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岸田文雄vs菅義偉「権力闘争」が勃発。2人を天秤にかける“統一教会の犬”

1月10日発売の『文藝春秋』のインタビューを皮切りに、岸田首相批判を連発する菅元首相。にわかに勃発した「権力闘争」に揺れる自民党ですが、その大波を利用し見事な立ち回りを見せる議員も存在するようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、菅・岸田両氏を二股にかけるがごとき萩生田光一氏の動きを取り上げるとともに、氏の思惑を推測。その上で、岸田首相が今後置かれかねない状況について解説しています。

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岸田vs菅の権力闘争勃発、二股かける萩生田の動向が鍵に

ただでさえ不景気なところに物価ばかりが容赦なく上がり、われわれ庶民の暮らしは世知辛くなる一方だ。こういう時こそ、税や社会保険料など国民負担を減らすべきなのに、どうやら岸田首相は「増税」に頭が囚われてしまっているようである。

1月23日に召集された通常国会の冒頭。施政方針演説で岸田首相は、防衛力の強化をはかるため2027年度から年4兆円の新たな財源が必要になるとして、あらためて増税の決意を示した。「行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約4分の1については、今を生きる我々が、将来世代への責任として対応してまいります」。

不景気の時は減税して庶民のフトコロをあたため、景気が過熱すれば増税で冷やすというのが、政策の常道であり、理にかなったやり方だが、筋金入りの増税論者といわれる岸田首相には通用しないようである。いまどき増税すれば、ますます景気は悪化し、企業の収益が落ちて、結果として税収は減少するだろう。

本来ならこの国会、岸田増税路線を阻むため野党の奮起を期待したいところだが、肝心の野党勢力、とりわけ第1党である立憲民主党の方向性が定まらない。

むろん、反増税のポーズは見せている。今月17日、立憲民主党、日本維新の会など6党1会派が野党国対委員長会談を開き、岸田政権の増税路線にくみしないことで一致したという。

しかし立憲の安住国対委員長は「重要な政策決定を国会審議を経ずして行っている。国民をないがしろにし、国会を軽視するもので容認できない」と述べている。つまり、増税そのものではなく、国会での議論を経ずに増税を決めたことを問題にしているのが少し気になるところだ。

なにしろ最近の野党勢力はバラバラであり、どう動いていくか予測がつかない。増税に明確に反対し、減税を唱えているのは、れいわ新選組と共産党くらいのものだろう。

立憲は昨秋の臨時国会で、維新と組んで統一教会の被害者救済法案を共同提案し、岸田首相をその気にさせて新法成立にこぎつけた。そこまではいいのだが、それに味をしめて、すっかり与党の仲間入りしたかのごとき気分に浸っているようなのである。

今月20日に岡田幹事長が安住国対委員長とともに関西万博の会場となる大阪湾の人工島・夢洲を訪れ「万博はここまで来たら、ぜひ成功してもらいたい。しっかり後押ししたい」と記者団に語ったという。

そのわずか2日前には自民党の茂木幹事長が夢洲を視察し、吉村・大阪府知事、松井・大阪市長と会食して、ぎくしゃくしていた関係の修復をはかったばかり。同じ夢洲に大阪府と市が誘致を進めるカジノ・リゾート(IR)については反対と言いながら立憲幹部が茂木氏に続いて大阪入りしたのは何を物語るのか。

国会における共闘関係を維新の本拠地訪問で固める意図もあるのだろうが、岸田政権との対決姿勢を示し続けることに拘らなくなったからこそ、できる行動ではないだろうか。

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もともと、「消費税を10%まで引き上げる」という方針を決めたのは民主党政権の野田内閣だ。その張本人である野田佳彦元首相は衆議院本会議における安倍元首相への情感こもる追悼演説で自民党議員の心をつかんで以来、自民党に接近しているといわれる。

ジャーナリストの鮫島浩氏(元朝日新聞政治部記者)にいたっては、「野田佳彦元首相を首班に担ぐ大連立構想が自民党宏池会、立憲民主党、そして双方に濃密なルートを持つ財務省で浮上している」とサンデー毎日や自身のYouTube番組などで指摘しているほどだ。さすがに短兵急すぎる見方だとしても、そういう説が出るほど昨今の立憲民主党の立ち位置は不鮮明になってきている。

そんなわけで、増税問題に関しては、岸田首相にとって野党よりもむしろ自民党内の反対派のほうが気になる存在なのではないか。そちらの動向は政局にもつながってくる可能性が大きいのだ。

防衛増税にいち早く反対を表明したのは安倍派を中心とした右派勢力だが、年明けとともに新たな人物が文藝春秋のインタビュー記事やメディア出演で岸田批判の号砲をとどろかせ、増税にも反対の声を上げた。もちろん、菅義偉前首相だ。

一連の動きのきっかけとなったのが文藝春秋の記事である。そのなかで菅氏「岸田総理はいまだに派閥の会長を続け、(それが)派閥政治を引きずっているとのメッセージになり、国民の見る目は厳しくなる」と述べた。

