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Money image of divorce, aged couple after retirement.

離婚するとなったら、年金は「半分」に分けなきゃいけないのか?

離婚協議後の年金の分割については一般的には「半分に分ける」とよく言われますが、一体どのような方法で行われるのでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、離婚分割について詳しく解説しています。

妻と別れて厚生年金記録を分割してもらったが、再婚後の遺族厚生年金にはどう影響するのか

1.昭和時代の長かった女性の年金は低めの人が多い

昭和61年3月31日までの年金制度というのは女子、特に専業主婦としての役割が多かった人というのは将来の年金額が非常に少ない、もしくはそもそも無年金というのが普通でした。

無年金者がいる事は社会問題だ!って現代では言われますが、昔は専業主婦の人が無年金になってもいいよねっていうそういう時代でした。

ところが、離婚した場合の女性が貧困になる危険性があったため、昭和61年4月以降は専業主婦であろうと必ず国民年金に加入させて、将来は妻の名義で年金を貰う事にする事が出来るようになりました。みんな将来は年金が貰えるようにしましょうと。

ただし、貰えるようになったのは老齢基礎年金のみであり、金額としては多くても月額65,000円程度となっています。

国民年金って低いなあ…と感じているのは、僕の読者様であれば強くうなずくところではないでしょうか。

また、国民年金というのは20歳から60歳まで強制加入させて約年額78万円を貰うというのが本来のやり方なんですが、サラリーマンや公務員の専業主婦というのは強制加入させていませんでした。

そのため、昭和61年3月までは国民年金の記録が無くて、昭和g月から強制加入させても加入期間が短すぎてロクな金額の老齢基礎年金にしかならないというケースも多く存在します。

女性の年金記録を見る時、想像を超えるような金額の低さというのはよく目の当たりにしたものでした。

特に昭和41年4月1日以前生まれの人は、国民年金強制加入となる昭和61年4月1日前に20歳になってしまうので、どうしても加入していなかった期間というのが発生してしまいます。

昭和41年4月2日以降は昭和61年4月1日以降の強制加入時にgになれるから、しっかり加入して保険料を納める事が出来ますね。

しかしながら、昭和61年3月までの強制加入じゃなかった時代も、自ら進んで任意加入していた人も昭和50年代あたりは700万から800万人程居たので結構将来のために保険料を納めていた人も多かったですけどね(任意加入できる人の8割ほどが加入していました)。

さて、とはいっても加入するのは国民年金なので、将来貰言える年金は老齢基礎年金だけとなるため、老後を迎えた女性にとっては心もとない金額です。

もちろん女子も昭和時代に厚生年金加入していた人は普通にいたので、将来は厚生年金と一緒に年金が貰えるのですが、昭和時代は厚生年金保険料を返して将来の年金にしないという制度があり(脱退手当金という)、なかなか人気があったので、それで今の高齢女性の厚生年金が無いとか低いという要因の一つとなっています(昭和61年4月1日以降は厚生年金保険料を原則返せなくなりました。制度廃止)。

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2.一人で生きても不便ではない時代になり、離婚後の資金の足しに年金分割

経済が発展し、日本には便利な家具や機械が増えていったので、わざわざ夫婦二人で協力しないととてもじゃないけど生きていけないような不便な時代ではなくなりました。

昔は、男子であれば働いた後に家事をするとかあまりに面倒な事であり、結婚にも積極的だったと思います。

女子にしても、雇用面では非常に不利な事が多かったですし、男性の雇用が終身雇用や年功序列で安定するならじゃあ私は結婚して家事をやろうという分担になっていました。

時が経ち、1人で生きていく事もお金の面以外であればそんなに不自由ではなくなりました。

それが全ての要因ではないにしろ、熟年離婚もそんなに珍しい事でもなくなってきたので、平成19年4月1日の改正からは、婚姻期間の夫の厚生年金記録を分けてもらう事が出来る離婚分割制度が始まりました。

元夫婦で話し合って分割をどうするか決めるので合意分割と呼ばれますが、平成19年4月1日よりも前の婚姻期間中の厚生年金記録も分けてもらう事が出来ます。

この離婚分割ができた事により、たとえ厚生年金記録が無い妻であったとしても、夫から厚生年金記録を分けてもらう事で将来は老齢基礎年金だけでなく、老齢厚生年金も受給する事が出来るようになります。

老齢基礎年金のみでは全然足りない人も、これで厚生年金が貰えるようになったわけですね。

ただし、夫からいくらでも分けてもらえるというのではなく、あくまで厚生年金記録の最大半分までです。

例えば夫が100万円の年金記録があり、妻は20万円の記録であれば両者合わせて120万円となり、それを両者で公平に半分の60万円ずつ受給するという形になります。

もっと厳密に言うと、厚生年金の計算には標準報酬月額とか標準賞与額というものを使いますよね。

例えば婚姻期間10年間のうち、夫が稼いだ給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)の合計が、月額40万円×120ヶ月+賞与80万円×20回支給=6,400万円稼いでいますよね。

余談ですがココから平均標準報酬額6,400万円÷120ヶ月=533,333円

そうすると年金額は533,333円×5.481÷1,000×120ヶ月=350,783円の老齢厚生年金になります。そういう手順を取っています。

では、その婚姻期間の10年中に妻が年金記録を分割しろ!という事になると、この標準報酬額6,400万円の半分である3,200万円を分割してもらう事になります。

そうすると、夫婦がお互い3,200万円の標準報酬額をもって、将来の老齢厚生年金を計算します。

また、この10年間のうちに妻自身に標準報酬額が2,000万円あったとするならば、夫の記録6,400万円+妻の記録2,000万円=8,400万円となって、これがお互い半分ずつの4,200万円になるように分割します。

