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価値観の押し付けに辟易。欧米を見切って中国を選び始めた第3極の国々

米中の対立が激化する国際社会において、表向きそのどちらの側にも属すことのない「第3極」と呼ばれる勢力。しかしそんな国々が近年、中国寄りの姿勢を見せることが多くなってきています。何がそのような状況を招いているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、欧米諸国より中国に賛同を示す国数が増加している理由を解説。その上で、近々日本が直面することになる問題を提示しています。

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外遊で「欧米側」を選択した日本の立ち位置におぼえる一抹の不安

G7広島サミットに向けての支持取り付けと“腹合わせ”のために、非常にタイトなスケジュールでフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国と歴訪した岸田総理。

「核なき世界の実現」というライフワークへの理解と広島サミットでの何らかの進展を願う思いを伝え、世界経済の重しとなるコロナからの回復、エネルギー・食料危機への対応、プレゼンスを増す中国の存在への対抗策、そして何よりもロシアによるウクライナ侵攻に対するG7としての一致した対応を共有・確認する外遊だったのではないかと思います。

総理の帰国後、外遊の成果を伝えるメディアは総じてフレンドリーだったと感じましたが、それでも「外交的成果が政権の支持率回復に貢献する」という方程式は成立しなかったように思います。

ただ今回の外遊で鮮明になったことは【日本はよりG7、欧米寄りの姿勢を取ることを選択した】という評価ではないかと感じます。

その可否はなかなか判断しづらいところですが、アジアにおける先進国で、かつ世界第3位の経済規模をまだ持ち、技術レベルも教育レベルも総じて高いというアジアにおける“特殊な”立ち位置を日本は活かすことが出来るのか?という一抹の不安を感じています。

そのように感じさせた要因の一つが、多国籍の専門家たちといろいろと協議し、意見交換をした際に投げかけられたある問いでした。

「どうして中国は包囲網の対象にされるのだろうか?」
「何か他国から罰せされるようなことをしたのか?」

新疆ウイグル自治区での行動…
香港での思想の強制と自由のはく奪…
反政府活動家の失踪と弾圧、迫害…
経済力と軍事力のミックスで周辺国に強引な対応を取り、勢力圏に引き込んでいく姿…
戦狼外交姿勢…

他にも“批判材料”は挙げられるかと思いますし、私自身、先に挙げたような行いに対して微塵も支持を表明する気はないですが、包囲網まで敷かれて非難され、敵対するような状況を他国に作られる理由かと言われたら「そうだ」と答えられない自分がいました。

議論の中で出てきたアイデアを、非難を覚悟してお話ししますが、ご了承ください。

新疆ウイグル自治区で行われていることが濃厚なウイグル民族への弾圧と思想教育の強要については、決して支持はできませんし、その他の出来事・事件についても同じですが、「でも、これらは中国の国内政策であり、それに他国が異を唱え、一方的に制裁措置に出ることは、内政不干渉の原則に反するのではないか」という考えが示された際、例え難い不思議な感覚ともどかしさを覚えました。

虐殺や迫害、人権の蹂躙などといった事例に対して国際社会(他国)が声を上げ、懸念を表明することは自由ですし、権利でもあると考えられますし、不買運動などを一方的に宣言し、「そのような姿勢を取る国とは付き合えない」と絶縁状を突き付けるところまでは腑に落ちるのですが、徒党を組んで対立構造を鮮明化させ、包囲網を敷くというのは、少しやりすぎではないか?と。

どちらかが善で、それに従わないものは悪という二分論が透けて見える気がします。

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旧ユーゴスラビア紛争、コソボ紛争、イラクに対する多国籍軍の対応、アフガニスタン紛争など、私自身も直に関わった案件を後から見てみると、悪い者とそれにいじめられているかわいそうな者、そしてそれを助ける優しい人たちという構図が意図的に作られたことを思い出してしまいます。

それぞれのケースについて詳細に説明することはここでは避けますが、“情報”が作り上げたイメージによって善と悪という二分論が必ず成立されるという事態になりました。

旧ユーゴスラビアではセルビア(ミロシェビッチ大統領)を悪者とした半面、同じような蛮行を行ったことが分かっているクロアチアは“守るべきもの”として欧米諸国も国連も支援を行い、セルビアという共通の敵を創り出してしまいました(クロアチアでそれを指摘した際、とても嫌な顔をされ、それからしばらく、虐められた記憶がありますが、その後、このことについていろいろと意見交換する場を持つことが出来、相互理解が深まりました)。

