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自滅した高市、世耕、西村。地方選と補選でポスト岸田を狙う面々の手痛い「敗戦」

4月9日と23日に行われた統一地方選と衆参両院の補選。日本維新の会の躍進ぶりが目についた選挙となりましたが、手痛い「黒星」を喫した自民党内の実力者もいたようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、一連の選挙で「自滅」したポスト岸田の座を狙う3名の議員たちの、敗戦までの過程を紹介。さらに一連の選挙で露呈した、自民党の抱える深刻な問題について解説しています。

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実力者たちが次々自滅。地方選と補選で露呈した自民が抱える深刻な問題

統一地方選と5つの衆参補欠選挙が終わって、何がどうなったかと問われたら、関西圏における日本維新の会の勢力拡大がやたら目立ったと答えるほかないだろう。

自民党は衆参補選で4勝1敗だと言っても、衆院千葉5区、山口2区、参院大分は僅少差で、時の運しだいでは1勝4敗もありえたほどの大接戦だった。

そんななかで、筆者が関心を向けたのは、地元で候補者を擁立したすえに“敗者”となった自民党実力者たちの姿だ。いずれもポスト岸田を虎視眈々と狙う面々だけに、権力レースのうえで痛い黒星といえる。

自民党参議院幹事長の世耕弘成氏は和歌山1区に元衆院議員、門博文氏を擁立し、維新の新人、林佑美氏に敗れた。

周知の通り、世耕氏は安倍派に所属し、安倍晋三元首相が亡くなって10か月近く経ってもなお決まっていない後継会長の有力候補の一人である。

その地元・和歌山の衆議院1区で補欠選挙が行われることになったのは、2009年以来5回にわたって議席を獲得していた岸本周平議員(当時・国民民主党)が昨年11月の和歌山県知事選に出馬したからだ。

空いた議席をめぐる自民党和歌山県連の候補者選びは難航をきわめた。県連の最高権力者である二階俊博元幹事長は当初、直系の参院議員、鶴保庸介氏をくら替え出馬させる案をまとめようとしたが、世耕氏が横やりを入れた。

岸本知事の誕生を後押ししたのも二階なら、鶴保氏の参院から衆院へのくら替えを主導するのも二階という県連の権力構造を打破したかったからだろう。

世耕氏自身が総理の座をめざすため、衆院にくら替えするチャンスをうかがっている。だが、近いうちに衆院解散が予想されるなか、今回の補選には出たくなかったに違いない。

狙うとすれば解散後の総選挙だが、昨年11月28日に公布された改正公職選挙法により、「10増10減」の新区割りが適用され、和歌山の衆院小選挙区は3から2に減ることになっている。ただでさえ狭くなる門に、参院から割り込むのはかなりの荒業だ。

そこで世耕氏にとって重要なのは、県連における二階氏の主導権を奪い取ることだった。鶴保氏に替わる候補者として世耕氏が推した門博文氏もまた二階派ではあるが、なにより世耕氏の人選が通る形をつくることが大切だった。

もちろん、推す候補者が負けては話にならない。門氏で勝てると踏んで後押ししたのだが、党勢拡大をはかる維新が和歌山まで進出し、保守王国の牙城を崩すとは想像も及ばなかったに違いない。

門氏の落選が確実になったあと、二階氏は集まった支援者になにも語ることなく、選挙事務所を後にした。

世耕氏は「和歌山選出の議員として地元を落としてしまい申し訳なく思っている。かつてないほどの運動を展開したつもりだが…」と悔しさをにじませた。

二人の姿が全てを物語っていた。世耕氏が責任を引き受けた瞬間だった。

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自業自得の高市早苗、相手が強すぎた西村康稔

維新の凄まじい勢いは高市早苗氏(経済安全保障大臣)の野望も打ち砕いた。前半戦の奈良県知事選。高市氏が会長をつとめる自民党奈良県連は、高市総務相時代の秘書官、平木省氏を推薦したが、それに現職市長の荒井正吾氏が反発し、自民の一部県議らが荒井氏の支援に回る保守分裂選挙となったため、維新が公認した元生駒市長、山下真氏の圧勝を許した。

