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「プーチンを守る」と決めた習近平。隣国が“戦争の仲介役”で得る大きな果実

内向き志向を強めるアメリカとは正反対に、積極的に世界の難題解決にコミットし始めた中国。一体そこにはどのような「裏事情」があるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中国政府の思惑と彼らが描いている壮大な計画を深掘り。さらに習近平政権がロシア支援を継続し、ウクライナ戦争を長引かせることにより得られる「とてつもなく大きな果実」について解説しています。

崩さぬロシア寄りの姿勢。それでも中国がウクライナ戦争の仲介役を買って出た訳

「中国はロシアとウクライナの停戦を仲介すると表明したが、どこまで本気に取り組むつもりなのだろうか?」

習近平体制が第3期目に入り、外交活動を再開する中、次々と国際社会の難題に取り組む姿勢を見せる中国の変容に、正直戸惑うことが多々あります。

サウジアラビア王国とイランの歴史的な和解の仲介の実現。国際社会が見放したミャンマーを支え続け、国軍と民主派の停戦に向けた話し合いを促す姿勢。一帯一路政策によって、債務地獄に陥れた各国に“寛大な”姿勢を見せようとする方向性。重い腰を上げてロシアとウクライナの停戦の仲介に乗り出すことを表明した変容。そして、解決の糸口が見えないスーダン情勢へのコミットメント。

コロナ前までにもすでに経済力と軍事力を合わせて周辺国に、時には強引に勢力圏を拡げてきた中国ですが、それは主に中国の経済的な影響力と中国製品の販路の開拓、そして国際社会における外交的なサポートの拡大などを目的としてきたと思われます。

ところがコロナが一段落し、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入った途端、これまでにないほど積極的な外交を展開し、これまであえて距離を置いてきた国際紛争に対しても、まるで火の中の栗を拾うかのように、積極的にコミットする姿勢を示しだしました。

中東地域、アジア地域、そして東アフリカ地域に対する外交攻勢については、これまで経済面での戦略的パートナーシップを通じて強化してきた関係をベースに、欧米諸国、特にアメリカが去った後の力の空白に入り込んで、一気に勢力圏を拡大するという戦略が見られますが、スーダンへの介入はまだしも、ロシア・ウクライナ紛争への介入は少し趣向が異なるような気がします。

スーダンとロシア・ウクライナ紛争への介入を見てみた際、一つ明確に言えることは、他のケースと異なり、中国はどちらか一方のサイドをサポートしているということでしょう。

スーダンでの内戦では、経済的な理由から明らかに国軍側の味方ですが、それでもRSFに対しても一定の影響力を持っています。

先の内乱(2021年)にはアメリカ政府が調停に乗り出し、今でも国務省においてスーダン問題特別代表が任命されるなど、スーダン情勢の安定に努めていますが、今回の内戦に対しては、強い懸念は表明するものの、これまでのように軍事的な支援は行わず、距離を置いているように思われます。

その一因にはongoingのウクライナ情勢へのコミットメントを優先していることがありますが、事態の鎮静化に向けた働きかけを行ってはいません。

そこに他のケース同様、アメリカのコミットメントの空白が出来、そこに中国が入り込むという図式が成り立つのですが、スーダンのケースでは、ロシアと共に恩恵にあずかっているスーダンの金鉱の権益保持のために、一刻も早く紛争を終結させなくてはならないという思惑が働いています。

そのために、これまで明らかに国軍・政府支持であった姿勢を少し曖昧にし、政府とRSF双方に働きかけ、迅速な停戦と事態の沈静化、そしてどちらが今後、政権の座についても中国とロシアが持つ金鉱の保全と保護を確約させるべく、“仲介者”というお面を被って介入し、紛争終結後の決定的な影響力の確保に乗り出しています。

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影響圏を中国本土からスーダンに至るまで拡げる習近平

加えてすでに隣国エチオピアを中心にHorn of Africa (アフリカの角)一帯に勢力圏を築いていることを活かして、スーダンとエチオピアの不仲の調停にも乗り出すことで、当該地域からアメリカを追い出して、一気に権益を掌握するという狙い・戦略も透けて見えます。

すでにジブチに港を確保し、ジブチとエチオピアのアディスアベバを繋ぐ鉄道を敷設することで物流網を独占していますし、アメリカCIAがおくblack site(注:ブッシュ政権以降のGlobal War on Terrorの重要な拠点としてエチオピアに置かれていると言われており、中東・北アフリカを監視しているもの)に対しても圧力をかけることで、アメリカに監視される対象国の支持も得て、一気に地域に影響力を広めるというgrand strategyがあるようです。

そうすることで、先に調停し、関係修復をお膳立てしたサウジアラビア王国(実はエチオピアとジブチの対岸)からイランに至るアラビア半島にまで影響を拡げ、その影響圏が中国本土からスーダンにまで至ることになるという状況です。

