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北方領土問題も解決か。ウクライナへの「武器援助」で達成される日本の悲願

欧米歴訪出発前の1月6日、ゼレンスキー大統領と電話会談を行った岸田首相。昨年は防弾チョッキやヘルメットといった防衛装備品をウクライナに提供した日本政府ですが、仮に武器供与を求められた場合、我が国はどう対応すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況を詳しく紹介。さらにウクライナへの武器援助によって日本が得られるメリットを解説しています。

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ウクライナ軍への「武器援助」で日本側にメリットはあるか?

2月24日のロシアのウクライナ侵攻で戦争が始まり、10ケ月が経ち、ロ軍装備・弾薬が枯渇してきたようだ。そして、ウ軍支援は、日本にとって直接的なメリットが存在する。それを検討しよう。

ロ軍の兵器や弾薬が底を突いてきたようである。戦車が前線に出てこなくなり、準備砲撃の支援もなく、ロ軍は人海作戦の突撃が中心であり、ウ軍の餌食にされている。

弾薬枯渇が見えるのは、2022年6月にはロ軍は1日6万発の砲撃が、2022年12月には、1日2万発の砲撃と大きく減っているからである。

ベラルーシ軍が持つ砲弾もすべてロ軍に送ったともいう。

ロシアの砲弾工場の生産は、1年30万発であるが、その砲弾を5ケ月で使い切るので、砲弾の備蓄を使うことになり、2013年時点では260万トンの貯蔵があったが、それも使い切り、それより古い40年前の砲弾備蓄も尽きてきて、北朝鮮やイランから砲弾を買い集めたが、それもなくなったようだ。今はロシア製武器を使う主にアフリカ諸国から集めているようだ。

その結果、1日の使用数を削減する必要があり、攻撃箇所を絞ることになったり、突撃攻撃の支援をしなくなった。

それと、戦車が不足してきて、T-54/55やT-62、1958年に登場し、1970年代後半まで生産された50年以上前の戦車を引っ張り出してきた。

このように、ロ軍は行き詰まって戦術・戦略に大きな変化がでてきた。分隊レベルの単純な突撃を繰り返していたが、兵員を集め、砲撃も集中してきた。

もう1つ、ロ正規軍とワグナー軍やカディロフ軍が補給を巡り摩擦を起こしている。このため、各軍の間の連携はないようである。バラバラな行動になっている。

バフムト・ドネツク方面

ロ軍は、バフムトに戦力の大半を集中させているが、バフムトからソルダーやバクムツクに攻撃重心を移しているようである。

これは、バフムトを占領するには、ロ軍はソルダーを占領し、バフムトとソルダーの間の高地制圧を目指しているからである。このため、ロ軍はソルダーを包囲しようと懸命になっている。

もう1つ、ワグナー以外の傭兵部隊もいて、南アのエグゼクティブアウトカムズの傭兵やアフリカ各地の傭兵部隊というか、アフリカ諸国の正規軍がいるようだ。アフリカ諸国の財政事情から、自国軍を派遣して、収入としているようである。

プリゴジンのロシアの囚人兵だけでは手が足りないので、アフリカからも傭兵というか正規軍人を入れている。戦争慣れしているので、アフリカ系傭兵は手ごわいとウ軍狙撃兵は言う。

そして、ワグナー軍がバフムトに固執するのは、プリゴジンが、塩と石膏の鉱山を得たいためと、ホワイトハウス高官は言うが、そのアフリカ系正規軍を駆使して、ワグナー軍は1月6日に、ソルダー近郊の岩塩鉱に到達し、現在、ソルダーの街の約半分を支配したようだ。ソルダーとバクムツクのウ軍は退却した。それにしても、プーチンの停戦命令をワグナー軍前線部隊は無視のようである。

ロ軍は、ベレストーブとヤコブリフカも占領し、続いて、ロゾドリフカとソルダーに進軍して、ロゾドリフカの攻撃はウ軍により撃退されているが、ソルダーは攻撃が成功したようである。

ソルダーにロ正規軍が出て来たという事は、バフムトを取る為ではなく、リシチャンスクを守るのが目的とも考えられる。

このほかの地域も攻撃をしてくるし、防御するが、前線に変化なしですね。陣地戦は動かない。マリンカも市街地はウ軍が押さえている。オプトネは両軍の攻防が激しい。

クデュミフカとオザニアニフカの閘門をめぐる戦いは続き、今のところは、ウ軍が維持している。しかし、この方面全体では攻撃する箇所が減っている。バフムト周辺とアンディーウカ周辺、マリンカなど数か所に攻撃を絞っている。

