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頼りにならない国ニッポンの岸田首相「ウクライナ電撃訪問」が意味するもの

21日、ウクライナの首都・キーウを電撃訪問した岸田首相。G7首脳の中で、ウクライナを訪問していないのは岸田首相だけだったこともあってか、「サミットに出る前に無理やり行った」との批判も集まっています。しかし、「この訪問は日本にとってもプラス」と見解を示すのは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんです。ウクライナの側に立つことを鮮明にすることは、日本国の国益に沿った行動であると解説しています。

岸田さんのキーウ電撃訪問の意味

皆さんご存知と思いますが。岸田さんは3月21日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問、ゼレンスキーと会談しました。

今回は、この訪問の意義について考えてみましょう。

ウクライナ側にとって意味ある訪問

ウクライナ側から見ると、正直日本は「あまり頼りにならない国」でした。なぜでしょうか?

一つは、地理的に遠い。ウクライナ戦争は欧州で起こっています。それで、ウクライナをもっとも熱心に支持、支援しているのは、ポーランドやバルト三国など。つまり、「ウクライナの次にプーチンのターゲットにされそうな国々」です。

少し西側に進むと、迷いが入ってきます。つまり、フランス、ドイツ、イタリアなどは、「ウクライナが多少領土を譲っても停戦すべきだ」と考えている。

距離の遠いアメリカは、どうでしょうか?確かに、アメリカは、ウクライナにとって最大の支援国です。しかし、共和党のトランプ派は、「ウクライナ支援を止めろ!」と一貫して主張しています。だから、バイデンが代わったらどうなるかわかりません。

日本は、正直にいえば、「ウクライナ戦争を自分事として感じている人」は、とても少ないでしょう。その理由は、「遠いから」です。

一方、「近い」中国による台湾侵攻の可能性については、とても気になります。距離が影響をもっているのは、ウクライナにとっても同じこと。

ウクライナが日本にとって、「あまり頼りにならない国」である二つ目の理由は、日本は平和憲法の国で、武器を供与することができない。そして、ウクライナが今もっと欲しいのが、まさに武器なのです。

ゼレンスキーは欧米に、「戦車をくれ!」「戦闘機をくれ!」と要求しつづけています。日本は、武器を供与できない。

以上二つの理由で、日本はウクライナにとって「あまり頼りにならない国」でした。しかし、今年の日本、今年の岸田さんは、他の年の日本、他の年の岸田さんと違います。

何が違うのでしょうか?そう、日本が今年、「G7の議長国である」ということ。

これは、重要でしょうか?重要です。

G7の他に、G20がありますね。G20の参加国は、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、欧州連合(EU)、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ。

ここには、ロシアがいる。さらに、ロシアに比較的近い中国、インド、ブラジル、南アフリカ(つまりBRICS諸国)がいる。

政体もさまざま。民主主義の国もあれば、サウジアラビアのように絶対王政の国もある。中国のように、共産党の一党独裁国家もある。

要するに、「ウクライナ支持」で一体化していないのがG20なのです。

一方、G7、つまり、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダは民主主義、資本主義で価値観が一致しています。もちろん、細かく見れば、既述のように揺れている国もあるでしょうそれでも、一応「ウクライナ支持、支援」「反ロシア」で一体化している

日本は今年、「ウクライナ支援の核」であるG7の議長国である。だから、ウクライナにとって、「今年の日本」「今年の岸田さん」は重要なのです。

岸田さんがキーウに来てくれた。当然ゼレンスキーは、歓迎しました。そして、SNSにこんな文章を投稿しました。

国際秩序の力強い守護者でウクライナの長年の友人である日本の岸田総理大臣をキーウに迎えたことをうれしく思う」

そして、ウクライナ政府は、こんな動画を公開しています。

Встреча Зеленский ? Кишиду. Рабочие моменты

@ロシア語のコメントは、荒れているようですが。

岸田さんは、何をいったのでしょうか?

