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最後はプーチンが直接陣頭指揮か。総司令官交代劇に見る露の窮状

到底受け入れがたい主張を振りかざし、無辜のウクライナ国民の命を奪い続けるプーチン大統領。1月15日には国営放送のインタビューで軍事作戦の推移について順調さをアピールしましたが、果たしてそれは信用に足る言なのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の戦局を振り返りつつその真偽を検証。さらにロシア政府要人の西側諸国に対する反発を紹介するとともに、この戦争の行方を考察しています。

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ロシア軍、バフムト・ソルダー攻防戦でウクライナ軍を押し切る。今後のプーチン戦術は?

バフムト・ソルダーの攻防戦で、ロ軍は、ウ軍を押し切った状態であるが、今後を検討しよう。

ロ軍の装備増強が必要であり、軍需企業に装備の早期増産を強制している。人海作戦でも装備がなく、負けているからであり、かつ、前線部隊や動員兵たちからも不満が出ていることで、戦争に行き詰まっている。

弾薬枯渇が深刻で、攻撃地点を絞るしかないし、装備が不足しているため、ロ軍は、ますます歩兵突撃攻撃を行うしかない。

ウクライナのアンナ・マリャル国防次官は、ロシアがドネツク地域で自国の軍隊を強化するために、ロシアやベラルーシの訓練場から、比較的長く訓練された動員兵を投入してきている。このため、従来より、ロ軍の防御・攻撃が厳しくなっているという。

バフムト・ソルダー方面

ロ軍は、バフムトに戦力の大半を集中させているが、バフムトからソルダーやバクムツクに攻撃重心を移し、ロ軍正規部隊とワグナー軍が合同でソルダーを攻撃してきた。この攻撃が、犠牲覚悟の突撃の波状攻撃で、ソルダーのほとんどを制圧するという成果を出している。

ワグナーとロ正規軍との反目で、このままでの指揮がまずいと、総司令官のスロビキンを副総司令官に格下げして、ゲラシモフ参謀総長が総司令官になった。この人事を見て、危ないとワグナー軍は必死に攻撃した結果である。

ソルダーでの戦いは市街戦になり、両陣営の激しい戦いになっている。最初、ウ軍国境警備隊が、ワグナー軍とロ軍に挟み撃ちになり、退却し第46空挺部隊の増援を受けて、ワグナー軍を押し戻したが、ワグナーも再編増強し、ウ軍を市内西部まで再度押し戻した。

しかし、ワグナー軍に多大な損害が出ている。ウ軍は、ワグナー兵100人以上を砲撃で殺害したという。しかし、ワグナー軍は、ウ軍の服を着て戦い、だまし討ちしているし、火炎放射器を出してきて、それで市内の建物を焼き払っている。

焦土作戦をワグナー軍は、行っている。ウ軍は、苦戦中であり、ソルダー市内をいつまで維持できるかわからない。ロ軍はソルダーを包囲しようとしている。

しかし、包囲が完成すると、ソルダーのウ軍は退路が遮断される可能性が高い。ここは、鉱山都市であり、坑道が縦横無尽にあり、抵抗を続けることはできる。

その中、ソルダーの防衛戦に特殊部隊クラーケン(昨年3月結成、ハルキウ州防衛・解放で活躍、アゾフ連隊出身者や新たな志願者等で構成)と外国人部隊も参加しているとゼレンシキー大統領は言う。

しかし、クラスノ・ホラまでワグナー軍は進出しているようであり、ウ軍のバフムトへの補給路を切断するために、攻撃の手を止めていない。

そして、ロシア国防省は13日、ドネツク州の要衝バフムトの近郊にあるソルダーを制圧したと発表した。

ロ軍はソルダーの北方で進撃しており、シル(Sil)という集落まで前進し、両軍が相争う状況になっている。ウ軍に穴ができた状況であり、とうとう、ウ軍兵も激しい戦闘が続くソルダー市を離れ始めた。T0513主要道後方に陣地が整った後、総退却になっている。

しかし、米国務省のパテル副報道官は13日、「クレムリン自身も、ソルダー進攻の決定の代償は高くついたと認めた」と発言した。ワグナー軍の大部分を投入したことで、戦闘能力を大きく損耗した可能性がある。

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スバトボ・クレミンナ攻防戦

クレミンナの北と南と西の3方向から攻撃しているが、ロ軍もクレミンナ防衛に精鋭の空挺部隊を投入し、ベラルーシで長いこと訓練された400名の部隊を投入するようである。ロ軍精鋭部隊を大量投入して、死守するようである。