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スバトボ・クレミンナ攻防戦

クレミンナの北と南と西の3方向から攻撃しているが、ロ軍もクレミンナ防衛に大量の動員兵と装備を投入して、多くの犠牲が出ても守るようである。ヘルソン州の動員兵部隊も投入している。

ウ軍は、偵察隊を出して、損害を少なくして攻撃をしている。ウクライナ全体が暖冬であり、このため、泥濘が続き、機甲部隊が使えないことで、進軍スピードが遅くなっている。

それでも、クレミンナから5kmのところにあるディブロバまでウ軍は進み、クレミンナ市街迄まであと少しである。

ウ軍は、スバトボへも一歩一歩前進しているが、こちらも偵察隊を多数出して、ロ軍の状況を見て、攻撃している。こちらも泥濘が続き、機甲部隊が十分に使えない。

ヘルソン州・ザポリージャ州

ロ軍は、凍死多発が報じられた頃からロ兵を大きな建物に集結させた。その宿舎をウ軍のHIMARSで攻撃されて、多大な損害を出している。

12/31には、ヘルソン州のチュラキフカ村の動員兵のいる軍事基地を攻撃、ウ軍発表では500人死傷である。1/1には、ドネツク州のマケエフカで、深夜0時1分に動員兵が宿泊していた学校を攻撃で、ウ軍発表では400人死亡、300人負傷で、ロ軍発表では89人死亡となっている。1/2には、ザポリージャ州のトクマク、メリトポリ、ベルジャンスク、ポロヒー、ヴァシリフカといった地域の軍事施設を攻撃、ウ軍発表では260人死傷。1/3には、ザポリージャ州のトクマクで、動員兵のいる元結核診療所の建物攻撃して、ウ軍発表では80人死傷。1/4には、ザポリージャ州バシリフカのロ軍司令官事務所を攻撃して、死傷者多数。その後、ザポリージャ州ヴァシリフカのロ軍司令官事務所で爆発。トクマクの中心部にあるレストラン「Shokolad」を拠点としたロ軍基地を攻撃。

ウ軍参謀総長によると、ウ軍は過去24時間にロ軍の集中地域に対して、20回の攻撃したという。HIMARSとM270多連装ロケット弾の威力で、ロ軍は排除されている。このため、12月後半から1日ロ軍兵500人以上の戦死者を出し、このところ、800人程度の戦死者になっている。

ロシア・ウクライナの状況

プーチンはロ軍に、ロシア正教のクリスマスに合わせて現地時間6日正午(日本時間6日午後6時)から36時間攻撃を控える停戦命令を発出した。しかし、ゼレンスキー大統領は、一時的な停戦を否定し、「ロシア兵士がわれわれの土地にいる間、戦争は続く。ロシア兵が去るか、われわれが彼らを追い出したときに戦争は終わる」と強調した。

プーチンはおそらく「ウクライナが停戦に応じない」とのストーリーをアピールして、ウクライナを貶めることと、トルコのエルドアンから停戦を求められたので、エルドアンの顔を立てたことと、もう1つに、ロシア正教の庇護者としてのプーチンをアピールするためでしょうね。

事実としては、バフムトでは、停戦開始時刻が過ぎた後、双方向からの砲撃があり、ロ軍は東部クラマトルスクも攻撃。さらに南部ヘルソンでも消防署がロ軍の攻撃を受けたという。停戦は事実上はない。

そして、1日800人前後が戦死する環境で、30万人を集めた第1次動員の兵員だけでは、兵員不足になり、プーチンは「祖国防衛は神聖な国民の義務である」と述べて、ロシアの歴史的な領土とロシア語話者の保護は義務というが、戦っている場所は、ウクライナ領土であり矛盾しているが、1月15日からロシアの第2次動員が始まるようである。50万人規模であるとウ軍スキビツキー情報局副議長は言う。

2次動員開始とともに、ロシアは動員対象年齢男性の出国を完全に禁止した。これに関しては、ロシア中央銀行のエルビラ・ナビウリナ総裁は、金融機関に対して、支払いを怠る顧客をリスト化して、軍当局に対して召喚状を出すよう要求したと言う。囚人の次には借金の返済できない人が、火砲の餌として優先的に回されることになるようだ。

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もう1つが、ロ軍苦戦、ウ軍優勢の状況で、プーチンはロシアが現時点で誇れる極超音速ミサイル「ツィルコン」搭載フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」を大西洋に派遣したことを明らかして、欧米を威嚇して、ウクライナ支援を止めたいようである。欧米の防空システムでも迎撃は難しいので、核搭載可能でもあり、脅しには有効であるからだ。