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よく巷では「年金を半分分けてもらう!」と言いますが、中身はこういう事を言っているのです。

つまり分けるのはあくまで、この標準報酬月額とか標準賞与額の部分をという事なんですね(分けるというか事務的には6,400万円を3,200万円の報酬に改定するという形ですね)。それ以外の部分を分割するという事はありません。

あと、平成20年4月以降は、妻が国民年金第3号被保険者(夫は厚年加入か共済加入だった)となっている部分であれば、合意無用で妻の一方的な請求で夫の年金記録を半分分割する事が出来ます(3号分割という)。

話し合いなどせずに、一方的に半分分捕る事が出来ます。

憲法でいう財産権の侵害ではないかと思われそうですが、「夫が支払った厚生年金保険料は夫婦で負担したものである」という認識により、年金法でそういう事が出来るようになっています。

なお、一方的に半分分割するので平成20年4月より前の記録は分割する事が出来ません。

さて、この「年金の離婚分割」というのは年金制度の中でも苦手意識を持つ人は多いですが、実際は上記のような事をしているだけなので実態はそんなに複雑ではありません。

とはいえ年金計算をして年金を支払う時は自分たち夫婦でどうのこうの計算するのではなく、実務上はどこの期間をどのくらいの割合で分割するとか、そういう情報の資料を年金事務所に請求して確認する事が出来ます。

年金がどのくらいになるかの見込みもやってもらう事が出来ます(50歳以上の10年以上の未納以外の年金記録がある人)。

分割割合をお互い合意した文書として公正証書などを出してもらって、あとは年金事務所が複雑な計算や支給は行ってくれます。

それはそうと記録を分割してもらう事で老齢厚生年金が受給できたり、より一層年金額を増やしたりできるようになるのですが、他の年金には何か影響するのでしょうか。

今回はそういう点を踏まえて遺族年金との関係を事例で考えてみたいと思います。

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3.妻の厚生年金記録から夫への年金分割

〇昭和40年6月4日生まれのA夫さん(令和5年中に58歳)

1度マスターしてしまうと便利!(令和5年版リニューアル)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法
絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和5年版リニューアル)

18歳年度末の翌月である昭和59年4月から平成4年8月までの101ヶ月間は厚生年金に加入します。この間の平均標準報酬月額は25万円とします。

平成4年9月以降は再就職して非正規雇用者として平成19年3月までの175ヶ月間は国民年金保険料を毎月支払わずに未納にしました(年収は150万円ほど)。

給与が130万円未満になり、平成19年4月から平成30年5月までの134ヶ月間は国民年金第3号被保険者となる(なお、平成4年11月に会社員の女性B子さんと婚姻し、このB子さんとは平成30年5月までの307ヶ月間は夫婦でした)。

ちなみにこの婚姻期間の妻の平成4年11月から平成15年3月までの125ヶ月間は平均標準報酬月額は35万円とし、平成15年4月から平成30年5月までの182ヶ月間の平均標準報酬額は45万円とします。

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※ 補足情報

平成20年4月からは本人が第3号被保険者だった場合は配偶者の厚年記録を半分分割できるようになりましたので、ちょっとB子さんの厚年期間を下記のように分けておきます。

平成4年11月から平成20年3月までの199ヶ月間の平均標準報酬額44万円とします。稼いだ総額は平均44万円×199ヶ月=8,756万円とします。

あと、平成20年4月から平成30年5月までの122ヶ月間の平均標準報酬額を50万円とします。稼いだ総額は50万円×122ヶ月=6,100万円とします。

合計1億4,856万円。

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さて、この夫婦は平成30年6月中に離婚する事になり、夫婦の話し合いで離婚分割(合意による分割)をする事になりました。

分割割合は50%(半分)という事になり、公正証書(このような公文書ではなく夫婦お互いに年金事務所に出向いて合意書に書いてもらってもいい)も用意して後は年金事務所に提出するだけでした。分割の請求ができるのは離婚してから2年以内が時効となっています(平成20年4月以降の国民年金第3号被保険者があるので3号分割が出来そうですが、合意分割のみで進めました)。

離婚してもらえる記録を計算してみましょう。

まず、3号分割せずに合意分割のみなのですが、平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間がある場合はまず、3号分割をやります。

合意分割する時に3号分割できる期間がある時は、「3号分割請求があったもの」としてまず3号分割で強制的に3号分割します。

すると、平成20年4月から平成30年5月までの記録(平均50万円×122ヶ月=6,100万円)を強制的に半分の3,050万円分割。

強制的な3号分割をするとA夫さんは3,050万円の記録を手に入れて、妻B子さんは3,050万円+8,756万円=1億1,806万円となります。B子さんが稼いだ1億4,856万円から1億1,806万円に減りましたね。

で、それから次にこれを合意で50%分割に移ります。

そうすると、夫婦で同じ報酬総額にならないといけないので、夫3050万円+妻1億1,806万円=1億4,856万円×50%=7,428万円となります。

あれ?この事例なら単純に妻の稼いだ記録を半分を夫に渡せばいいだけじゃないの?と思われたかもしれませんが、まず順序として3号分割をしてから、合意分割に進むという過程を示したかったからですね^^;―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年2月22日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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