なぜ高市氏が荒井氏を擁立しなかったのかについては、世論調査の結果だとか色々な理由があげられているが、要は、自分の扱いやすい平木氏にすげ替えたかったということだろう。

だが、荒井氏は頑として引き下がらず、党本部に泣きついた。昨年11月に、森山裕・自民党選対委員長から電話で「出馬した方がいい」と励まされたのに意を強くしたのか、12月には党本部を訪れ、二階元幹事長から「がんばれ」と尻を叩かれた。

荒井氏が出るとなれば、県連は一枚岩というわけにはいかない。文字通りの分裂選挙となり、票は大きく割れた。高市氏の敗戦の弁も、恨み節に終始した。

「県連推薦以外の方を党本部が応援したのではないかという疑問の声も上がっている」「県連が分裂したように報じられることは、平木候補を全力で応援してくれた県連の皆様から耐え難いという声をいただいている」

荒井氏とうまく話をつけることをせずに、党本部が悪い、メディアが悪い、とまくしたてても、後の祭りだ。問題は高市氏自身にある。

世耕氏と同じく安倍派の後継会長の座を狙う西村康稔氏(経産相)もまた、今回の統一地方選では痛い目にあった。

明石市長選。といっても、戦う相手は維新ではない。子育て支援で全国的な知名度を誇る明石市長、泉房穂氏が2011年2月に設立した地域政党「明石市民の会」だ。

暴言問題の責任をとり4月末の任期満了で退任する泉氏が「明石市民の会」推薦の後継者として送り出した丸谷聡子氏が大差をつけて当選し、西村氏が担いだ林健太氏はあえなく落選したのである。

西村氏は明石市と淡路島を区域とする衆院兵庫9区で7期当選を続けている。泉氏とは東大時代からの知り合いだ。泉氏の動きに対抗するため、県連の意向をさしおいて、自民党市議のなかから「若い力に期待したい。全責任を取る」と林氏を指名した。

しかし、泉氏の人気は並外れていて、明石市議選でも「明石市民の会」に所属する5人が全員当選した。

西村氏は選挙結果を受け「完敗だ。候補者自身はよく頑張ったと思う。全責任は私にあると考えている」と語った。

西村氏は4月16日放送のBSテレ東番組で、「日本の将来のため、リーダーとしてやらなければならないという気持ちは強く持っている」と述べ、首相をめざす意欲を示したばかりだ。

しかし、西村氏については、その過度な要求にストレスをかかえた秘書が次々と辞めていったことが週刊誌で報じられるなど、人望のなさが問題にされることが多い。

西村氏と灘校・東大の同窓である精神科医の和田秀樹氏は「頭はすごくいいけれど、人の気持ちへの共感能力が極めて低い。地元兵庫や記者も、上から目線で不遜なところがある嫌な人という印象を持っているようだ」(PRESIDENT Online)という。それが本当だとすれば、とても首相に向いているとはいえない。

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一連の選挙で露呈した自民党の抱える深刻な問題

以上、三人の自民党実力者たちに共通するのは、自信過剰ゆえの視野狭窄であり、欲深さゆえの自滅だ。

ただ、これらの選挙における敗戦を、首相候補を自任する彼らの力をもってしても十分に選挙組織をまとめ切れなかったという点でとらえると、自民党のかかえる深刻な問題がくっきりと浮かび上がる。

創価学会や統一教会の票に依存する病が全国の党組織に広がり、自民党の集票基盤が想像以上に傷んでいるのではないかということだ。

政局的には、5月19日から3日間のG7広島サミットが終わったあと、来秋の自民党総裁選をにらんで、岸田首相がいつ解散、総選挙に踏み切るのかが焦点になる。

岸田自民党の側から冷静に見ると、維新の躍進は今のところほぼ関西に限られており、在阪メディアの報道ぶりの影響も大きいため、さほど切迫した脅威とはいえないかもしれない。軸足の定まらない立憲民主党は言わずもがなである。

しかし、だからといって、自民党が安泰であるとも思えない。野党の弱さにかまけて、人材を育てることを忘れ、そのために党内に切磋琢磨する気風が乏しい。それが、先にあげた3つの選挙の敗戦にもつながっているのではないだろうか。

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image by: yu_photo / Shutterstock.com

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