ウ軍機甲部隊が、気温が下がりやっと動ける状態になり、本格的な攻撃を開始できるようであり、進軍スピードが早くなる。

ロ軍に歩兵用対戦車ミサイルがないので、防衛戦は苦しいことになりそうで、地雷をどんどん仕掛ける方法での防衛維持になるようだ。

ウ軍は、スバトボへも一歩一歩前進しているが、こちらも機甲部隊が使えるようになったことで、進軍スピードが早くなる。

この地域は、マイナス20℃にもなり、凍りついた塹壕の中でロ軍兵がロ軍上層部に対する不満を訴えている。最前線部隊にも防寒服はなく、塹壕には暖房設備もない。

ヘルソン州・ザポリージャ州

ロ軍は、凍死多発が報じられた頃からロ兵を大きな建物に集結させた。その宿舎をウ軍のHIMARSで攻撃され続けている。パルチザンが、ロ軍兵の集結している建物を探して、ウ軍に報告している。

ベラルーシ国境

ウクライナ北西部のベラルーシ国境付近は、決壊した河川堤防、浸水した野原が数マイルにわたって見られる泥濘状態であり、ベラルーシ側からの攻撃は、当面困難なようである。もう1つが、地雷原もあり、地元民から集められたウ軍ボリーニ領土防衛旅団によって守られている。

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ロシアの状況

ロシア国防省は11日、ウクライナでの軍事作戦の指揮をとるスロビキン氏に代わり、ゲラシモフ参謀総長を新たな総司令官に任命したと発表した。

国防省とワグナー軍の反目に対して、国防省優位をプーチンも認めたことでの人事であろう。もう1つ、国家総力戦になり、国軍の全体を指揮する参謀総長が司令官になるしかない状態になったことが大きい。これで、特別軍事作戦という1つの作戦ではなく、国家総力戦に衣替えしたことになる。

しかし、ゲラシモフ参謀総長での戦争がうまくいかないと、最後はプーチンが直接陣頭指揮するしかなくなる。そうなる可能性も大きいような気がする。

国家総力戦になり、ロシア政府は、今まで18~27歳だった徴兵対象を30歳まで引きあげ、200万人規模の徴兵を実行するようである。装備がない状態で戦争に勝つためには、歩兵の無駄の多い突撃作戦しかありえない。ソルダーで、その攻撃が有効であると示している。

もう1つが、50万人ともいうアルメニア、ジョージア、タジキスタンなどに、逃げていったIT技術者をロシアに戻すために、IT技術者の兵役義務解除するとしたが、ロシア政府はさんざんうそを言っているので、信用しないようである。

そして、火砲や弾薬も不足して、砲兵訓練をした動員兵も、歩兵として前線に送っている状態である。無駄な突撃で多くの若者が、死んでいくことになる。

このため、プーチンは、ロシアの防衛産業が戦争装備、兵器生産不足、特に航空機生産不足であるとの批判に対して、スケープゴートを探しているようで、11日の閣僚会議で、デニス・マントゥロフ副首相に対して、防衛企業との契約遅れと生産遅延を「ふざけているのか」と叱責した。

しかし、防衛企業も契約すると、期限厳守であり、欧米からの航空機、関連部品、スペアパーツの供給禁止であり、遅れると刑事罰になるとのメドベーシェフの威嚇もあり、そう簡単に契約できない。特に工作機械のメンテができないので精度が出ないことや高度な半導体がなく、製品の質を下げて、生産するしかなく、その改造設計に手間がかかっている。

T-55やT-64などの50年前の戦車は、高度な半導体が使われていないので、今後、その戦車の手直しになるようだ。最新鋭航空機は無理で、数世代前の航空機で我慢するしかないし、ミサイルも精密誘導は無理であろう。

もう1つが、プーチンは、負傷兵で手足を失った人が多いことで、義肢が必要で義肢装具士の動員免除をするよう指示した。

もう1つが、戦費も膨大であり、ロシアのウォロジン下院議長は13日、ロシア国外に逃亡し、ロシアの国家や軍隊を「侮辱」したロシア人の財産を差し押さえるとした。海外逃亡のオリガルヒの資産没収になる。ロシア国内企業などからも、利益の50%以上の税金を取り立てることにして、軍国ロシアを作ることになる。一般国民の税金も大幅な増税になる。国家総動員である。