内閣支持率が急降下した原因が宏池会の会長にとどまり続ける岸田首相の派閥政治にあると分析したわけだが、「いまだに」「引きずっている」などの言い回しには、明らかに無派閥にこだわり続ける自らの存在感を高めるための攻撃的な姿勢がうかがえる。

この記事が出たあと、菅氏はメディアへの出演が続き、岸田首相の政策について問われるなかで、少子化対策や防衛力強化にともなう増税路線に異議を唱えた。

安倍氏の死後、菅氏は不完全燃焼だった総理への返り咲き、もしくは河野太郎氏あたりを担いでキングメーカーになることをひそかに狙っているフシがある。今夏の参院選後に25人規模の政策勉強会を発足させる予定だったが、元首相の死という厳粛な状況を考慮し見送った。その後も、「力を合わせて乗り切る時だ」として勉強会は立ち上げていない。

そこに、突然の岸田批判連発である。実力政治家があからさまにこのような動きを示すときには、必ず明確な意図があるはずだ。選挙で国民の意思を問うことも、国会に諮ることもなく増税路線に傾斜する岸田首相の政治姿勢をとらえ、ここが反岸田の旗を立てるチャンスと判断したのではないだろうか。

言うまでもなく、岸田政権は麻生派、岸田派、茂木派の三派で党内主流を形成している。反主流の立場に甘んじている菅氏は、リーダーを失い流動化しつつある安倍派にアピールし、派閥の枠をこえて反増税、反岸田の一大勢力を作りたいと思っているに違いない。

そこで、今後の政局のキーパーソンに浮上してくるのが萩生田政調会長である。萩生田氏は統一教会との腐れ縁が発覚して間もないだけに、総理候補からは外れたといっていい。しかし、岸田首相に直談判して経産相から党の政調会長に横滑りし、マスコミの追及をかわすのに成功するや、持ち前の党務能力を発揮しはじめた。

とりわけ、防衛増税への反発が党内に広がってからの立ち回りは見事というほかない。政調会長の権限を生かして、増税以外の財源を検討する特命委員会を設置し、自らトップに就くことを決めた。そして、すかさず官邸に岸田首相を訪ねて特命委員会設置の意図を説明、岸田首相から「ここはしっかり深い議論をして確保してほしい」という言葉を引き出した。

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長年仕えた安倍元首相が防衛力強化の財源としてかねてから「国債」を挙げていたこともあり、萩生田氏もまた個人的には増税に反対の立場であることは間違いない。なのに賛否両論あるこの問題であえて、とりまとめ役を買って出たのはなぜなのか。

今月19日に開かれた特命委員会の初会合で萩生田氏はこう述べた。

「2項対立ではない。自民党の中で何かこれを巡って対立しているのではなくて、しっかりと建設的な議論をして、有権者の方々に、自民党、そして政府の考え方をしっかりと説明できるように、特命委員会でこれから議論を進めていこう」

つまり、増税か増税反対かという2項対立はやめて建設的な議論をしようというのである。この姿勢には、統一教会の疑惑にまみれた自分を政調会長に起用してくれた岸田首相への気遣いが感じられる。

しかし一方で萩生田氏の動きは、岸田首相に緊張感を強いている。防衛増税を許容するのか、強硬に反対して場合によっては政局につなげるのか。それは特命委員会を束ねる萩生田氏の胸三寸にかかっていると言っても過言ではない。

萩生田氏は今のところ、岸田首相と菅前首相のいずれにつくということもなく、等距離で接しているといえよう。下世話な言い方をするなら、これからの権力闘争にそなえ、二股をかけているのである。

すなわち、岸田政権が長続きするとみれば、このまま政権中枢で重きをなし、幹事長ポストを狙う。幹事長になれば、総理への道も切り開けよう。逆に岸田政権の崩壊が近いとみれば、安倍政権時代に官房長官、官房副長官としてともに仕事をした菅氏との連携をはかるだろう。

以上みてきたように、目下の権力争いは、岸田増税路線をめぐる対立が導火線となって本格化しつつある。来年秋の自民党総裁選を無事切り抜けて長期政権につなげたい岸田首相としては、菅前首相になびかぬよう萩生田氏の機嫌をとっていきたいところだが、重用すればするほど萩生田氏の権勢は強まり、その分、よけいに謀反を心配しなくてはならなくなるだろう。

統一教会と自民党の癒着関係は、保守政治の根幹を揺るがす深刻な問題だ。その重要人物の一人である萩生田氏がしっかりした説明責任を果たすこともなく、いまだ権力闘争のど真ん中で、総理の首根っこを押さえるかのごとく振る舞っているのだ。安倍派に忖度した岸田首相が党幹部人事で自ら招いたといえるが、なんとも皮肉な状況である。

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image by: はぎうだ 光一 - Home | Facebook

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