そのど真ん中にインドが位置し、中国に対して警戒心を持ちつつも依存度を高めるASEANが存在しますが、そのすべての国々ですでにアメリカの影響力が低下していることから、程度の強弱はあるものの、一つの緩い勢力圏が成り立つと言えるかもしれません(これに横やりを入れられるのは、実は日本“だけ”なのですが、果たしてそれに気づいているのでしょうか)。

ただこの勢力圏の拡大と確保は、まだ経済的な側面が強いように思われ、習近平体制下で広げてきた中国の拡大パターンに沿っていると考えられます。

しかし、目をロシアとウクライナ情勢への介入に移すと、違った景色が見えてきます。

昨年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻までは、中国とウクライナの関係は非常に良好だったと思われます。

中国の初めての空母・遼寧は、元々旧ソ連の空母をベースにしており、ウクライナ所属の空母であったことから、中国がウクライナから購入したものです。

その際、中国の新疆ウイグル自治区をはじめとする少数民族に対する人権侵害への抗議の一環として、欧米諸国はウクライナにこの売却を思いとどまるように圧力をかけましたが、ウクライナは「約束は守らないといけない」と圧力に屈せず、予定通りに中国に空母の引き渡しに応じたことで、義を重んじる中国の心をつかみ、その後、中国資本によるウクライナへの投資拡大につながりました。

つまりウクライナは中国にとっては“特別な国”だったはずです。

しかし、その状況はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、変化したように思われます。

中国は表面的にはロシアの侵攻に対して懸念は示すものの、本格的な抗議にはつながらず、ロシア寄りの態度を貫き、国連安全保障理事会をはじめ、さまざまな外交フロントでロシアと共同戦線を張り、ウクライナの後ろ盾となり、ロシア包囲網を固めた欧米諸国とその仲間たちに対峙する姿勢を明確にしました。

欧米諸国とその仲間たちから幾度となく“ロシアへの支援”を止めるように圧力をかけられても耳を貸さず、べったりではないにせよ、ロシアを支持する姿勢を貫いています。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けた国際社会の激しい反応を横目に見つつ、いずれ来ると予想されている中国による台湾侵攻を実行に移した際に、どのような反応が予測されるかを見ながら、表立っては目立たないように、まさにステルス状態の外交を行ってきました。

ただその間、プーチン大統領とは数十回、リモート形式ではありますが、連絡を密に取り合い、ロシアと中国が進めてきた国家資本主義陣営の拡大を着々と進めるべく協力を貫いてきました。

その間、明らかに両国の力関係・バランスに変化が訪れて、中国優位が鮮明になってきましたが、ジレンマは抱きつつも、中国はロシア側の仲間であり続けています。

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中ロ間で交わされた「決して公表されないdeals」の内容

ちなみにロシアによるウクライナ侵攻以降、ゼレンスキー大統領からの再三の協議依頼をことごとく無視し、やっとそれに答えたのが今年4月20日に入ってからで、それは中国がロシアとウクライナの停戦の仲介に名乗りを上げてから1か月以上経ってからのことで、それはまた習近平国家主席がモスクワ訪問してプーチン大統領と3日間に及ぶ協議をしてから1か月後の出来事であったことからも、中国の立ち位置が透けて見えるかと思います。

以前、ウクライナからの訪問要請を受けて、習近平国家主席がどのように対応するのか注目すると書きましたが、進むも退くもリスクを負うことになるキーウ訪問を見送り、1時間に及ぶ電話会談に切り替えたのは、仲介役として取るべき最低ラインのコミットメントを行ったに過ぎないと考えられます。

このような若干冷たい対応になった理由はいくつか考えられます。1つは、中国が仲介の意思を表明し、停戦合意案を提示した際、評価はしたものの、公然と中国に要求と条件を突き付けたゼレンスキー大統領の姿勢に反発したことがあります。

2つ目は、それでも中国の仲介を受け入れる用意があるのか分からないウクライナを警戒し、ロシアを除く全方面にいい顔をするゼレンスキー大統領の真意を探る狙いがあったものと考えられます。

3つ目は、中国の仲介に対する国際社会の“本当の”評価と反応を見極めるために、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の直接の協議に対する可能性を棚上げにしておき、ぎりぎりのタイミングで電話会談に切り替えて、一応メンツは保ったと考えられることです。

いずれにせよ、仲介のオファーをしつつ、明らかにロシア寄りな習近平国家主席の思惑が見えてきます。

ロシアへの明らかな肩入れは、中国にも共通する欧米への反発が存在しますが、本来中立であるべきとされる仲介者が明らかにロシア寄りの姿勢を崩さないのには、3月のモスクワでの首脳会談時に交わされた“決して公表されないdeals”の存在があると思われます。