この戦争に勝つために、プーチンは、200万人の軍隊を創設する計画であり、防衛産業への学徒動員も予定しているようである。すべての人民を戦争に駆り出すようだ。そして、ロ下院軍事委員会のソボレフ元中将は、来るべきNATOとの決戦のためにはロシアの若者全てに半年以上の軍事訓練を受けさせるべきだと主張している。

しかし、ロ軍はウクライナへのインフラ攻撃を防衛産業のミサイル生産スピードに合わせるしかなく、ウ軍ナタリア・グメニユク報道官は、「おそらく、大規模なミサイル攻撃が準備されているでしょう。しかし、彼らが準備するのに10日から14日かかります」とのことである。

その言葉通りに14日にミサイル攻撃があった。ドニプロ市集合住宅への対艦ミサイル着弾で集合住宅が半壊して、死者数が12名、負傷者数が64名となっている。キーウにはS300ミサイルと巡航ミサイル38発の攻撃中25発を迎撃したという。キーウでの被害は、今のところ、報告されていない。

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というように、ロ軍のインフラ攻撃は続くが、地対空ミサイルシステム「パトリオット」が2台ウクライナに供与される。このシステムと今までのNASAMSなどの防空システムを連携すると、防空体制は完璧になるという。

その上、インフラ攻撃でウクライナ人は、ビクともしないことで、戦争目的を達成していない。ミサイルを軍事目標に使わないことで、ウ軍自体の被害は少ない。攻撃効率が低いことになっている。

それと、ロシアのアントノフ駐米大使は10日、米国がウ軍に対し「パトリオット」の使用訓練を実施する方針を示したことについて、ウクライナでの戦争に米国が参加しているさらなる証しだと指摘した。インフラ攻撃の無効化になるので、ロ軍の攻め手が、また1つなくなることになる。

その上、イスラエルは、ウ軍にドローンやミサイルに対してのスマート警告システムを提供することになった。これで、ゲバルト対空戦車などでの撃墜率が上昇することになる。防空システムが揃い、ロ軍のインフラ攻撃の効率は、相当、下がることになる。

ポーランドのドゥダ大統領とリトアニアのナウセダ大統領は、ウクライナ西部リヴィウを訪問してゼレンスキー大統領と会談して、レオパルト2戦車10台と砲弾を提供するとしたし、英国はチャレンジャー2戦車12台を供与するとした。とうとう、欧米製戦車が提供され始めている。徐々に、ウ軍は増強されることになる。

しかし、レオパルト2戦車供与に否定的なシュルツ首相は、日本と同じように交戦国への攻撃兵器譲渡を禁止しているので、先頭に立って戦車供与はできない。

ということで、ドイツは、米国が動かなければ動かないので、M1エイブラムス戦車を米国が供与しないと、レオパルト2戦車の提供をドイツは承認しないという。

しかし、ドイツ政府は、1月20日にラムシュタインのアメリカ空軍基地で開催される国防高官会議の前にウクライナへのレオパルト戦車供与を決定する予定であるとの情報もある。

そして、M1エイブラムス戦車は生産中止であり、米国もメンテして使用しているので、提供できない状態であり、象徴的な意味での1台の米戦車供与するか、英国のチャレンジャー2戦車提供でドイツは戦車提供承認をするか、米独の決定を持ちたい。

そして、ロ前大統領のメドベージェフは14日、ウクライナでのロシアの核使用は「人類に対する敵対行為」になると警告した岸田文雄首相とバイデン米大統領の共同声明について「とてつもない恥で、コメントすらできない妄想」と非難し、岸田氏が「閣議で切腹するしかない」と強く反発した。

核兵器を使用した唯一の国は米国であり、その被害を受けたのが日本であることを岸田氏は「完全に無視し、米大統領に謝罪を求めることもしなかった」と指摘したが、米国は既に核兵器使用が間違いだったと謝罪している。

ロシアは、核使用の可能性があり、世界は警告しているのである。

EU内

EU内でも、ハンガリーはウクライナに武器を供給しないし、自国領内を経由して輸送する計画もないとハンガリー首相府の責任者が述べたし、セルビアでもロシア支持が多い。

EU内でのハンガリーは異端児であり、その排除をするべき時期に来ていると思う。安全保障は、経済より優先であり、その面で相反する考え方の国は、排除しかない。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年1月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Free Wind 2014 / Shutterstock.com

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