似たようなことがほかの紛争でも行われ、私たちの中に無意識に二分論のイメージを焼き付けてしまいました。

オバマ政権後期から始まり、トランプ政権で先鋭化した“米中対立”も同様に、私たちの考えや姿勢を無意識に二分論の罠に誘い込んできたように思います。

想像を絶するスピードで中国は経済成長を遂げ、全方向的に中国依存を強める結果をもたらしたことで、中国は、バイデン大統領の表現を借りれば、「米国にとって唯一の競争相手」の地位に座ることとなりました。

先日亡くなった江沢民氏の時代に中国市場に自由経済が持ち込まれ、これまで地位が低いとみなされていた民間企業の経営者などをgrowth engineとして取り立てたのを機に、胡錦濤国家主席と温家宝首相時代を経て、今、年間GDP成長率は低下しているものの、中国経済はアメリカ経済に次ぐ世界第2位の規模を誇り、いつ世界第1位の座を奪うのかというカウントダウンが始まっています。

一帯一路政策を通じてアジア・アフリカの国々は中国と結びつき、経済的な成功を手にしたものもいれば、債務地獄に陥り、借金のかたに中国に次々とインフラ施設を取られる国も多数発生しました。

その手法を厳しく非難する声も多く、また債務超過に陥った国々や中国に利子支払い猶予を依頼しなくてはならない国のリーダーなどは“中国に騙された”と糾弾する者もいますが、それを自業自得と非難するグループもあります。

そこに中国の軍事力が量的に格段に拡充されると、アジア太平洋、特に南シナ海周辺で各国との衝突が散見されるようになり、軍事力による圧倒も見られるようになりました。

そしてウクライナ侵攻前のロシアと組んで国家資本主義体制を作り、次々とその勢力圏を伸ばし、それはまるで、かつてアメリカに代表される資本主義自由社会圏とソビエト連邦に代表された共産主義・社会主義経済圏との対峙というブロック化の様相も示しています。

米ソ冷戦時代の構図とは違いますが、米中対立の構図は新たなブロック化をイメージさせます。

問題は、それをどちらかが正しくて反対側が間違っているというロジックがまたぶり返し、ソ連崩壊後、唯一の超大国となったアメリカが、その余韻に浸る間もなく、新たな“敵”を探し出したことにあると考えられます。

言い換えると欧米諸国に挑戦を仕掛けてくるものを叩くという風潮です。かつて日本もバブル期に随分と嫌がらせされたのは記憶に新しいかと思います。

現在、その相手こそが中国です。

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欧米に代表される基本的人権の尊重、報道や表現の自由という権利に対して私は100%支持しますし、国際法を実務に適用する身としては、それらの理念は私の判断基準にもなっていますが、あえて問うのは「その基盤となっているのは、“だれの価値観か”?」ということです。

その価値観を唯一の善と見なし、それに従わないものは悪というレッテルを貼ることで対峙して、価値観の押し付けに走るという姿、そしてそこから起こる戦争という悲しい歴史は何度も繰り返されています。

“国際社会”、そして中国・ロシア包囲網のグループが、昨今の中国が経済力と軍事力を盾に勢力圏を拡げる姿を非難し、警戒を強めていますが、これはアメリカも今も昔も実行していることですし、予てより西欧諸国がしてきたことではないのでしょうか?

繰り返しますが、私は中国が行っているとされる蛮行を一切評価しませんが、同時に国内で先住民から財産土地を奪ってきた欧米諸国の過去の蛮行を棚に上げて、中国などの現在の行動を非難するのはいかがなものか?と感じるのも事実です。

アフリカ大陸やアラビア半島が不自然な形で分割された元凶は欧州各国による行動でしたし、ラテンアメリカ諸国に対するかつてのスペインの蛮行も、圧倒的な軍事力と経済力などを基盤とした力による蹂躙と価値観の押し付けに他なりません。

各地域が経済的な力を付けはじめ、似たような境遇の国々と集い一つの声を発するようになってきた今、これまで欧米諸国にやられたことを忘れないと同時に、同様の構図での圧力をかけてくるように思われる中国・ロシアに対する警戒が明確に示される中、どちらの極にも属すことがない“第3極の出現”が見られるようになりました。

特徴としては、欧米の影響からの脱却と独自路線の選択を追求し、国際情勢の方向性を決める事柄に足して寄り合って大きな声とうねりを創り出す勢力です。中東各国、アフリカ諸国、中南米諸国が中心となり、そこに東南アジア諸国が加わって、実際には最大の勢力となっています。

その存在がよりクリアに認識できたのが、皮肉なことに昨年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降の各国の対応の温度差です。

