私たちが人生の折々でお世話になるお寺の住職。そんな仏に仕える身である彼らの中に、脱税に手を染めている向きが少なくないことをご存知でしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、彼らの呆れた実態を紹介。なぜかようなことが可能なのかを解説しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2023年2月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
この記事の著者・大村大次郎さんのメルマガ
寺の僧侶は脱税常習犯。宗教法人の「非課税」と「お布施」の深い闇
最近、非常に興味深い税金ニュースが飛び込んできました。住職2人が、お布施を1億5,000万円も私的に流用したため、国税から所得隠しと認定され、約7,000万円の追徴課税をくらったというのです。
この事件のあらましはこうです。
2021年に、和歌山県田辺市とすさみ町にある二つの宗教法人(寺院)が、大阪国税局の税務調査を受けました。この二つの宗教法人の代表住職2人が、檀家(だんか)からのお布施計約1億5,000万円を私的に流用していることが発覚したのです。
この二つの宗教法人の代表2人は、それぞれ7~8か所の寺の住職を兼務していました。この2人は21年までの7年間で、法事などでもらったお布施を宗教法人に入れずに、自分の口座に入れ、個人的に使ったりしていました。
大阪国税局はこの私的流用を「報酬」として認定し、追徴課税したのです。しかも、これは「所得隠し」とみなされ、罰金的な税金である重加算税も課せられています。
田辺市の住職は「お布施は少額だったので帳簿も付けず個人口座で管理していた」、すさみ町の住職は「徴収漏れはミスでしてしまった」と話しているそうです。
実は僧侶は脱税常習犯
寺の住職というと、仏に使える身であり、脱税なんて絶対やらないというようなイメージを持っている方も多いかもしれません。でも事実はまったく逆です。寺の住職というのは、他の業種に比べて非常に脱税が多いのです。寺を税務調査した場合、70%以上の割合で、課税漏れが見つかるのです。業種全体の平均値が60%代なので、お寺は平均よりも10ポイントも脱税率が高いと言えます。
寺の場合、脱税する総額がそれほど大きくないので、起訴まではされず、ニュースなどにはあまり取り上げられないのですが、実際は非常に脱税の多い業種なのです。
今回の和歌山の事件は、所得隠し額が1億5,000万円と高額だったためにニュースになったのです。
寺の住職というのは、非常に脱税をやりやすい状況にあります。寺の最大の収入源であるお布施というのは、領収書を発行することはほとんどありません。領収書を発行しないということは、取引記録が残らないということです。またそのやりとりは密室で行われるので、外部にはまったく見えません。
脱税というのは、こういう状況の時にもっともやりやすいのです。住職が檀家でお布施をもらい、そのままポケットに入れてしまえば、脱税は簡単に成立してしまうからです。つまりは、住職という職業は脱税の“誘惑”が多いところなのです。
「脱税の誘惑」が多いといっても、住職は仏に仕える身、そんな誘惑に負けてほしくないものです。しかし、住職も所詮、生身の人間であり、この誘惑には勝てないのです。
この記事の著者・大村大次郎さんのメルマガ
そもそも寺の税金は優遇されている
そもそも寺の税金とはどうなっているのでしょうか?寺の税金というのは、ちょっと複雑な形態になっています。寺というのは、ほとんどが宗教法人という組織になっています。
そして原則として寺(宗教法人)の宗教活動には、税金はかかりません。法事に行ってお布施をもらっても、そのお布施自体には税金はかからないのです。
しかし、寺の住職というのは、その寺(宗教法人)から雇用され、給料をもらっているという形になっています。そのため、その給料については、税金がかかるのです。つまりは、寺の住職は、税務上はサラリーマンに過ぎないのです。
住職は寺の収入の中から、毎月、決まった額を給料としてもらうことになっています。その給料には、当然、税金がかかり、寺は、会社と同じように住職の給料から税金を天引きして、税務署に納めなければならないのです。
しかし寺の多くは、住職が「経営者」となっており、会計などは住職の意のままです。
寺の会計報告や申告書などは、税務署に提出しなくていいのでしょうか?
