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実にくだらない。プーチンが3月末までの「ドンバス占領」を命じた理由

ウクライナ東部において、すでに大攻勢に出たとの見方もあるロシア軍。プーチン大統領は3月末までのドンバス地方完全掌握を命じたと伝えられていますが、その裏にはどのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、プーチン氏の思惑を推測し解説。その上で、「実にくだらないもの」と斬って捨てています。

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終盤に入ったウクライナ戦争で何がどのように起きているのか?:「デモくらジオ」(2月10日)から

冒頭でちょっとだけお話申し上げたいのは、先週の頭でお話しすることが出来なかったウクライナの話なんです。ウクライナに関しては、今年1年の中で非常に歴史的に大きな出来事になるだろう、去年からですけれどね。特に今、この戦争がその終盤に入ってきているのではないのか、まあ、そう願いたいところでもあるわけですが、そのような状況の中で何がどのように起きているのかについて、簡単に「こうではないのかな」という風に私が思うところを述べてみたいと思います。

まず、この間、ロシア軍がミサイルなどを多用して、ウクライナのインフラ施設、電気・水道・ガス、そういうものを破壊してウクライナ市民・国民の生活を破壊するために軍事力を行使するという、大変卑怯なやりかたをしてきた、卑怯かつ国際法に明らかに反する、国連憲章にも勿論反するだろうと思いますけれど。そういう試みを繰り返してきた。

そのために直接殺された市民も大勢いましたし、寒さの中で苦しみを味わわされた人も、何百万人とおられたわけですよ。その攻撃によってウクライナ市民の戦意を喪失させよう、あるいはウクライナ軍を圧倒して打ち破ろうという目論見は、まあ、失敗したということだと思いますね。世界中、いや、日本を含む大変多くの国からの支援。破壊されたインフラ施設を使えるようにするための、人々が臨時に暖をとるための様々な工夫、デバイス、そういうものの助けを得てウクライナのインフラを受け持っている人たち、組織がフル稼働して、必死に、攻撃されても攻撃されてもそれを直し続けたということがありますね。

で、その状況のなかでも東部の戦線ではロシア軍の攻勢がある。一部で非常に無謀な人海戦術まで行われていて、囚人兵あるいは部分的に動員された新兵、そのような人たちを大砲の援護もなく、ただウクライナ陣地に向かって叫びながら突進させるという…。それでは、ただ死にに行くようなものですが、それでもその戦術によって、ウクライナ側の防御態勢を見定めて、後ろから正規軍がそこを攻撃するという、およそ近代戦では考えられないような、なんとも泥臭いといえばむしろ軽く言い過ぎですが、実に血なまぐさい戦い方をしている。少しでもウクライナ軍の力を削ぐことに大勢の人を犠牲にしながらやってきた。今、そこにロシア正規軍とか、かなり軍隊らしい軍隊、精鋭の部隊を送り込むようなことにもなってきていると。

どうも、新しくゲラシモフさん、参謀総長が総司令官になったことによって、ハッキリとした目的が見えてきたといいますか。ゲラシモフさんというのは戦略家、戦術理論というのか、戦争の理論家として有名な方のようですが、プーチンさんから3月末までにドンバス地方を完全占領せよとの命令を受け、その目的に従って、その目的の範囲で合理的なことをひたすら行おうとしているように見える。これは、これまでの司令官たちとは全然違っていて、ある種の凄みを感じるわけですが、そういう形で戦線を打開しようとしているようです。

もう一つあるのは、3月末までというのはプーチンさんの時計での話ですが、ウクライナに対する西側諸国の支援、この間、戦車の供与、特にドイツ製の戦車の供与を巡ってのゴタゴタ、あるいはアメリカのF16戦闘爆撃機の供与を巡る鞘当てと言いますか、すったもんだがあったわけですが、戦車に関してはかなりの数のものがウクライナに供与されることになりました。しかしその時期の問題からいうと、3月末以降になるだろうと。あるいはアメリカ軍、アメリカが供与を決めたハイマースの弾となる新しい爆弾ですが、射程が150キロにも及ぶ。今までのものは70キロから80キロでしたから、射程を2倍にするような弾を大量に供給するということが決まっている。

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しかし、いつ届くかは分からない。すると、戦車が来る前に、勿論、F16などの飛行機などをウクライナ軍が持つ前に、さらにハイマースの150キロ射程の弾が届く前に、ロシア軍は大攻勢を仕掛けようとしている。このタイミングのずれを意識しながら、ウクライナ軍が軍事支援によって強い力を得る前にやってしまおうということで、ゲラシモフは準備を続けてきたのではないかと思います。

問題は、そういうことができるだけの力をロシア軍がまだ保持しているのか、もう持っていないのか。それがこれから2月、3月にかけて分かってくるのだろうと思います。これでロシア軍が再び、最初に侵攻したとき以上の力を持ってどこかで戦線を大きく打開するというようなことが起こるのか起こらないのか、これによって戦争の行方が最終的にどうなるか、決まってしまうくらいのことではないのかと思います。

この間のことを見ていると、結局、軍事の合理性の中に政治的な要求・要請が忍び寄ってくる感じがします。プーチンさんが「3月末までにドンバス地方占領」と言ったのは、随分後になってのことですね。最初からそのように言っていたわけではないですね。ある時点でもうむき出しの政治的な要求が出てくる。プーチンさんが「3月末までに」というのは、それに続いておそらくは勝利宣言を行い、国内でプーチン人気が高まってくれば大統領選に勝てるのではないかという、おそらくは大変個人的な目標のもとに軍隊を動かしている、ということだと思うのです。政治の根本にあるのはそんな、実にくだらないものだと思います。

それに対してウクライナ軍の方も、今大激戦地としてそれこそ過去、色々な戦いが「なんとかの戦い」として名前を残していますが、「バフムート」での両軍の凄惨な力比べのようなことをしている訳ですが、その戦いにどのような意味があるのかについてはよく分からない。そんなにこだわる場所なのかということを例えばアメリカ軍などはウクライナ側に問うているようで、軍隊が消耗してしまう前に撤退したらどうかということをゼレンスキーさんに言っているらしい。

しかし、ゼレンスキーさん側からすれば、「バフムートの戦い」は絶対に負けられない、引くことの出来ない戦いで、抵抗の聖地・バフムートという位置づけをしている。市民が7,000人から8,000人くらいパフムートに残っているのはどうするのか、この人たちを見捨てるのかということも入ってくる。ゼレンスキー政権が政権の正統性を主張するためには引いてはいけない場所になっている。ゼレンスキーさんが最前線を訪れたのもバフムートでした。そういう、ある種の政治的な要請が被さっていると思うのですね。

しかし、その政治が目指すものがウクライナの場合には、国連憲章の自衛権の回復という動きそのものであり、プーチンさんの個人的な目標とは次元が違うと思います。そういうものが今争っていて、その帰趨が数ヶ月後には分かってくるのだろうという時期に来た。というようなことを考えました。

色んな情報が錯綜していて、ロシア軍は大変な損害を被った、人間的にも兵器でも…もう精強な軍隊を再編することなど出来ないほどに弱体化しているのではないかという見方と、いやいやそんなことはないのだという見方もある。ウクライナ軍の方も、たとえ1ヶ月、西側支援の供給が遅れ、実戦配備が遅れたとしても、その間ウクライナ軍は十分耐え抜くだろうという見方と、いやいや、結構ボロボロになってしまうのではないかという見方と、両方あると思います。いよいよ、それがどちらなのかが分かる時期を迎えるということだと思います。

(『uttiiジャーナル』2023年2月12日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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