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プーチンの大嘘。国民が餓死しないだけの国に成り下がったロシアの落日

西側諸国によるロシアへの経済制裁開始から1年余り。この間、「返り血覚悟」とも言うべき厳しさをもってプーチン政権と対峙してきた民主主義国家サイドですが、その効果は十分に発揮されているのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、アメリカの有名大学教授が語ったロシア経済の実状を翻訳・要約して紹介。さらに北野さんがロシア在住時の友人知人から得た現地の情報と併せて、ロシア国民の暮らしと国家としてのロシアが置かれている現状を考察しています。

イェール大学教授「ロシア経済」の実状を語る。いまロシア国内はどうなっているのか?

ロシアは昨年2月24日、ウクライナへの侵攻を開始しました。それで、日本と欧米は、ロシアに厳しい制裁を科した。1年以上が過ぎて、ロシア経済はどうなっているのでしょうか?

私は、モスクワや極東の知人、友人からいろいろ聞いています。皆口をそろえていうのは、「インフレはあるが、物が不足していることはない」ということ。つまり、日常生活で困っていない。

その一方で、自動車、電車、航空機などは、どんどん大変になっているようです。ウクライナ侵攻前、ロシアでは日系、欧米系を含む20の自動車工場が稼働していましたそれが今では、ロシア系2、中国系1工場しか操業していません。しかも、ロシアの国産自動車にはエアバッグがついていない。技術がないので、そうなっているのです。

また、ロシア国内を飛んでいる旅客機は、ほとんどボーインクとエアバスです。ウクライナ侵攻後、リース会社は、「航空機を返してください」と要求した。するとロシア政府は「返さなくてもいい」、つまり「盗んでもいい」とお墨つきを与えてしまいました。

ですが、部品が入ってこないのは致命的です。JALの友人から聞いたのですが、JALの従業員は会社から、「絶対にロシア・アエロフロートの飛行機に乗ってはいけない。落ちる可能性が高いから!」と警告されているそうです。皆さんも覚えておきましょう。

イェール大学ジェフリー・ソネンフェルド教授の意見は? ←h3タイトル

これに関連して、ドイツDW3月5日付にイェール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授の見解が載っていました。

Профессор из Йеля: Путин выдумывает данные о ВВП России

内容を要約しておきましょう(※ 逐語訳ではありません)。

DW 「世界銀行は昨年4月、ロシア経済は2022年、11%減少すると予測していました。しかし、実際は2.1%の減少にとどまっています。IMFによると、今年は0.3%成長するそうです。ロシアは、制裁に対応できているということでしょうか?

 

ソネンフェルド教授 「世銀やIMFのデータは完全に間違っています。というのも彼らは、ロシア国家統計局のデータに基づいているからです。

 

IMFや世銀の幹部は言いませんが、彼らはロシアの現在の輸出入量についてまったくわかっていないのです。なぜなら2022年の第2四半期、ロシア政府は統計を公表するのを止めたからです。

 

つまりIMFと世銀が受け取っている数字は、勝手に作られたものなのです」

このソネンフェルド教授の指摘は本当です。NRI2022年9月9日付(「ロシア経済指標の信憑性」)を見てみましょう。

ロシアの主要な経済指標はウクライナ侵攻後に公表が停止されたため、ロシア経済の実態は外から見えなくなっている。ロシア国家統計局、ロシア中央銀行などの公的機関は、輸出入、債務、原油生産量、銀行、航空会社や空港の利用者数など、それまで定期的に公表していた指標の公表を次々に停止した。先進国側に手の内を見られないよう、弱みを見せないようにするための戦略である。

ソネンフェルド教授 「プーチンの経済が生き残っている理由は二つあります。一つは、プロパガンダです。彼は朝起きるとGDPの数字を考えて発表します。そして、IMFと世銀はその数字を本当だと認定します」

 

DW 「2023年の本当のGDPはどうなると思いますか?」

 

ソネンフェルド教授 「私たちにはわかりません。私は、プーチンがそうしているからという理由で、勝手に数字を考え出すことはできません。

 

私たちが知っているのは、経済のすべての主要部門が落ち込んでいるということです。自動車産業の落ち込みは10%、20%、30%ではなく、99%です。小売りは65%減少しています

 

私たちは、これらのデータを、ロシアに売っている人たち、ロシアから買っている人たちから得ています。もちろん第三国経由でロシアに入ってくる家電の密輸もありますが」

ソネンフェルド教授 「IBMを解雇されたエンジニアたちは、(もし彼らがジョージアやウズベキスタンに逃げていなければ)ロシアで道路の掃除をしています。こうやってプーチンは、人々が国から給料を得れるようにしているのです。

 

プーチンは、どうやってこれをファイナンスしているのでしょうか?減少している外貨準備によってです」

ソネンフェルド教授 「プーチンは部品を得るために機械を分解しています。私たちは軍事目的で必要な半導体を得るために破壊された何千もの冷蔵庫の写真を見せることができます」

DW 「年次教書でプーチンは、「制裁にかかわらず、ロシア経済は順調に発展している」といいました。彼は、誰を納得させたいのでしょうか?自国民でしょうか?国際社会でしょうか?」

 

ソネンフェルド教授 「プーチンは、二つの観客を相手にしているのです。

 

記録的な失業率と戦争による大量死を心配しているロシア国民を安心させたい。彼らが宣言していた『3日間で勝利』はできなかったのですから。

 

そして、ウクライナの同盟国の決意を弱めようとしているのです。プーチンは、この戦争は消耗戦だと考えています。彼は、国際社会に『プーチンを止めようとする試みは成功しない』と確信させることで、勝利できると考えているのです。

 

しかし、そうではありません私たちは、(ロシアが)毎日15億ドル失っていることを知っています。『欧州がもう買わない石油を、インドや中国が買っている』という人たちがいます。ですが、中ロがロシア産石油に支払っている価格はあまりにも低いので、ロシアはガロンごとお金を失っているのです」

 

北野註:中国とインドは、ロシア産原油を市場価格の35~40%引きで輸入しているといわれています。

教授の話はまだまだ続きますが、長くなったので続きは別の機会に。

教授の話や、ロシアに住む知人、友人からの話から実状は以下のような感じだと思われます。

現状、こんな感じだろうと思います。

ロシアは、さすがにエネルギー大国、食糧大国、核兵器大国。日本と比べれば、「制裁への耐性はものすごくある」といえるでしょう。

しかし、私は、ウクライナ侵攻開始時から「制裁の影響は長期で見る必要がある」と書いていました。

ロシアはすでに、「エアバックのある自動車を生産できない国」「生産する自動車の排気ガスは30年前のレベル」まで落ちてしまいました。

確かに国民が飢え死にすることはないかもしれませんが、「それだけの国」になりつつあります。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2023年3月10日号より一部抜粋)

image by: KELENY / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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