本来、宗教法人は、その事業年度の収支計算書を原則として、事業年度終了の日から4ヶ月以内に所轄の税務署長に提出しなければなりません。が、年間収入8,000万円以下の小規模な法人などについては、収支計算書の提出を要しないこととしています。
そして、この8,000万円の基準値は、事業年度毎に計算した基本財産などの運用益、会費、寄付金、事業収入などの収入の合計額によるものとされ、土地建物などの資産の売却による臨時的に発生する収入は、8,000万円の判定に含めないことされています。
つまりは、普通の年間収入が、8,000万円を超えなければ、申告書を出す必要はないのです。寺などの小さな宗教法人は、この8,000万円ルールに守られ、申告も収支計算書の提出も不要とされているのです。
寺の会計などは、一応、檀家などがチェックすることになっていたりはしますが、それも形式的なものです。だから、住職が寺のお布施の一部を抜いても、誰にも気づかれないし、とがめられることはありません。それは当然、脱税となるのです。
なぜ小さな寺の住職がベンツに乗っているのか?
辺鄙な寺の住職が、ベンツなどの高級車に乗っているのを見たことがないでしょうか?よくテレビ番組などでも、地方の古い寺の住職がありがたい話を聞かせた後、高級車で芸能人をどこかに案内する様子が出てきたりします。そういうのを見て、違和感を感じた人も多いでしょう。なぜ寺の住職が高級車に乗ることができるのか、と。
そこには宗教法人特有の経済システムがあるのです。そもそも寺の住職は、経済的に非常に恵まれています。住職の住居は寺の中にあるので、住居費はほとんどかかりません。普通の民間企業であれば、会社から住居を提供されれば、その住居費は給料と同じ扱いをされ課税されます。しかし、住職の場合、「そこに住むのも宗教活動の一環」とみなされ、非課税とされているのです。
そして、もし住居に不具合があれば、寺のお金で修繕したりできます。家具などの調度品も、寺の金から出すことができます。日々の生活でも、光熱費などは、お寺と同じ建物なので、相当部分は寺の金で出しているものと思われます。
食べ物も檀家からもらったりするものもけっこう多いので、普通の人よりは食費は安いはずです。
また車なども、住職が乗っている車のほとんどは寺の金で買ったものです。ベンツなどの高級車も、実は寺の金で買ったものであり、住職は一銭も払っていないのです。つまり、住職の生活は大半は、寺のお金で賄っているのです。
そして、寺というのは、けっこう収入が多いものなのです。信心深い檀家ではないごく「普通の家」でも、年に数回は法事などをします。一回あたりだいたい5,000円以上のお布施がもらえます。一つの檀家から年間数万円の収入を得ることができるのです。檀家が200人もいれば、定期的な法事だけで、300~400万円の収入が得られます。
しかも、お葬式という臨時収入もあります。葬式のお布施や戒名などは、普段のお布施よりも一、二桁違ってきます。それらの収入を合わせれば、檀家が200人もいれば十分にやっていけるのです。地方の辺鄙な寺の住職が、ベンツに乗っていたりするのは、このためなのです。
この記事の著者・大村大次郎さんのメルマガ
金閣寺の住職の脱税
これまで寺の住職が脱税の常習犯だということをこれまで述べてきました。しかし、こう思う人もいるでしょう。「そういうのは小さい寺の生臭坊主がしているだけ」「由緒ある寺の高僧はそんなことはしない」と。
しかし、元国税調査官の立場から言わせてもらえば、そういう考えは幻想にすぎません。どんな高僧であろうと、欲の皮は突っ張っています。筆者は「欲深くない僧」など一度も会ったことがありません。
それを象徴するようなわかりやすい例をご紹介しましょう。それは2011年2月に報道された、金閣寺の住職の課税漏れです。この住職は、京都仏教会理事長で金閣寺、銀閣寺の住職も務める臨済宗相国寺派の有馬頼底(らいてい)管長です。有馬管長は、人に頼まれて掛け軸に揮毫(きごう)などをしていましたが、この揮毫で得た報酬を申告していなかったのです。その額は、過去5年間で約2億円にものぼりました。有馬管長はいわば日本の仏教界のドンでした。そのドンが2億円もの所得を申告していなかったのです。
有馬管長によると、揮毫(きごう)の報酬は申告しなくていいと思っていたそうです。世間一般の感覚から言えば、「2億円ももらっておいて申告しなくていいはずはない」というところです。が、この有馬管長は、高僧ともなれば税金も免除されると思ったのでしょう。
しかも、有馬管長だけではなく、由緒ある寺や有名な高僧が税金を誤魔化していたという例は、五万とあります。僧というのはなんとも罰当たりな人たちなのです。