その一例は【中国に対するロシアのウラン濃縮技術とノウハウの提供】と【ウラニウムのロシアから中国への提供】の約束です。

表向きは脱炭素に向けた取り組みの強化と言っていますが、実際には中国人民解放軍の核戦力の迅速な拡大に欠かせない(でも中国がキャパシティーを十分に持っていない)ウラン濃縮技術と、ウラン鉱石の安定的な供給についての密約を両首脳間で結んだという分析があり、これは高い確率で信用できると思われます。

別の例は、ロシアが持つ様々なエネルギー権益に対する中国のアクセス権の保証ではないかと思います。

ちょうど今週に入って、中国の艦船がサハリンIとIIの域内にはいってきて操業するという事態が起こっていますが、中国に対する安定的・持続的な天然ガスの供給という約束に基づく行為だと思われます。

3つ目の例は、第3国を経由した中国からロシアへの軍事物資の共有です。中国からロシアへの直接的な供給は、NATOとの軋轢を強め、中国がロシア・ウクライナ戦争に軍事的に巻き込まれる恐れと、対ロシア制裁の煽りを食って中国に対する経済制裁が発動される恐れが生じますが、中ロと友好的な関係もしくはピュアに経済的な関係がある第3国を経由しての供給となると、なかなか追跡が難しくなると言われています。

もともとKGB時代から行われ、FSBに引き継がれている同様の手法は、実質的な供給者などが割り出せない仕組みになっており、今回も中国と共にこのスキームを活用し、同時に、インドなどのグローバル・サウスの国々をうまく取り込んで行うという仕組みの存在に対する疑念があり、それが中ロをしっかりと結びつけていると思われます。

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中国の「プーチン政権のロシアを守り抜く」という戦略

そして今週聞いてハッとした分析内容は、【中国にとって、仮にウクライナが負けても、一時期の経済的なつながりが断たれるだけで、同様、それ以上の規模のつながりをロシアとすぐにでもつなげると信じているが、プーチン大統領のロシアが負けてしまうような事態だと、欧米とその仲間たちと中国単独で対峙しなくてはならない状況に陥り、中国は国際社会における孤立を極める恐れがあると考え、プーチン政権のロシアを守り抜くという戦略】の存在です。

明らかにロシア寄りであるにもかかわらず、どうして中国はロシアとウクライナの仲裁役に名乗りを上げたのでしょうか。

一説によると、習近平国家主席に忖度したフライング行為と言われています。聞くと習近平国家主席は本件の仲裁には乗り気ではなかったが、周辺が習近平体制の基盤を国内外に対して固めるための手法として打ち出したのではないかとのことでした。ただ、これについては少し疑わしいと感じており、仲裁がなかなか前に進まないことに対して、国際社会から習近平体制が非難されることを避けるためのいいわけではないかと思います。

別の見方では、戦争の結果がどうであれ、ロシアとウクライナ両国における権益の確保と復興事業契約の獲得など経済面が強調されますが、ここでもアメリカが見捨てた国・地域に中国がすかさず入り込んでくるという勢力圏の拡大を狙ってのことというものがあります。

実際の理由がどのような内容であれ、どうして中国は沈黙を破り、急に国際紛争の調停に乗り出すことにしたのかについては謎が多く存在します。

ただいろいろな側面から見た場合、ロシアとウクライナという当事国を除いて本紛争に対して決定的なカギを握っているのは、もしかしたら中国だけではないかと思われます。

その理由は中国がロシアに対してどのような形であれ、武器の供与を行わなければロシア側の対話への機運とモチベーションが高まる半面、ウクライナ側がNATOからのプッシュに応えてロシアを攻撃するような事態になった場合、プーチン政権が倒れ、ロシアの存亡にかかわる事態に迅速につながりかねないと考えられることでしょうか。

また逆にどのような形であれ、中国がロシアに対する支援を継続する限り、調停は成り立たず、代わりにあと数年はロシアとウクライナの戦争が継続してしまうという懸念に繋がります。

後者の場合、冷酷な見方をすると、ロシアもウクライナも回復不可能なレベルまで経済が落ち込み、戦争継続に対する疲弊感が募り、それぞれの存在が危ぶまれるまでにロシアもウクライナも弱体化すると同時に、戦争が継続されることで、ウクライナを後押しする欧米諸国とその仲間たちの余力も削ぐことができるため、中国としては自国の力を蓄え強化しながら、他国の力を削いでいくという戦略が成り立つ可能性が出てきます。

来週末に開催されるG7広島サミットでは、中国に対する懸念にG7が一致団結して取り組みを強化するという方向で話し合われるようですが、同時に日本としては、隣接する国としての立場からも“いかに中国と付き合うか・対峙するか”について戦略を立てておく必要があると考えます。

5月15日にもウクライナによる対ロ反転攻勢が本格化すると予想されていますが、その結果がどのようなものになるのかのcasting voteを握っているのは、もしかしたらロシアでもウクライナでも、そしてNATOとその仲間たちではなく、実は中国なのではないかと感じています。

いかがでしょうか?

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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