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超巨大地震の発生間近か?地震のプロが震え上がった「あの震源」

1ヶ月足らずの間に日本列島で相次ぐM6クラスの地震。首都直下地震や南海トラフ地震の発生を懸念する声も多く聞かれますが、専門家はどう見ているのでしょうか。メルマガ『最新『WEEKLY 地震予報』プラス』の著者で民間地震研究機関「ブレイン」代表の内山義英さんは今回、我が国で強い地震が頻発するメカニズムを解説。さらに首都圏でM7クラス以上の大地震が発生する可能性について考察しています。

プロフィール:内山義英(うちやま・よしひで)
民間の地震研究機関「ブレイン」代表。京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了後の1982年、竹中工務店に入社し、建築構造、耐震防災についての技術研究に従事。同社で、世界初となる高さ100mを超える免震建築「超高層免震」を研究開発した。退社後は、出身地の静岡市を拠点に各業界からのコンサルティングに携わる一方、3種のデータを基にした地震の前兆現象を観測し、防災情報の提供・配信などをおこなっている。

日本列島を襲う「超巨大地震」発生は近いのか?地震のプロが2023年5月の「大地動乱」を分析する

2023年4月までは比較的静穏だった日本の地震活動ですが、5月に入ってから様相が一変し、日本列島の大地は大きな動乱に見舞われています。5月1日に沖縄本島南東沖Mj6.4(最大震度2)の強地震が発生しました。この地震は、琉球海溝で巨大地震を生むとされている固着域(空白域)の北東領域で発生したM6クラス地震であったため、琉球海溝プレート境界型巨大地震の前震活動が発現かと、一時は背筋が凍る思いがしました。

5月5日には、石川県能登地方でMj6.5(最大震度6強)、Mj5.9(最大震度5強)などの強地震が群発しました。この地域では、2020年12月から群発地震が長期間継続しており、2021年9月に最大震度5弱、2022年6月には最大震度6弱が発生し、2023年の最大震度6強が一連の群発地震の中で最も強い揺れとなりました。

これらの群発地震のメカニズムは、地下数kmに大規模な水塊が発生してせり上がる「水噴火」と呼ばれる現象と考えられ、通常の地震と発生メカニズムが異なるため、短期的な発生時期の予測が困難です。「水噴火」の類似事例として、1965年松代群発地震(長野県)がありますが、この時は収束するまで5年半に渡って長期化しました。今回の群発地震は最初の発生から既に2年半が経過しており、今後も期間は長期化する見込みです。

その後、5月6日に青森県東方沖でMw6.0(最大震度4)、5月11日に千葉県南部でMw5.5(最大震度5強)、5月13日にトカラ列島近海でMw5.3(最大震度5弱)、5月14日~15日には八丈島近海でM5.0~M5.9が8回群発するなど、日本列島はまさに大地動乱のごとく揺れ続けています。

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M6クラス強地震が連続発生しているメカニズム

ではなぜ5月のこの時期に、わずか2週間の期間でM6クラスの強地震が(M5.9を含めて)7回も連続発生したのかという疑問が残ります。これに関しては、実は今年2月6日に発生したトルコ・シリア大地震Mw7.8が関係していると考えられます。トルコ・シリア大地震の発生によって、東アナトリア断層は最大で9.1mも北東方向へずれ動きました。この巨大なずれ動きにより、東アナトリア断層を押していたアラビアプレートとユーラシアプレートでは、作用していた圧縮力が一旦緩み、圧縮応力(=力/断面積)が弛緩しました。

この応力弛緩の影響で、ユーラシアプレートを反対側から押している日本列島の各プレート境界においても、いったん圧縮応力が緩み、強い地震が発生し難くなったと考えられます。

日本とトルコ・シリアは約10,000km離れていますが、厚さ200km以上の剛強なプレート岩盤を支え合っている間では、このような力の相互作用が発生するのです。

実際のところ、今年の2月~4月にかけては全国的に強い地震が減少していました。この期間に発生したM6クラスの地震は、2月26日の釧路沖Mw6.1(最大震度5弱)、3月28日の青森県東方沖Mw6.4(最大震度4)の2例でしたが、これらの2例は何れもユーラシアプレートとは直接押し合っていない、北米プレートと太平洋プレートの境界で発生したものです。

しかしその後、ユーラシアプレートの応力弛緩が約3ヶ月間かかって元の状態に回復していくにつれ、日本列島の各海溝への応力負荷が回復したため、5月以降各地で強い地震が連続発生していると考えられます。したがって、トルコ・シリア大地震の余波を受けての強地震の連続発生であり、日本列島に新たな巨大地震の脅威が差し迫っているわけではありません。

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連続強地震が首都圏の地震発生へ及ぼす影響について

現在日本列島各地で連続発生している強地震群の中で、5月11日の千葉県南部地震Mw5.5(最大震度5強)と、5月14日~15日の八丈島近海群発地震M5.0~M5.9の8回に関しては、いずれも発生メカニズムに共通性・相関性があるため、首都圏における地震活動への影響を否定できません。

5月11日の千葉県南部地震Mw5.5は、房総半島直下のフィリピン海プレート内部地震であり、東日本大震災で割れ残ったため特に警戒すべき領域で発生したものでした。また5月14日の八丈島近海地震Mj5.9(Mw5.8)のメカニズム解(発震機構)を、以下の図中の「Moment Tensor」に示します。これによると、この地震は北東-南西方向へ張力軸を持つ正断層型のアウターライズ地震であり、フィリピン海プレートの浅部が相模トラフの沈み込み方向へ引張られる形で破壊されたものでした。八丈島近海での8回の群発地震は、何れもこれと同様の破壊メカニズムであることから、首都圏の直下へ沈み込んでいるフィリピン海プレートにおいて、強大な引張り力が作用し、プレート内部及びプレート境界における負荷が増大していると推測されます。

ここで留意すべき点は、八丈島近海地震Mj5.9の破壊方向が、千葉県南部地震Mw5.5の震源域の方向に符合しており、両地震が近い時期に発生したことから、八丈島近海群発地震は千葉県南部地震の誘発地震と考えられます。その際に、誘発地震の方が規模が大型化していることから、今後さらに規模が大きい地震が誘発される可能性を否定できないのです。

関東地方における地電流・地磁気の観測結果によると、現在首都圏でM7クラス以上の大地震が発生する前兆は現れていません。しかしながら、上述しましたようにフィリピン海プレートが高負荷状態にあること、5月11日の千葉県南部地震Mw5.5が1例であるように、東日本大震災で割れ残った房総半島(及びその沖合)において地震活動が活発化していることなどを考慮すると、「首都直下地震はいつ発生しても不思議ではない」との認識と気構えを持ち、必要な準備を進めていくことが肝要であると考えられます。

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image by: Shutterstock.com

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京都大学大学院 工学研究科建築学専攻 修了。 大手建設会社で世界初となる高さ100mを超える免震建築「超高層免震」の研究開発を行い、2002年に第一号となる物件が竣工し、以来現在までに日本国内に400棟を超える超高層免震が建設されている。その建築市場はロシアや台湾に展開され、国内・国外合わせて3兆円を超える市場規模に拡大・普及している。 2002年に出身地静岡市にUターンし、各業界からの研究開発業務受託及びコンサルティングを行う一方で、2011年の東日本大震災を受け、「3種前兆地震予知法」とその地震予報システムを開発・実用化し、浮体式津波防波堤を開発した。 また静岡県内各地で講演を行い、東海地震がすぐにでも発生するという従来の東海地震説を否定し、2040年前後までは発生しないと主張し提唱している。

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【著者】 内山義英 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 水・土曜日

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