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自民と公明バレバレの猿芝居。選挙協力「決裂」が“東京限定”のウラ事情

東京都における衆院選の選挙協力解消を受け、「自公連立政権の決裂」を騒ぎ立てるメディア。しかしこの騒動、「茶番劇」である可能性も高いようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、誰が「東京限定の決裂劇」のシナリオを書いたのかを推測。彼らが一芝居打つ動機として十分な「魂胆」についても深く考察しています。

まさに茶番。自公の選挙協力「東京限定」決裂に漂う芝居臭さ

「早ければ6月中」「いや秋の臨時国会冒頭」と衆議院解散についての噂が乱れ飛ぶなか、自民党と公明党の選挙協力をめぐる亀裂が、目下の政治報道の焦点となっている。

言うまでもなく、「10増10減」の改正公職選挙法によって5議席増える東京の小選挙区の件だ。公明党は現在1議席を持っているが、それとは別にもう1議席ほしいということで、新設される東京28区に目をつけた。

ところが、ここに別の候補予定者がいる自民党は、いくら頼んでも頑として受けつけない。業を煮やした公明党は、それなら擁立を断念する代わりに、東京では自民党候補をいっさい推薦しないと言い出した。選挙協力を基盤とする自公連立体制は大揺れである。

もちろん、自民党の譲歩を引き出すための公明党お得意の脅し手法には違いない。昨年の参議院選を前にした自公間の揉め事も、まさに「相互推薦」の損得勘定をめぐるものだったが、それならもう選挙協力はやめだと公明党が強硬姿勢を示したとたん自民党側が折れ、なんと菅義偉前首相が水面下で動いて、合意した経緯がある。

ただ、昨年といささか事情が異なるのは、統一地方選で日本維新の会が躍進し、野党第一党、さらには政権獲得にまで野望を膨らませていることだ。

大阪府議会と大阪市議会で過半数を制した維新は、もはや議会運営のために公明党の協力を得る必要がなくなった。馬場伸幸代表は、大阪府、兵庫県の衆院小選挙区における公明党との協力関係を「リセットする」と明言した。これまでは公明党に配慮して、候補者擁立を見送ってきた選挙区にも遠慮せず独自候補を立てるというのである。

公明党は衆院小選挙区の現職9人のうち6人が大阪、兵庫の選出だ。もはや「常勝関西」と気楽に構えてはいられなくなってきた。今の維新の勢いを見ると、創価学会の組織票だけでは太刀打ちできず、最悪の場合、6議席を失う可能性さえあるのだ。

そもそも、公明党の母体である創価学会じたいが、内部の根本的な問題を抱えている。少子高齢化の進行で組織がじわじわと弱体化しつつあるのだ。

学会の会員世帯数は公称827万世帯だが、実際には200~300万世帯といわれる。しかも多数を占めているのは「団塊世代」で、子供に入信を強制するのを嫌う傾向があるため、若者の新規入会が伸び悩み、徐々に会員数そのものが減っているようだ。公明党は2022年7月の参院選で「比例代表800万票獲得」をめざしたが、約618万票にとどまった。

創価学会の集票力に陰りがみえるにつれ、選挙区と比例代表で票を融通している自民との関係にも、「経年劣化」が目立つようになった。学会と公明側には、自民党に軽んじられ、やがては捨てられるのではないかという「ひがみ」のような心理が台頭してきたのではないだろうか。ゆとりのない心理は、相手をなじり、離別をちらつかせて要求を飲ませることで、自身の大切さを再認識させようとする。

一方、自民党内には、いつまでも公明党に譲歩していていいのかという強硬論が右派を中心に強くなっている。

そういう構造的な「歪み」が、今回、東京28区で顕在化したといっていい。東京28区は練馬区東部で、創価学会の会員が多い。

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池田大作氏の意向で決まっていた公明党首脳人事

朝日新聞の記事によると、5月9日、自公両党の定期的な幹事長・国対委員長会談で、こんなことがあった。

会談が終わり、退出しようとした自民の茂木敏充幹事長を、公明の石井啓一幹事長が「ちょっといいですか」と呼びとめた。

「東京で2人擁立し、比例と重複立候補にします。自民の推薦はいりません」
「かわりに(東京の自民候補)28人を推薦しません」

公明党は東京で選挙区1人、比例区2人の計3人の国会議員がいる。現職の岡本三成衆院議員については、すでに東京29区で公認しているが、さらにもう1人、28区で擁立したいと主張し、自民党との間で話し合いが続いてきた。

