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プーチンに「逮捕状」の衝撃。21世紀のヒトラーはどの国で身柄拘束されるか

ウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン大統領に対し、戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行した国際刑事裁判所。全世界を大混乱に巻き込んだ独裁者の逮捕は、果たしてあり得るのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、プーチン氏にかけられた容疑のより詳しい内容を紹介するとともに、「逮捕の可能性」を考察。さらに逮捕状発行が持つ大きな意味を解説しています。

プーチンの戦略的大敗北。国際刑事裁判所が逮捕状発行で「容疑者」に

3月17日、驚くべきできごとがありました。国際刑事裁判所がプーチンに【逮捕状】を出したのです!BBC NEWS JAPAN3月18日

オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出した。

プーチンに【逮捕状】!!!

ところで、国際刑事裁判所とは、何でしょうか?アムネスティインターナショナルのサイトを見てみましょう。

国際人権法 – 国際刑事裁判所とは

国際刑事裁判所(International Criminal Court,略称:ICC)は、国境を越えて、各国際機関から独立して、人権侵害の加害者を裁くことができる、歴史上初めての「国際的に活動する常設の普遍的な刑事裁判所」です。国家や武装グループ等の集団を裁くことはできず、加害者個人を裁きます。

とのことです。つまり、「プーチン個人」を裁くことができると。

そんな国際刑事裁判所が、プーチンに逮捕状を出した。どういう容疑なのでしょうか?

ICCは、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しており、プーチン氏にこうした戦争犯罪の責任があるとしている。
(BBC NEWS JAPAN3月18日)

ロシアがウクライナから子供を連れ去っている。このこと、日本のメディアも報じていますね。たとえば↓

【全編】ロシアによる子供連れ去りの実態【報道特集

再びアムネスティのHPを見てみましょう。

ICCは、次のような罪を犯した個人を裁くことができます。

 

  • 「ジェノサイド罪」(集団殺害罪):特定のグループを狙った集団虐殺や集団レイプなど。
  • 「人道に対する罪」:拷問や、女性や子どもの人身売買、強制失踪(注:国家や政治組織により行われる強制的な逮捕や誘拐のこと)など。
  • 「戦争犯罪」:武力紛争下において罪のない一般市民の殺害、平和維持活動をしている人への攻撃、学校や病院などの軍事目的ではない建物への攻撃など。

今回は、「強制失踪」(注:国家や政治組織により行われる強制的な逮捕や誘拐のこと)の容疑なのでしょう。ちなみに、

「戦争犯罪」:武力紛争下において罪のない一般市民の殺害、平和維持活動をしている人への攻撃、学校や病院などの軍事目的ではない建物への攻撃など。

でもいけそうですが。

「これからも子供を連れ去り続ける」と宣言するロシア

なぜ、「子供の連れ去り」で逮捕状なのでしょうか?もちろん、はっきりはわかりません。しかし、想像はできます。

ロシアは、ウクライナから子供を連れ去っていることを認めています。

この動画、13分16秒から見てください。

【全編】ロシアによる子供連れ去りの実態【報道特集】

子供の権利担当マリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表(彼女にも逮捕状が出ています)が、マリウーポリの15歳の孤児を養子にしたことを明らかにしています。

曰く「ドンバスの子供の母親になるのは大変ですが、私たちは愛し合っています」。

そして、ロシアメディアでは、「ウクライナで保護された」という子供たちがロシア領内に連れてこられる映像がたくさん流れています。

ロシア政府は、「ウクライナの子供たちを救っている」という視点。しかし、国際法的にいうと

強制失踪(注:国家や政治組織により行われる強制的な逮捕や誘拐のこと)など。

にあたる。「ロシアが子供連れ去りの事実を認め、公言している」ことから、「罪を証明しやすい」ということなのでしょう。

そして、ロシア側は、「これからも子供連れ去りをつづける」と宣言しています。時事3月18日。

共に逮捕状を出されたリボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)は、ICCが問題視したウクライナの占領地からの子供連れ去りは「保護」と主張。「われわれは仕事を続ける」と宣言した。

国際刑事裁判所にいわせれば「ロシアは、これからもウクライナの子供たちを誘拐しつづけると宣言している」となります。

各国の反応を見てみましょう。まず、ロシアから。

逮捕状が出されてから数分後、ロシア政府は即座に戦争犯罪疑惑を否定した。

 

ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官はICCの決定はいずれも「無効」だと主張。ドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は、逮捕状をトイレットペーパーに例えた。

 

メドヴェージェフ氏は、「この紙をどこで使うべきかなんて、説明する必要もない」と、トイレットペーパーの絵文字付きでツイートした。
(BBC NEWS JAPAN3月18日)

次にウクライナの反応。ウクライナは、大いに喜んだことでしょう。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「国家による悪」を追及すると決定したカーン検察官とICCに感謝していると述べた。

 

同国のアンドリイ・コスティン検事総長は、「ウクライナにとって歴史的」な決定だとした。アンドリー・イェルマク首席補佐官は「まだ始まったばかりだ」と称賛した。
(同上)

アメリカは。

アメリカのジョー・バイデン大統領は、逮捕状は「正当だと思う」と述べた。アメリカはICCに加盟していないが、ICCは「非常に強力な主張をしていると思う」、プーチン氏が「戦争犯罪を犯しているのは明らかなので」と述べた。
(同上)

プーチン逮捕は困難。それでも「逮捕状」が大きな意味を持つ訳

ここから、「国際刑事裁判所がプーチンに逮捕状を出したこと」の「実際的意味」について考えてみましょう。

これで、プーチンは、逮捕されるのでしょうか?

その可能性は、極めて低いといえるでしょう。なぜでしょうか?

国際刑事裁判所に参加している国は123か国です。国連加盟国が193か国。つまり国連加盟国の63%が参加している。別の言葉で、37%の国が参加していない。しかもアメリカ、中国、ロシアなど、大国が不参加である。ちなみに日本は参加国です。

しかし、123か国が参加しているのも事実。もしプーチンが、世界123か国の一国に出現したら、その国は彼を逮捕する【義務】があります。

ちなみに、プーチンは、もう日本に来ることができなくなりました。既述のように日本は、国際刑事裁判所の参加国。プーチンが日本に来たら、【逮捕する義務】があるのです。

プーチンは123か国に行くことができなくなりました。とはいえ、プーチンは、逮捕される国には行かないでしょう。

「国際刑事裁判所がプーチンに逮捕状をだした」といっても、実際に逮捕される可能性は低い。ですが、【象徴的な意味】は、大きいといえるでしょう。

プーチンはロシアの大統領ですが、世界123か国にとっては、オフィシャルに【戦争犯罪容疑者】になりました。これは、どう考えても、ロシアの国際的権威失墜でしょう。

こういうのも、ウクライナ侵攻による【戦略的敗北】の一つですね。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2023年3月19日号より一部抜粋)

image by: Evgenii Sribnyi / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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