この記事の著者・大村大次郎さんのメルマガ
初月無料購読ですぐ読める! 2月配信済みバックナンバー
※2023年2月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、2月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
- 「車を買うなら中古車がいい?」「サラリーマン副業の税金」「住職二人が1億5千万円の所得隠し」(2023/2/1)
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
▼2023年1月分
- 「サラリーマンのための起業入門2」「ビートルズ解散の原因は”税金”だった!?」「河野太郎氏の重過失」(2023/1/16)
- 「ジャニーズの追徴課税解説」「サラリーマンの起業入門」「河野太郎のデマを分析してみる」(2023/1/1)
▼2022年12月分
- 【特別増刊号】政治家や官僚にダマされるな!元国税調査官が伝授する、日本のバカバカしい「大増税」に振り回されず生き抜く方法(2022/12/29)
- 「金持ちにも優しい富裕税の導入を」「愛人手当を経費で落とす方法2」「忘れられがちな税金還付2」(2022/12/16)
- 「忘れがちな税金還付」「なぜ世襲議員は相続税を払ってないのか」「愛人手当を経費で落とす方法」(2022/12/1)
▼2022年11月分
- 「キャバクラ代を経費で落とす方法2」「今さら人に聞けない会計基礎知識1」「なぜ先進国で日本の賃金だけ下がっているのか?」(2022/11/16)
- 「キャバクラ代を経費で落とす方法」「北朝鮮のミサイル開発を支える闇経済」「世界はワクチンから離れている」(2022/11/1)
▼2022年10月分
- 「知らないと損するゴルフ利用税」「サラリーマン副業節税を国税庁が認めた!」「武富士一族の史上最大の節税」(2022/10/16)
- 「観光にかかる税金」「なぜ竹中平蔵氏は逮捕されないのか」「新型コロナ・東近江市の衝撃データ」(2022/10/1)
▼2022年9月分
- 「ワクチンを打った方がコロナで死にやすい」大阪府公表データより(2022/9/20)
- 【特別増刊号】元国税調査官も太鼓判、自営業・フリーランスの「特殊な節税術」とは?(2022/9/20)
- 「サラリーマン副業節税はできなくなった?」「竹中平蔵氏の逮捕はあるのか?」(2022/9/16)
- 「サラリーマンが不動産経営すれば税金がやすくなる?」「ロシアの不気味な経済力」ほか(2022/9/1)
▼2022年8月分
- 「あなたはブラックリストに載っていない?」「収入の波が大きい人の節税策」「プーチンは世界の石油市場を支配している」(2022/8/16)
- 「サラリーマンも交際費が控除できるって知ってます?」「宗教とお金と政治の問題」(2022/8/1)
▼2022年7月分
- 「生命保険を使った財テクの裏ワザ」「倒産防止共済は最高の節税アイテム」「宗教と政治の問題」(2022/7/16)
- 「国民健康保険未加入の罠」「純金投資の裏ワザ」「FX長者が続出しているカラクリ」(2022/7/1)
▼2022年6月分
- 「知らないと損する純金投資」「国税職員らの給付金詐欺事件解説」(2022/6/16)
- 「知らないと損するNISA」「維新のメディア操作」「”ワクチン接種者の方が感染しやすい”厚労省の衝撃データ」(2022/6/1)
▼2022年5月分
- 「都市計画税に気を付けよう」「池袋のワンルームマンション税にも気を付けよう」「橋下徹氏の上海電力問題とは?」(2022/5/16)
- 【GW特別号】元国税が暴露、子育て世代を苦しめる「税金の無駄遣い」のヤバさ(2022/5/6)
- 「税金を使おう」「零細業者を直撃するインボイス制度」「中国が台湾を絶対に手放さない経済的理由」(2022/5/1)
▼2022年4月分
- 「自治体から家賃を補助してもらおう」「国民健康保険の減免制度とは?」「中国の静かなアジア侵攻”スリランカ危機”」(2022/4/16)
- 「乳房税とは?」「住んだまま家を換金する方法」「ロシアは”仲間外れのジャイアン状態”だった」(2022/4/1)
▼2022年3月分
- 「日本維新の会と吉本興業の危ない関係」「犬を飼っている人にかかる犬税」「空き家を放置すると固定資産税が6倍に」(2022/3/16)
- 「ふるさと納税がやりやすくなった」「孫への教育資金援助の特例」「国がワクチン接種を進める理由」(2022/3/1)
▼2022年2月分
