全国で多発している、極めて暴力的な手口の押し入り強盗。その裏に「海外からの指示役」の存在が浮かび上がるなど、事件はこれまでに例のない展開を見せています。そんな犯罪組織の実態に迫るのは、特殊詐欺などの取材経験が豊富なジャーナリストの多田文明さん。多田さんは自身のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』で今回、一連の事件に深く関わる「闇バイト」について詳しく解説するとともに、凶悪犯罪から身を守る方法を考察しています。
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
拘束された「ルフィ」名乗る指示役。なぜ1月に組織的強盗の事件が多発したのか?SNS「闇バイト」の実態
1.緊急・組織的犯罪グループによる強盗事件の多発への警戒 命を守る行動を
今年に入ってから強盗事件が多く起きています。関東圏だけで10件以上あり、東京都狛江市では90歳の高齢女性が亡くなるという事態にまでなっています。その後、強盗グループによる犯行は、1都5県に及び30件以上となっており、深刻な状況だったことがわかってきています。
19年に起こったアポ電強盗の手口以来、点検強盗など、たびたびこの種の強盗が起こっていますが、これらは特殊詐欺のノウハウを駆使した組織的な強盗グループです。
犯行は指示役からの指令を受けた実行犯らが行った組織的犯罪グループの手口と考えて間違いありません。
3人組以上で押し入る。ハンマーで脅す、手首を縛るなど、判を押したような手口を繰り返していることからもわかります。
本来、金品を盗るだけが目的ならば、家人のいないリスクの低い時間を選ぶはずですが、あえて家に高齢者がいる時間を狙って押し入っています。
もし強盗に遭った際には、抵抗したり、睨んだりすれば、暴力を振るわれる恐れがあります。それはせずに、命を守る行動を第一にお願いします。
また3,000万円を奪った事件も起きていますが、もしこれが少人数の犯行ならば、これだけのお金を奪えば、多額のお金を山分けして、終わりになるでしょう。しかしながら、次々に家を狙って犯行を繰り返していることからも、組織的犯罪であることがわかります。
しかし当初から、この強盗グループに関する、ある違和感を覚えていました。
その後、27日に「ルフィ」を名乗る指示役がマニラの入国管理局の収容施設で拘束されているとの報道があり、被害が起きた問題点も浮き彫りになってきました。
2.1月に組織的強盗の事件が多発した理由について
アポ電強盗という言葉が出てきたのは、2019年のことです。この時も1月から、この強盗の手口が起こり始めて、注目され始めました。なぜ1月に起こり始めるのでしょうか?
それは、強盗を目的に立ち上がった実行グループにとって、12月は、とても犯行がしづらい状況なのです。
歳末ともなれば、警察官はATMの前に立ち、高齢者への詐欺への警戒を呼び掛けるなど、かなりの人数を繰り出して、パトロールしています。
組織的な強盗では、お金のある人の家を事前に調べて犯行に及びますが、下見時や、犯行時に職務質問されるのを嫌がります。ですので、それがしづらい状況になっているといえます。そこで、警察の警戒が解かれた1月に一気に犯行に及んでいたとみています。
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3.闇バイトの実態とは?