そのため、早速、ノルウェー海軍は、ロ軍フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」を追尾し始めた。今後、欧米諸国海軍が順番に追尾することになる。

ロ軍ツィルコンは、マッハ6~8であるが、米軍のLRHWダークイーグルはマッハ14前後、AGM-183A ARRWはマッハ6.5~8であり、対応手段はあることは知っていてほしい。極超音速ミサイルは、ロシアだけではない。米国も開発中であり、実戦配備予定である。

そして、米国は「ブラッドレー」、ドイツは「マルダー」、フランスは「AMX-10RC」と各歩兵戦闘車を訓練プログラムと合わせて提供することになった。

ブラッドレー歩兵戦闘車の供与は50両で、マルダー歩兵戦闘車が40両で、AMXー10RCは供与される数や提供時期は、不明であるが、欧米製戦闘車両が始めて提供されたことになる。マルダーは5月頃であり、春の反攻には間に合わないようだ。

ポーランドは、手持ちのレオパルド2戦車をウ軍に供与するとして、ドイツの承認待ちになっているようであるが、今のところドイツは認めないという。

そして、春に、ブダノフ情報局長は、ロシアに対する大規模な反攻を計画していると述べ、戦闘が3月に「最も激しくなる」とした。

現状は、戦車や火砲の数だけ見ると、ロ軍の数が、ウ軍の数の倍程度もあり、ロ軍優勢であるが、高精度攻撃がウ軍はできるので、ウ軍が現状、優勢になっているのだ。しかし、今後、ウ軍に欧米戦車が届くと、数の上でも、精度の上でもウ軍が勝るので、ロ軍は敗北に近くなるようだ。

もう1つ、ウクライナにドイツからもパトリオットが届くことになった。シースパロー艦対空ミサイルもウ軍に供与され、ブーク地対空ミサイルシステムを改修して載せるという。

ロシアは、イランから1,750機のシャヘド131、136のドローンをSU-35戦闘機24機と交換するが、このドローンを使ったインフラ攻撃をしている。

しかし、徐々に防空システムが揃い、シャヘドは今まで全機540機の迎撃に成功しているという。ロ軍は巡航ミサイルとドローンを混ぜて、飽和攻撃するので、ミサイルでインフラに被害が出ている。

1月の攻撃では、黒海艦隊ではなく、カスピ海艦隊から巡航ミサイルを打ち出し始めた。クリミア半島への補給路がウ軍の攻撃で十分機能していないようである。黒海艦隊の安全も確保できなくなり、黒海艦隊の代わりにカスピ海艦隊を使い始めている。

ウ軍の航続距離1,000kmの無人機「キジバト」が運用開始になり、黒海艦隊や最深部にあるロ軍空軍基地も攻撃可能になる。量産体制も整い、ウ軍の強力な武器になる。この「キジバト」は、偵察でも自爆でも爆弾投下、魚雷投下もできるので、ロ軍も侮れない。しかし、エンジンで動くので、速度は出ない。

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そして、今、ウクライナや欧州は、暖冬であり、昼間は12℃の気温であり、凍結しないために、装甲車が使えない状態であり、戦闘上は問題があるが、プーチンの天然ガス供給断でのエネルギー危機を欧州で起こし、ロシアの天然ガス供給を望む欧州からの声で、ウクライナ戦争を有利にする戦略は、失敗になったようである。

暖冬で、エネルギー消費が多くなく、欧州各国ともに、この冬はLNGガスで間に合いそうである。また、ウクライナは、各国から支援された518基のボイラーハウスをすべて稼働させている。極寒でも軍・民間の需要に応える準備ができているという。

ロシア国内で、火災が頻発しているが、ウクライナに味方する「自由ロシア軍」は、361の地域にいて、今までに1,867回活動をしたという。火災の多くがこの破壊工作なのであろう。

最後に、岸田首相とゼレンスキー大統領が電話会談をして、キーウに岸田首相は招聘された。G7のうち5ケ国を相次いで訪問し、5月に広島市で開くG7首脳会議に向けて、議長を務める首相は各国首脳に協力を要請するが、その途中でキーウに立ち寄るのであろうか。

日本は、ウクライナが勝てば、北方四島が返還されるので、武器援助の投資に見合うことになる。米国や欧州とは違い、より直接的なメリットが日本には存在するということを見る必要がある。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年1月9日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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