3期目に入った中国の習近平政権の外交攻勢をまたも印象付けたのが、フランスのマクロン大統領の訪中でした。中国側の歓迎ぶりへの返礼とはいえ、大統領が「フランスと中国の友情、万歳」とツイートしたことは中国国内で大きな話題となったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、マクロン大統領が中国側に語った言葉や共同声明の内容を紹介。北京の飲食店で感じた消費マインドの変化に触れ、取り戻した経済力を背景に、コロナで停滞していた外交も一気に流れ、変化し始めたと伝えています。
フランスとの関係強化に成功した中国の外交攻勢は「一帯一路」10周年の序章に過ぎない
3年半前の北京と比べて、何が変わりましたか?白い綿毛の柳絮の舞うなか、日本のビジネスマンからこう問われて答えに窮した。というのも、コロナ前の北京と何も変わっていないと気付かされ、不思議な気持ちになったからだ。
コロナ禍の後遺症で消費の回復は鈍いと聞かされていたのだが、そんな印象はない。とくにレストランはどこも満員で、少し話題の店ともなれば予約を入れようとしても、ほとんど断られるほどだ。ある意味、コロナ前以上の活況なのだ。
夜8時を過ぎてようやく席が空いた四川料理店では、テーブルマネージャーが赤い砂時計を客の目の前でドンとひっくり返し、こう宣言する。「時間内に料理が届けられなければ割引します」。そして、その通りにテーブルは瞬く間に皿で満たされるのだ。
「中国は競争が激しいので、サービスの質は日々向上しています」かつて日本にも留学した経験もある北京の会社経営者が語る。「ほとんどの日本人はいまも『サービスは日本の方が上』と思っているでしょうが、それは過去の話。日本を訪れる中国人観光客も、もうそんな期待はしていません。逆に日本人がいま、中国の有名レストランで食事をしたら、過剰なほどのサービスに驚くでしょうね」
飲食業界の浮沈は中国人の消費マインドを測るバロメーターの一つだ。その視点からすれば、一部で電気自動車の売り上げに陰りがみえても、コロナ前の状況をほぼ取り戻したとみて間違いなさそうだ。
さて、その活気を取り戻した中国のネットでは北から南へと縦断して帰国した首脳のニュースが注目を浴びた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領である。去り際に、「ありがとう、広州。フランスと中国の友情、万歳」と発信したことも話題となった。
ツイートは広州の猟徳大橋をトリコロールにライトアップして染めた中国側の演出に対する返礼だが、中国と西側先進国との間でこうしたやり取りが見られるのは久しぶりのことだ。
人民日報のサイトに掲載された両首脳の写真のなかで、習近平が満面の笑みを浮かべているのもむべなるかな。中仏の演出は、コロナが去り、閉塞感のなかで停滞していた外交が一気に流れ始めた印象を残した。実際、双方にとって成果の大きな外交となったはずだ。
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発せられた共同声明は、一、政治対話の促進と相互信頼醸成の強化。二、世界の安全の安定の促進のためにともに取り組む。三、経済交流の促進。四、人的交流の再構築。五、地球規模の問題に共同で取り組むという5つのパートから構成され、なかに51の個別の合意が記された。
人民日報の記事によれば、マクロン大統領は、「フランスは『一つの中国』政策を尊重し、遂行している。私が今回大規模な代表団を率いて訪中したのは、中国側との協力強化、人的・文化的交流の促進を望んでのことだ。フランスは中国側が常に国連憲章の趣旨を遵守し、国際・地域的な紛争問題の解決に積極的役割を果たしていることを評価しており、中国側と緊密な意思疎通と協力を行い、世界の恒久的な平和と安定の実現に努力することを望んでいる」と語ったという。
昨年のロシアによるウクライナ侵攻から、国際ニュースはロシア・ウクライナ戦争一色に染まり、今回のマクロンの訪中もその視点で報じられた。
首脳会談の冒頭、マクロンが「ロシアに理性を取り戻させ、みんなを交渉のテーブルにつかせるにはあなたが頼りだ」と習近平を持ち上げたことから、その色彩はさらに強まったが、いうまでもなくフランスにとって最重大の関心事は自国の利益であり、それは同時期に北京に入ったフォンデアライアンEU欧州委員長も同じであった──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年4月9日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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