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日本人には迎合せず。それでも“ガチ中華”の代表格「味坊集団」が人気のワケ

従来の中華料理屋とは一線を画す、いわゆる「ガチ中華」がトレンドとなっていることをご存知でしょうか。今回、そんなガチ中華の代表格である「味坊集団」を紹介しているのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは味坊集団がなぜここまでの人気を得るに至ったかを、さまざまな角度から詳細に分析するとともに、食通だけではなく、ごく一般的な若者からも愛される理由を考察しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

流行語にもなった“ガチ中華”の代表格「味坊集団」の羊肉が人気に拍車。何が人々を惹きつけるのか?

コロナ禍にあって人気が出てきた食のトレンドに「ガチ中華」が挙げられる。これは従来の中国料理とは異なる、日本人の嗜好に迎合しない“中国本土”そのままの中国料理のこと。これを日本で食べることによって、中国を旅行して現地のグルメを楽しんでいる気分に浸ることができる。

このトレンドで大繁盛しているのが「味坊集団」だ。これはオーナーの梁宝璋氏が展開する飲食事業の総称で、現在10店舗を展開している。

梁氏は1963年5月生まれ、中華人民共和国、黒竜江省チチハルの出身。中国残留邦人で料理上手の母の料理を食べて育つ。青年期は画家として活躍。両親が日本に移住したことをきっかけに梁氏は1995年家族と共に日本に移住。1997年から東京・竹ノ塚に10席ほどのラーメン店を営む。より繁盛を志して2000年1月神田駅近くのJR高架下に「神田味坊」を出店。その後「味坊」ブランドで中国東北料理の飲食店を展開する。

これらの店舗はオープンキッチンで、全員中国人の料理人が大きな声で中国語を交わしながら調理をしていて、さながら中国の現地にいるような気分に浸る。

味坊集団は10店舗のうち3店舗をコロナ禍真っ盛りの2022年に出店している。まさにガチ中華人気を象徴する店舗展開と言える。そして味坊集団人気はもう一つの食のトレンドが存在する。それがどんなものかをまとめておきたい。

「ガチ中華」のコンセプトが多様化

2022年にオープンした「味坊集団」の3店舗の概要は以下の通り。

まず、4月東京・学芸大学に「好香味坊」(ハオシャンアジボウ)。同店のコンセプトは「ちょっとした食事」を意味する「小吃」(シャオチー)で、麺、肉まんや蒸し物、揚げ物、ご飯物などをさっと食べられる感じ。中国では路地裏にある小さなお店でそれをローカライズした。店舗は13席でテークアウト需要にも対応している。

次に、6月秋葉原に「香福味坊」(コウフクアジボウ)。同店は朝7時から翌朝5時まで22時間営業。朝は「早点」(ヅアォデイエン)と呼ぶ中国式朝食、ランチはリーズナブルな中華定食、午後は点心や飲茶のティータイム、夜は味坊各店の個性的な料理を楽しむことができる。また、羊の丸焼き「烤全羊」(カオチュエンヤン)も看板メニューにしている。106席と味坊集団の中で最も広く、ファンの間で「ガチ中華のテーマパーク」と称されている。

「香福味坊」の店内。秋葉原ヨドバシのすぐ近くにあり、平日でも宴会でにぎわっている

そして、8月代々木上原に「蒸籠味坊」(ジョウリュウアジボウ)。同店は蒸し料理に特化。蒸し料理は「温度が100度を超えないので素材の味を生かした料理が出来る」「タンパク質、ビタミンなどの栄養の損失が少ない」などといった利点が多く、これまで脂っこいと思われていた中国料理に対して新しい魅力を発信している。

このようにガチ中華と言っても、コンセプトがそれぞれ明確だ。

都心に出てきて人気が沸騰

味坊集団が注目されるようになった沿革を述べておこう。

梁氏が25年前日本で初めて開いた竹ノ塚のラーメン店でも、中国東北料理の象徴である羊肉料理も出していた。しかし「これを食べるお客は『これが中国料理なのか?』という感じの表情で、おいしいのかそうではないのかという反応はなかった」(梁氏)という。

その3年後に、神田に出店して「中国東北料理」の専門性を強くした。同店の場所が東京駅や大手町に近いことから中国に駐在経験がある人が多数訪れるようになり「中国とそのまんま同じだ」「なつかしい」というお客が来店するようになった。