ロシアによるウクライナ侵攻そのものに賛同する者は、ごく一部の国を除き存在しませんが、ロシアを国際経済および国際機関の決定から孤立させようとする試みに対しては、賛意を表明しませんでした。

欧米諸国とその仲間たちが形成した対ロ包囲網は、非常に厳しい金融・経済制裁をロシアに課すというもので、アジア諸国や中東諸国、アフリカ諸国などにも加わるように依頼がされましたが、多くの新興国と途上国はそれらのエクストリームな姿勢とは一線を画す決断をしました。

その典型例がインドとトルコですが、その中身については何度もこのコーナーでお話ししていますのでここでは割愛しますが、反ロシアグループとも、親ロシアグループとも距離を置き、事象が起きる都度、対応を決めるという姿勢が特徴的です。

一般的には実利主義と言われていますが、自国にとっての利益をベースに対応を決めるというスタイルを取っており、その姿勢に賛同する国数は増える一方です。

どうしてでしょうか?

それはそれらの国々の多くが長年の経験をもとに得た知見に基づくものでしょう。

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例えば、「欧米諸国はいつも上から目線でああしろこうしろと言ってくるが、いつも命令調だし、これが正しいという言い方だし、おまけに口ばかりで何一つ見返りがない。もううんざりだ」という感情がそうでしょう。

これはアメリカ政府が再三インド政府に対して対ロ包囲網に加わるように要請した際にインド政府が示した反応でもありました。

「助けが欲しいなら依頼すべきところを、どうしてアメリカはいつも上から命令してくるのだろう?そしてどうしてそれにインドが従わなくてはならない理由があると考えるのか?ナンセンスだ」

「欧米諸国との付き合いで分かったのは、彼らは自分勝手で、いつまでも自分たちのロジックで動き、自らの都合で他国を巻き込もうとする。そして過去の蛮行を棚に上げ、反省することもなく、他国を非難する。それとはもう距離を置くべき時期だろう」

このような姿勢は、戦略的にそれを行うトルコは別としても、東南アジア諸国にもシェアされ、欧米のご都合主義に振り回された中東各国にも採用され、そしてpromises had never been keptを痛いほど経験してきたアフリカ諸国にもシェアされています。

それらの第3極の国々に共通しているのが、「中国はいつも内政問題には干渉してこないし、表向きは相互の経済的な利益にしか関心がないように振舞い、実際にこちらの必要とするものを提供してくれる。もちろんその善意は無料ではないが、欧米諸国にいろいろと内政問題を非難され、制裁を課される度にいつも助けてくれるのは、それなりに評価できる」という反応と評価の存在です。

面白いことに反目しあっているイランとその他のアラブ諸国を繋ぐのは中国ですし、アフリカ東部の国々における中国の影響力は絶大です。

そして相互に経済的に必要とするものを与え合う戦略的パートナーシップを結んでいますが、一切内政問題には口出ししあわないという基本姿勢が共有されています。もちろん債務の罠や、借金の片に港湾などの戦略的インフラを取り上げるという別の側面が、中国の対外戦略に見え隠れすることは、非難の対象にはなっていますが。

ロシアによるウクライナ侵攻後、これらの国々を束ねた外交的な威力がものを言い、ロシア包囲網に穴をあけることに貢献することとなりました。多くの国はべったり中国・ロシアのグループとは言えませんが、第3極に属しつつも、ここ最近の姿勢は中国寄りなのかもしれません。

またこれらの国は、私たちが日々目にし耳にするウクライナ情勢についての見解をシェアしていないことが多くあります。起きていることに対しては強い憤りとシンパシーを感じるものの、どちらが悪いのかという議論には、公の場では与しようとしません(様々な調停グループにおいて、食事をしたり、協議をしたりする際には、“個人的な意見”がたくさん聞けますが)。

話がいろいろなところに飛び、そして内容が若干過激になってきたようなので、このあたりで締めたいと思いますが、最後に私が何度か尋ねられ、まだ答えを提供していない問いをご紹介しておきます。

それは「そのような世界、国際情勢において、日本の軸足はどこに立っているのか?」という問いです。

【インド・太平洋地域という形で表現された“アジア”にその軸足はあるのか?】

【それともより欧米諸国からなるG7と価値観を共有する世界に軸足を置くのか?】

それとも、【かつての日本のように、全方面と上手に付き合い、決して敵対しないという元祖第3極のような世界に軸足を置く道を選ぶのか?】

これからさらに大きな混乱の渦が巻き起こる国際情勢のなかで日本がうまく生存していくためには、軸足を置く場所を明確にする必要に近々直面することになるかと考えます。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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