば、危機的状況にある少子化問題も、いよいよ切迫してきた。今年の出生数は過去最少を更新し、初めて80万人を割り込む見通しだ。このままでは国の衰退は避けられない。

岸田首相は子ども関連予算の「倍増」も目玉政策に掲げてきたはずだが、こちらの「倍増」は先送りされた。岸田首相は声の大きいほうにばかり「聞く力」を発揮しているのではないだろうか。

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image by: 首相官邸

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