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個人情報の流出は必至か。不安しかない「マイナ保険証」をゴリ押しする政府の無責任

2024年秋にマイナンバーカードと完全一本化されるため、原則廃止となる方向で進む従来の健康保険証。マイナンバーカードを巡っては、2017年からの5年間で少なくとも3万5,000人分の情報が紛失・漏洩したとの報道もありますが、健康保険証の機能を乗せることにリスクはないのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、様々な面からその危険性を検討。さらにマイナポータル利用規約に記載されている驚くべき「免責事項」を白日の下に晒しています。

強引な誘導に疑問。ゴリ押し「マイナ保険証」のリスクを心配する

つい先日、かかりつけのクリニックを訪れたさい、見慣れぬ器械が受付に置いてあった。

マイナンバーカードを読み取って健康保険に加入しているかどうかの「オンライン資格確認」をするカードリーダーで、今年4月から原則として義務付けられているそうだ。

筆者はマイナンバーカードを持っていない。カードをどこかに置き忘れたり、紛失するのが怖いし、個人情報が漏洩したり、悪用される不安もあるからだ。

そんなわけで、この器械と自分は関係ないのだと思い、その時はたいして気にも留めなかったのだが、後日、健康保険証がとんでもないことになっているのに気づいた。

来年秋、健康保険証を原則として廃止し、マイナンバーカードに保険証の情報をデジタル的に紐づけた「マイナ保険証」に一本化するというのである。岸田政権はそのためのマイナンバー法など関連法改正案を今年3月7日に閣議決定し、今国会に提出している。

どうしてもマイナ保険証がいやだという人には、健保組合などが保険証の代わりとなる「資格確認書」を無料で発行することにはなっているが、有効期限が1年で、健康保険証のように自動更新ができないから、自分で1年ごとに更新の手続きをしなければならない。しかも、資格確認書を使用している限り、毎回の受診料がマイナ保険証より高いのだ。格差をつけて、マイナ保険証への切り替えに誘導しているわけである。

いつ、こんなことになったのか。たしか、マイナ保険証か、現行の健康保険証かは選択できるのではなかったのだろうか。そんな疑問から、この法案のもととなった昨年6月7日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2022」を確認すると、以下のような記述がある。

患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。

筆者の頭には「保険証発行の選択制」という文言が記憶されていたため、現在の健康保険証がそのまま残ると思っていたのである。よく読むと、「保険証の原則廃止を目指す」となっていた。

しかし、岸田首相はその後も、「マイナンバーカードを取得しない人でも保険料を払っていれば保険診療を受けられる制度を用意する」と国会で答弁していたのである。

その制度が「資格確認書」なのだろうが、受診料や手続きの違いを除くと実質的に健康保険証と変わらないとはいえ、正式の保険証ではないのも確かであり、やはり不安は拭えない。

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政府への信頼不足か。日本に電子行政が根づかなかった訳

そもそもマイナンバーカードを持つかどうかは「任意」であって「強制」ではない。それなのに、マイナンバーカードの健康保険証としての利用を強制するようなやり方には矛盾を感じる。

むろん、この国で遅まきながらもデジタル化社会をめざそうというなら、マイナンバーカードの利用拡大は必須であろう。だが、住基ネットに見られるように、これまで国民識別番号による電子行政が根づかなかったのは、政府への信頼が不足していたからではないか。

マイナンバーカードなら、大丈夫だというのだろうか。個人番号に紐づけされた健康保険の医療情報がハッキングされたり、漏出したり、悪用されたりする心配はないのだろうか。

マイナ保険証(オンライン資格確認)について、政府は「患者の医療情報を有効に活用して、安心・安全でより良い医療を提供していくための医療DXの基盤となるもの」としている。医療のデジタルトランスフォーメーションの基盤にしたいというのである。

経済産業省はDXをこのように定義づけている。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデル、組織、企業文化を変革し、競争上の優位性を確立すること」。要するにデジタルによる産業革命のようなものだ。