だが、自民党都連の会長でもある萩生田光一政調会長は、28区に自分が面倒を見ている前衆議院議員の安藤高夫氏を擁立するつもりであり、自民党が応じる気配はない。

このため、石井幹事長は、東京の二つの選挙区で候補者をたてる代わりに、自民党の推薦もいらないが、残り28の東京選挙区で公明党が自民候補を推薦することもしないという“最後通告”に踏み切ったのだ。

そのさい、茂木氏が「比例とあわせて3人当選できるのに、そんなやり方ではかえって公明は議席を減らしかねないですよ」と聞き返すと、石井氏は一転、「私に言われても……」と黙り込んだという。

「私に言われても」という言葉から、選挙の実権を握っているのが別の人物であることが伝わってくる。といっても、山口那津男代表ではない。20年以上にわたり創価学会の政治部門を取り仕切ってきた佐藤浩副会長である。つまり、公明党の選挙対策を決めているのは佐藤氏であり、石井幹事長はいわば“使い走り”にすぎないのだ。

第2次安倍政権では、自民党は公明党との候補者調整を難なく進めた。2016年から幹事長をつとめた二階俊博氏の存在もあったが、なんといっても8年間にわたり官房長官として創価学会の佐藤副会長と気脈を通じ合わせてきた菅義偉前首相によるところが大きかった。その間は、いわば“裏選対”の話し合いが機能していた。

ところが、岸田政権になって、佐藤氏とのパイプ役がいなくなってしまった。茂木幹事長が佐藤氏と接触するが、なにしろ二人のソリが合わない。そのうえ、学会の要望を聞こうとしない森山裕選対委員長もまた佐藤氏の怒りを買い、交渉から締め出される始末である。

もっとも、創価学会が公明党を支配することによって、政権を操作し、自らの組織を守ってきたことは周知のことであり、何も佐藤氏がいるからというわけではない。

公明党の政治家として30年間を過ごし、党委員長までつとめた矢野絢也氏は著書『闇の流れ』(2008年発行)のなかで、次のように書いている。

私の在職中には公明党首脳人事は池田氏の意向で決まっていた。議員の公認も形式的に選挙委員会を開いているだけで、ほぼ100%学会が決めていた。今はもっと学会支配が強まっていると思う。

佐藤氏は学会の全国幹部会議で「自民党との折衝を、公明党の国会議員や県議に任せていては票は増えない」と述べるなど、学会の政治関与をもっと強めるよう地方組織の幹部たちにハッパをかけている。

今回の騒動でも、創価学会が政治から得る旨味のもとである「自公連立政権」を絶対に維持したいために、あくまで「東京限定」の決裂であると、石井幹事長に都合のいいことを言わせている。まさに茶番というほかない。

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今すぐ連立解消などできぬ自民の「麻薬中毒」

自民党にしても1選挙区あたり1~2万票といわれる公明票の上積みが無くなれば、現在の東京25選挙区で現職6人、全国では60人が落選の危機に瀕するといわれる。学会依存で選挙の足腰が弱り、いわば麻薬中毒のような状況であり、将来はともかく、今すぐ連立を解消できるはずはないのだ。

識者の中からは、解散・総選挙を先に延ばしたいがために、わざと揉め事をつくっているのではないか、との見方も出てきている。

たしかに、あの大人しい公明の石井幹事長が「両党の信頼関係は地に落ちた」などと強気の発言ができるのも、互いの暗黙の了解があるからかもしれない。だいいち、このセリフ、いかにも芝居がかっているではないか。

公明党側が早期解散を嫌がっているのは周知の通りだ。統一地方選でフル稼働した学会の集票組織に休息を与え、衆院選に向けて体制を整えるには十分な時間が必要だ。

来年秋の総裁選を視野にポスト岸田をねらう自民党の茂木幹事長や萩生田政調会長らにしても、岸田首相の思い通りにコトが運ぶのを阻止したいという魂胆があっても不思議ではない。

この見方が正しいとすれば、はめられて「連立解消か」などと騒いでいるメディアは滑稽そのものということになる。

自公間の信頼が「地に落ちた」のなら、一部の右派言論人が指摘するように、公明党は国交相と副大臣、政務官を一斉に引き揚げればいいのだ。東京限定の「揉め事」のなかに、「腐れ縁」を断ち切れない政権政党の実像が浮かび上がる。

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image by: 公明党 - Home | Facebook

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