- 「生命保険は相続税対策にもなる」「ワクチンは重症化を防ぐという嘘」(2022/2/16)
- 「遺産分配の基本は”配偶者優先”」「実は恐ろしいワクチンの有害事象データ」(2022/2/1)
▼2022年1月分
- 「起業するとき会社にするか個人事業者でやるか」「ワクチンは重症化を防ぐという大ウソ」(2022/1/16)
- 【新年特別号】元国税調査官が教える「節税」で日本に正義を取り戻す方法とは?岸田政権“新しい資本主義”で損をしないポイント(2022/1/3)
- 「所得控除を使いこなそう」「先進国でワクチンが強要されている理由」(2022/1/1)
▼2021年12月
- 「戦後最悪の超過死亡はなぜ起きた?」「争族を防ぐための相続
入門」(12/16) - 「日大の田中理事長の脱税事件とは?」「国税OB税理士は脱税
し放題?」ほか(12/1)
▼2021年11月
- 「争族にならないための相続入門」「国会議員と国税庁の怪しい関係」(2021/11/16)
- 「本当に純金は財テクになるのか?」 「プラチナ積立って何?」 「相続税よりも怖い“争族”」(2021/11/1)
▼2021年10月分
- 「なぜ日本人の賃金は韓国より安くなったのか」「なぜWHOは役に立たないのか」「PCR費用は医療費控除できるか」(2021/9/16)
- 「おしどり贈与で賢い相続を!」「金持ちの税負担はフリーター以下」(2021/9/1)
▼2021年9月分
- 「なぜ日本人の賃金は韓国より安くなったのか」「なぜWHOは役に立たないのか」「PCR費用は医療費控除できるか」(2021/9/16)
- 「おしどり贈与で賢い相続を!」「金持ちの税負担はフリーター以下」(2021/9/1)
▼2021年8月分
- 「なぜ長者番付が廃止されたのか?」「非正規雇用は税金払いすぎ」「日本国民を戦争に走らせた超格差社会」(2021/8/16)
- 「副業収入は税務署にばれるのか?」「フリーター、非正規社員は税金を払いすぎているかも」「国民を幸福にしない日本の医療システム」(2021/8/1)
▼2021年7月分
- 「消費税5%より食料品を0%に!」「国民健康保険、国民年金には減免制度がある!」「橋下維新と竹中平蔵氏の危ない関係」(2021/7/16)
- 「震災復興事業での鹿島建設社員の脱税事件」「国民健康保険料は自治体によって全然違う」「今の大阪では子供を産めない!」(2021/7/1)
▼2021年6月分
- 「付加年金という年金の裏ワザ」「住宅ローン控除の特例が新型コロナで延長された!」「若者が大量流出!大阪が危ない!」(2021/6/16)
- 「ふるさと納税の限度額を知る方法」「自営業の確定拠出年金」「橋下維新という日本の闇」(2021/6/1)
▼2021年5月分
- 「ふるさと納税の具体的な仕組み」「大阪のコロナ死者数を激増させた維新の責任」(2021/5/16)
- 【GW特別号】元国税が教える「ふるさと納税」の今と未来と賞味期限。節税で最大限「得する」ための考え方(2021/5/5)
- 「確定拠出年金を使い倒せ!」「坂本龍馬の倒幕戦略~経済で幕府を倒す~」「公共事業大国なのに社会インフラがボロボロ」(2021/5/1)
▼2021年4月分
- 「相続税の密告に気をつけろ」「公的年金を増やす方法2」「もはや日本は途上国」(2021/4/16)
- 「ビットコイン長者の脱税」「公的年金を増やす方法2」「ワクチンは本当に安全か2」(2021/4/1)
▼2021年3月分
- 「年金を増やす方法1」「新型コロナワクチンは本当に安全なのか?」(2021/3/16)
- 「働き盛りパパの生命保険の罠」「素人が陥りやすい投資の罠」「なぜ新型コロナ特効薬イベルメクチンは承認されないのか?2」(2021/3/1)
▼2021年2月分
- 「コロナ特効薬イベルメクチンはなぜ承認されないのか?」「カジノとマネーロンダリング」「エリート税務署員のとんでもない犯罪」(2021/2/16)
- 「自営業、経営者、副業者に役立つ小規模企業共済」「クレジット詐欺メールにご注意を」「オリンピックに頼る日本の愚かさ」(2021/2/1)
▼2021年1月分
- 「相続税対策としての生命保険」「日本に民間病院が多い驚愕の理由」「本能寺の変~光秀と信長の経済対立~」(2021/1/16)
- 「なぜ日本はコロナ重症者が少ないのに医療崩壊に瀕しているのか?」「サプリ、栄養ドリンクも医療費控除の対象に」(2021/1/1)
- 【新年特別号】元国税が教える「2021年版 節税の裏ワザ」税金還付は最強の財テクだ(2021/1/1)
※1ヶ月分330円(税込)で購入できます。
image by: Shutterstock.com