その後、御徒町に出店するが、この店から若い女性客が増えた。日本風に味付けをした料理ではなく、中国東北料理そのままの味を「おいしい」と言う。

御徒町にある「老酒舗」。店舗づくりが中国東北地方の路地裏の雰囲気を醸している

神田・御徒町界隈だけで営業していた当時に、遠方からのお客が多数見られた。羊肉料理には羊肉好きの人を引き付ける力があることを梁氏は確信した。東京の西方面は三軒茶屋に出店したのが最初だが、ここから代々木八幡、代々木上原といった住宅街にも出店するようになった。

東京の東、西と店舗を展開しているが、客層は変わらない。客単価は3,000円から5,000円となっているが、これは客層ではなく店舗のコンセプトに沿っているもの。

味坊集団に来店するお客のほとんどはワインと羊肉料理を目的としている。店内にはリーチインクーラーに価格を書いたフルボトルワインを入れていて、これらの中からお客様がその日の食事や気分に合ったワインを選んで食事をしている。

太古から人間に最も近しい家畜

味坊集団人気の背景には、近年急速に高まっている「羊肉人気」が挙げられる。

梁氏の場合、営業を始めた当初は羊肉の仕入れはとても難しかったという。これを扱う精肉業者は少なく、スーパーマーケットの精肉売り場では売っていなかった。それがいまでは普通に売られている。

味坊集団では羊肉をウエールズやアイスランドから輸入して、中国料理店向けの精肉業者に卸すという事業も行っている。ここで取り扱う量が2019年は100tであったが2023年には200tになるという。

都心で店舗を展開するようになってから味坊集団では羊肉串が人気となった。これを最初に食べてからいろいろな羊肉料理を楽しむというパターンが定着している。「香福味坊」ではこれを揚げ物にして、6本500円でメミューに入れている。また羊の丸焼きもアピールしていて宴会の際に必ず選ばれている。

「香福味坊」での羊の丸焼きが推しのメニュー。宴会に華を添える

羊肉人気が近年急速に高まっている背景について、羊肉愛好者の集まりである羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)代表の菊池一弘氏はこう語る。

「羊肉が愛されている理由の一番は、人間に最も近しい家畜だから。肉、骨、皮、毛とすべて人々に恵みをもたらして捨てるところがない。だから太古の時代から人々は羊を育てて、移動するときには羊の群れを引き連れていった。そして、羊肉は宗教上のタブーはない」

「羊肉は近年良質の赤身肉として筋トレする人にとって重宝されている。羊肉は体を温める食べ物で、中国では冬に食べる料理で冷え性の女性におすすめ」

梁氏は羊肉の料理教室を統括することもある。これは一般の人よりも料理人に向けて行なうことが多かった。羊肉というと西洋料理やエスニック料理が連想されがちだが、日本料理の人も新しい食材として注目するようになっている。

食通ではなく普通の若者から愛される

菊池氏は続けてこう語る。

「これまで羊肉には、安くて臭いがあっておいしくない肉というイメージがあった。その後40代以上の食通の人が注目するようになった。しかし、最近では20代30代の人たちが『普段あまり見かけないが、特別な時に食べるちょっといい肉』というイメージで受け止めているようだ」

羊齧協会では羊肉を愛するイベント「羊フェスタ」を2014年11月に第1回を開催、2022年11月に第8回を開催した(2020年は休会)。ここでは年々来場者の人数が増えてきて、来場する層も変化してきた。第8回は11月5日・6日と中野セントラルパークで開催、2日間で4万人が来場した。菊池氏によると「今回は普通のライトな感覚の20代30代が多くみられた」とのこと。羊肉人気が特別なことではなくなってきていることを実感しているという。

味坊集団では「羊フェスタ」に第1回から参加していて例年羊肉串を販売している。2022年の「羊肉フェスタ」ではこれを7,800本売り切った。同社の工場で串に刺しているが、この量はほとんど限界とのこと。

味坊集団は「羊フェスタ」参加の常連。梁氏が率先して焼き台に立ってファンが続々と挨拶にやってくる

このように味坊集団人気が高まっている要因は「ガチ中華」に加えて「羊肉人気」が挙げられる。今日的な食のトレンドが見事に合致している。そして、もう一つ。代表、梁氏のおだやかで人を思いやる気遣いがあり、それがたくさんのお客から愛されているポイントである。

味坊集団オーナーの梁氏。おだやかで人を思いやる気遣いがあって、その温かさに人々はひかれる

image by: 千葉哲幸
協力:味坊集団

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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