盛り上がりを見せているWBC。侍ジャパンは現在4戦全勝の快進撃で1位通過を果たしています。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、そんな侍ジャパンを率いる栗山英樹監督のインタビューを掲載。伸びる選手と伸びない選手の違いについて明かしています。
WBC「侍ジャパン」栗山英樹監督の指導力に迫る
いよいよ熱い闘いの幕が上がった第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。
「侍ジャパン」を率いるのは、『致知』の愛読者でもある栗山英樹監督です。栗山監督はいかに自身の指導力、選手育成力を培ってきたのでしょうか。
本誌インタビューよりその原点をご紹介します。
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──栗山監督はプロ野球選手になりたいという夢は、いつ頃からお持ちでしたか。
栗山 「物心ついた時からそう思っていました。というのも僕らの世代は野球しかなくて、しかも王さん長嶋さんの時代だったので、プロ野球選手になりたくてたまらないという感じでしたね。
ただ、大学在学中には教員免許を取って一度は教員になろうと考えたのですが、どうしてもプロ野球選手になることが諦めきれなかった。それでプロチームの入団テストを受けて、ヤクルト・スワローズにドラフト外での入団が決まりました」
──夢に見たプロの世界はいかがでしたか。
栗山 「失敗したな、と思いました」
──失敗した?
栗山 「こんなすごい人たちが集まるようなところに入っちゃいけなかったというのが、正直な思いでした。そう思ってしまうこと自体問題でしたけど、それくらいプロの世界というのは才能の世界なんだっていうことをまざまざと感じさせられましたね。
さらに2年目にはメニエール病といって、平衡感覚が狂う三半規管の難病に罹ってしまい、現役時代はずっと苦しめられました。ただ、それも含めて僕の才能なんだというふうに受け止めようとはしていましたね」
──特に影響を受けた人物はいらっしゃいますか?
栗山 「それは当時2軍監督だった内藤博文さんですね。内藤さんは巨人にテスト生として入団した選手の中で、初めてレギュラーになった方でした。当時結果を出せずに苦しんでいた僕に対して、内藤さんは『人と比べるな』って言ってくれたのが、僕にはすべてでした」
──人と比べるな、ですか
栗山 「いまでこそ内藤さんのおっしゃるような考え方は珍しくなくなりましたけど、当時の野球界でそういう考えをお持ちの方はほとんどいなかっただけに、僕は本当にそのひと言に救われました。
当然、プロの世界ですから人と競争して生き残っていかなければいけません。でも、他の選手と比べるよりも、まずはきょうよりも明日、明日よりは明後日と、少しずつでも自分自身の野球がうまくなっていけばいいと、内藤さんは言ってくれました。
いま思い返しても、僕くらい落ちこぼれるというのは、珍しいくらいの落ちこぼれでしたけど、そんな僕の可能性を内藤さんは信じてくれた。僕はそれが嬉しかったんです。それに昨日の自分よりも少しでもうまくなれというのならできるはずだと思って、内藤さんに喜んでもらおうとひたすら努力しました」
──いまのお話は栗山監督の選手に対する姿勢にも通じるものがあるように感じました
栗山 「選手を成長させ、輝かせるのが監督の一番の仕事だと僕は思っていますからね。
徳川家康が愛読したとされている『貞観政要』に、こんなことが書かれています。唐王朝の2代皇帝・太宗が治めた貞観の時代、城の門には石段が2段しかなかったといいます。それで守りは大丈夫だったかというと、本当に愛情を持って民に尽くしている王であれば、民が守ってくれるから大丈夫だという話です。
物事を成すには、上に立つ者が人々に尽くさなければならないことを、歴史は証明しているわけで、だからこそ僕も監督として、どうすれば選手にとって一番いいことなのか、ということだけを考え続けてきました。
よくチームのために勝つことと、選手を育てることとは時に相反すると考えられていますが、相反しません。むしろ絶対イコールだと信じてやってきました。その結果、選手たちがキラキラと輝いてプレーしてくれたことで、チームが確実に前に進んでいくことができたのだと思います」
──これまでたくさんの選手を見てこられた中で、伸びる選手と伸びない選手の違いはどこにあるとお考えでしょうか
栗山 「まずは野球が本当に好きかどうか、ということです」
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