今回の強盗グループは、特殊詐欺における犯罪ノウハウを利用した形での犯行とみられていますので、この組織の肝は、役割分担にあります。
犯行をする上では、運転手役、家に押し入る役、電話で指示を受ける役とそれぞれがしっかりと役割を果たすことで、素人であっても、プロ並みの強盗手段を取ることができます。
もちろん、実行犯を募集する上でも、役割分担があります。これを行うものをリクルーターといいます。
この犯罪の恐ろしさは、TwitterやInstagramなどで高額バイト募集などの応募を通じて、一般の人でも、容易に詐欺や強盗などの加害者に回ってしまう点です。
私もかなり以前から、闇バイト事情を調べていますが、募集のパターンは決まっています。
SNS上に高額報酬、高額バイトなどの情報を載せます。それに興味をもった人物がDMを送ってくると、次にメッセージアプリで連絡を取り合います。今は、送信したメッセージを消すことのできるテレグラムを使うことがほとんどです。
するとリクルーターから電話がかかってきて仕事の説明をされます。その時に応募者の個人情報を聞き出します。そして「審査」などの言葉を名目にして、身分証を写真で撮って送らせます。
実は、これが詐欺グループにとって大事なことで、身元をおさえることで「家族にばらすぞ」「警察に垂れ込む」などという言葉で、犯行を繰り返し行わせることができます。
特に、強盗の実行犯は、詐欺犯を募るのに比べて、極めてハードルが高いので、こうした脅しが行われがちなります。一度、犯行に加わったら抜けられない。この怖さがありますので、絶対に、闇バイトに連絡を取ってはなりません。
いずれにしても、実行犯は捕まる存在です。すでに今回の事件では30人以上が逮捕されている事態となっています。
4.昨年、漫画「ワンピース」のキャラクターをかたる男と闇バイトで話した記憶が、しかし残念ながら……
今回の指示役の名は「ルフィ」といわれており、その他にも「サンジ」や「ゾロ」などがいるいわれています。
名称を変えるのは、おそらく犯行を様々な場所でしているので、指示する側がそれを間違えないようにするために、使い分けている面もあると思います。
実は、昨年2月にテレビの企画で闇バイトの募集へ電話をしました。数件電話をかけたうちの一件の闇バイトの募集に、違和感を覚えました。というのも、通常「あなたのお名前は?」と聞くと、架空ですが、日本語の名前を話すのに、その人物だけは、アニメのキャラクター名を答えたのです。
当時「なんだ、この名前は?」と思い、検索すると、ワンピースのキャラクター名が出てきたのをほんのりと覚えています。
しかしこの会話はオンエアーされませんでした。そこで、制作会社に当時の映像素材が残っているかを聞いたところ「もうない」ということでした。残念ながら、それ以上確かめることができず、犯行を行った人物の肉声を公にお伝えできることができず、とても残念な思いです。
その3か月後の5月に宝石店の強盗を行い、捕まったグループがいますので、同一グループの一人であった可能性はあると思っています。
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5.被害が起きた問題点も明らかに。
知人から聞いた話ですが、19年にフィリピンで36人の大規模な詐欺グループが摘発されて、収容所に入れられました。
この収容所ではスマホは入手できますので、この中で国内に詐欺の電話もかけていたということです。
知人には、「詐欺をやめられると思ったのに、まだやらされている。早く日本に帰りたい」というメッセージがきたそうです。当時はコロナ禍もあり、なかなか日本に戻れませんでした。
今回も、収容所からの指示を出していたとのことですので、収容所にいる詐欺行為をした疑いのある人物らを日本政府は一刻も早く出国させて、国内で逮捕しなければならないのです。
つまり、今回は詐欺などをして収容所に入れられた男らの出国が遅れたので、これだけの強盗被害につながってしまったともいえます。
いかに海外との連携を深めて、国内に引き渡してもらうのか。詐欺や強盗事件を防ぐためにも、課題となっています。
6.防犯対策はどうすればよいのか。
どうやって強盗グループの犯行から、身を守ればよいのでしょうか。
侵入の手口は、宅配業者などを装って、玄関から入り込む。その他には、窓を割って侵入するがあります。
ですので、できれば、置き配にして、すぐには扉を開けず、時間が経ってから外の物をとるようにする。
また、窓には防犯フィルムなどを張るなどして、容易に割られないようにする対策も必要です。また敷地内に侵入したら、防犯ブザーがなるようなシステムもあった方が良いと思います。
しかしながら、強盗グループは下見をして用意周到に狙い定めて、複数人でやってきます。正直なところ、これまでいわれてきた、監視カメラをつけるなど「狙われない家になる」といった、既存の防犯対策は役にたたないかもしれない、思いもあります。
ですので、防犯会社を利用して、防犯にお金をかけるという発想も必要です。
もっといえば、もはや一家、一家だけの防犯では、防ぎ切れない状況だと思っています。こうした強盗グループは必ず下見をします。ですので、地域一丸になって見守り、不審な車両などがあれば、警察に通報して、パトロールを強化してもらうことも必要です。
最後に、今、防犯会社に問い合わせが殺到しているとのことです。
この機に便乗して、偽の防犯会社をかたる詐欺も起こる可能性もありますので、気をつけてください。
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