医療の業界についてもそれを進めようということなのだろう。具体的にどうしたいのかについては、先に示した「骨太方針2022」のマイナ保険証についての記述に続く次のくだりで明らかだ。

「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。

全国医療情報プラットフォームは、日本の医療分野における情報のあり方を抜本的に改革するためにと、2022年5月に自由民主党が提言した。中身は次のようなことだ。

「オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有する全国的なプラットフォームのこと」(日経メディカル)

つまり、マイナ保険証のシステムは、クラウド型電子カルテを標準化し、その医療情報を行政や医療界、産業界が共有し、利用・活用することまでめざしているのだ。

デジタル世界では、毎日のように不正アクセスなどによる情報漏洩事件が発生している。個人の医療情報が広く共有されるということになると、それだけ流出の危険性は高まるだろう。

当然、患者の個人情報の秘匿の観点から、マイナ保険証に反対する医師も数多い。

東京保険医協会の呼びかけで、保険医・歯科保険医274人が今年2月、オンライン資格確認義務化の違憲・違法性を訴えて、国を相手に東京地裁に提訴したのはその顕著な例だ。

「オンライン資格確認システムを利用しインターネット回線に接続することにより、カルテ情報等の漏洩の危険が生じている」というのが、提訴の理由らしい。

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マイナポータル利用規約に記載された驚きの「免責事項」

マイナンバーの中核システムは「情報提供ネットワークシステム」といい、その設計・開発を行っているのはNTTコミュニケーションズとNTTデータ、富士通、NEC、日立製作所のコンソーシアムである。

そのうちNTTデータは、医療情報をビッグデータとして二次利用する業務に携わっている。医療機関の電子カルテデータを含む実名の医療情報の提供を受け、それらを匿名化した情報を、研究機関や自治体、製薬企業などへ有料で提供する政府認定の事業だ。つまり、全国医療情報プラットフォームの先駆けのようなことをすでにやっているのである。

ところが昨年、患者の医療情報を利活用するにあたっては、あらかじめ本人に通知することが必須なのに、プログラムの不具合により、通知しないまま約9万5,000人分の患者データがデータベースに混入してしまう不手際があった。

今後、マイナ保険証を基盤とした医療情報の利活用が本格化すれば、個人情報にかかわるさまざまな問題が噴出してくる可能性がある。その場合、政府は責任をとるつもりがあるのだろうか。

あるどころか、マイナポータル利用規約には免責事項として、「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」と書かれているのである。

そのくせ政府はメリットばかりをあげてマイナ保険証への移行を急がせる。例えば「自分の健康情報を統合的に管理することができる」「重複する投薬を回避した適切な処方を受けることができる」「簡単に医療費控除申請の手続きができる」…などだ。

このようなメリットがあるにしても、どうしても必要なものかとなると疑問が残る。「重複する投薬を回避した適切な処方」というが、「お薬手帳」があれば十分だろう。

便利なデジタル社会に移行するのはいいが、そのさい肝心なのは、システムへの信頼性だ。

たとえば、デジタル先進国のエストニアでは、セキュリティサーバーにより、日本のマイナンバーにあたる国民ID番号とIDカードを誰がいつ利用し、どのような意思決定が行われたかなどを復元できるため、そこから個人情報が盗み取られたり、悪用されたりする心配のないシステムになっている。

日本政府もこの20数年、デジタル化への意欲だけは示してきた。2001年に、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を設置し「5年以内に世界最先端のIT国家になる」とぶち上げた。その結果、ブロードバンドインフラについては高い水準に達したが、「世界最先端のIT国家」にはほど遠い。各省がバラバラにIT投資、施策を進めたためである。その背景には、省庁や族議員とつながっている経済界の既得権益がある。

やがて、健康保険証を原則として廃止し「マイナ保険証」に一本化する法案の国会審議がはじまるだろう。政府が責任をとらないというマイナポータルに、本当に信頼を置けるのか。どこまで突き詰めた議論ができるのか。心配は募るばかりだ。

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image by: umaruchan4678 / Shutterstock.com

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