「何としてもG7広島サミットまでにウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と直接話し、日本の揺るぎない連帯を伝えたいと強く願っていた」

ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だ。キーウとブチャを訪問し、惨劇を直接目の当たりにしてこのことを改めて強く感じている」

「今後も日本ならではの形で切れ目なくウクライナを支えていく。ウクライナの美しい大地に平和がもどるまで日本はウクライナとともに歩んでいく」

実に力強いメッセージを出しました。

日本はウクライナに武器を供与できない。しかし、G7議長国の日本の総理が、「ウクライナの美しい大地に平和がもどるまで日本はウクライナとともに歩んでいく」と宣言した。

岸田さんは5月のG7広島サミットで、「がんばって、ウクライナを支援しつづけていきましょう!」と、議論をリードすることでしょう。

この訪問は日本にとっても大きなプラス

今回の訪問について日本では、「G7首脳の中で、ウクライナを訪問していないのは岸田さんだけ。そのままサミットに出るのは恥ずかしいから、無理していった」というような話をよく聞きます。

もちろん、そういう要素は大きかったでしょう。それはともかく、岸田さんのキーウ訪問は、日本にも大きなプラスです。なぜでしょうか?

岸田さんはいいました。

「ロシアによるウクライナ侵略は 国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だ。キーウとブチャを訪問し、惨劇を直接目の当たりにしてこのことを改めて強く感じている」

「今後も日本ならではの形で切れ目なくウクライナを支えていく。ウクライナの美しい大地に平和がもどるまで日本はウクライナとともに歩んでいく」

日本は、「反ロシア」「親ウクライナ」の立場を明確にしたのです。これは、とても重要なことです。なぜでしょうか?

ウクライナ戦争は、二つの視点から見る必要があります。「善悪論」と「勝敗論」です。

「善悪論」で、日本には、「ロシアは悪くない」と主張する人が一定数います。しかし、以前にも書きましたが、「善悪論」には明確な基準があります。そう、国際法。国際法によると、合法的な戦争は、「自衛戦争」「国連安保理が承認した戦争」の二つだけ。

ウクライナはロシアを先制攻撃していないので、これは「自衛戦争」ではありません。当然、国連安保理も承認していない。

だから、ウクライナ戦争が、「国際法違反の戦争」であることは、議論の余地すらないほど明白です。だから、国連加盟国140か国以上が、ロシアのウクライナ侵攻を非難しているのです。

ウクライナ侵攻を支持している国は、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアだけです。

次に「勝敗論」ではどうでしょうか?現在のロシアの状況を、戦前戦中の日本と重ねて語る人がいます。「かつて日本を追い込んだグローバリストが、今度は、ロシアを追い込んだ」と。

今のロシアと、戦前戦中の日本を同じに扱ってほしくはありませんが。それでも、「そうである」と仮定してお話しましょう。聞きたいのは、「で、その戦争、どっちが勝ったのですか?」です。

そう、負けたのは日本です。

同じロジックであるなら、今回負けるのはロシアでしょう。そうであるなら、なぜ日本が負ける側につく必要があるのでしょうか?

実際、現在の中国ロシアは、戦前戦中のナチスドイツ、ファシズムイタリアと同じです。ナチスドイツはユダヤ人を虐殺し、中国共産党はウイグル人を虐殺している。

日本はかつて、ナチスドイツ、ファシズムイタリアと軍事同盟を組んで、必然的に敗北しました。今回は、「勝つ方」について戦勝国になりましょう。

ウクライナ戦争について、岸田さんは、最初からウクライナ側についていました。そして、習近平がロシアを訪問している最中に岸田さんはウクライナを訪問し、日本国の立場を鮮明にしたのです。

日本は、ウクライナの側に立つ。これは、善悪論で善の側であり、なおかつ、勝敗論で勝利の側。要するに、完全に正しく、日本国の国益に沿った立場なのです。

増税はやめて欲しいですが、今回の訪問については、「岸田総理、ありがとうございます!」と感謝したいです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年3月22日号より一部抜粋)

image by:首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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