前回と前々回の記事で小売店の三重苦について語ってきた無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者で経営コンサルタントの梅本泰則さん。今回も同様に小売店が現在悩んでいる「卸掛率」の上昇についての対策を紹介しています。小売店がこの厳しい時代を生き抜くためにはどうすれば良いのでしょうか?
小売店の三重苦(卸掛率編)
1.問屋さんからの申し入れ
前回は、小売店さんが三重苦と感じていることの一つ、「品切れと納期遅れ」の問題をとりあげました。
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前々回は「値上げ」の問題でした。
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そして、今回は小売店さんの三つめの苦労、「卸掛率の上昇」を取り上げます。
コロナ禍の影響でしょうか、問屋さんから卸掛率を引き上げて欲しいという依頼が小売店さんに来ているそうです。一方では、問屋さんはメーカーさんから仕入掛率のアップを持ちかけられていることでしょう。
原材料も高騰しているでしょうし、為替も急騰しています。おそらく、メーカーさんは小売価格のアップだけでは原価の上昇分を吸収出来ないことでしょう。そのため、メーカーさんは問屋さんへの納入掛率を引き上げているかもしれません。
そうなると、問屋さんの利益が削られますので、小売店さんへの卸掛率引き上げを申し入れることになります。その気持ちはよく分かりますが、小売店さんにとっては大きな問題です。
「小売価格の値上げ」や「品切れ・納期遅れ」とは、少し問題が違います。卸掛率が上がれば、小売店さんの利益が確実にとれなくなってしまいます。
たとえば、問屋さんからの卸掛率が定価の65%ならば、定価で売った時の粗利益率は35%です。これが、卸掛率67%に引き上げられたら、粗利益率は33%になってしまいます。2%の粗利益分をお客様に負担してくれとはなかなか言えません。困りましたね。
この問題に対して、小売店さんはどんな手を打ったらいいでしょう。
2.卸掛率上昇への対策
「商品の値上げ」や「品切れ・納期遅れ」に対する方法は、マーケティング的な考え方でした。それに対して、卸掛率引き上げの問題は、会計的な解決法を考えられてはいかがでしょう。
もちろん、問屋さんに対して、仕入先を変更するとか取引金額を減らすとか、「取引」を武器に交渉する方法もあります。しかし、それよりも自店での努力を検討された方が良いでしょう。
その方法を3つ考えてみます。
- 値引きをおさえる
- 利益率の高い商品を扱う
- 販管費を見直す
つまり、これらの方法の考え方は、自店の利益率を上げるにはどうしたら良いか、ということです。そして、その場合の「利益」とは、「粗利益」と「営業利益」になります。
まず、粗利益を増やす方法から考えましょう。一つは「値引き率を低くすること」です。つまり、値引きをして販売しているお店ならば、その値引き幅を抑えてみてはいかがでしょう。それだけで、確実に粗利益が増えます。
また、「仕入れ原価を低くすること」も、粗利益を増やす方法です。仕入原価を低くするには、どうしたら良いでしょう。メーカーさん、問屋さんと交渉して、仕入掛率を低くしてもらうということも考えられますが、先方は卸掛率を上げたがっています。今回の交渉は、はなから難しいです。
それよりも良い方法があります。それは、粗利益率の高い商品を仕入れて売る、ということです。
同じ商品でも、問屋さんによって卸価格が違うことがあります。掛率の低い問屋さんから仕入れれば、粗利益が上がるではありませんか。そして、粗利益を上げるのに、もっと有効な商品があります。それは、「問屋オリジナル商品」です。
3.利益を上げる方法
どの問屋さんも、いくつかの自社オリジナル商品や、オリジナルブランドを持っています。小売店さんは、それらの商品の販売に力を入れることです。そうすれば、小売店さんの粗利益は増えます。
問屋さんのオリジナル商品は、メーカーさんの商品と同じ位置づけです。これらの商品を仕入れることとは、メーカーさんから直接仕入れることと同じになります。当然、高い粗利益が得られます。
これらの商品を販売すれば、たとえ他の商品の卸掛率アップを申し込まれても、取引全体の卸掛率上昇を薄める効果があります。つまり、仕入掛率の低い商品を探して販売することで、粗利益が上がるのです。
では、もう一つの「営業利益」を上げるには、どうしたら良いでしょう。
営業利益の算式は、「営業利益=粗利益-販管費」でした。ここから分かることは、粗利益を増やせなくても、販管費を少なく出来れば、営業利益が増えるということです。
その販管費を少なくするには、どうしたらいいでしょう。ご存知のように、販管費は人件費と一般管理費から成っています。お店の損益計算書を見てください。経費項目が30以上並んでいます。
その中で、金額を減らせるものはありませんか。もしも減らせるものがあれば、減らす努力をしましょう。人件費とて、例外ではありません。どうしても、現状の人数が必要なのか、よく考えてください。いずれにしても、販管費が減ることで、営業利益が増えます。
いかがでしょうか。以上、卸掛率の上昇に対する方法として、3つのことを考えました。
自店の利益構造を見直すことで、粗利益や営業利益の確保をする方法を考える、ということです。どうか自店でできることはないか、よく検討して下さい。
さて、3回にわたって、小売店さんの三重苦について取り上げました。しかし、これらの問題は必ずしも「苦」ではありません。うまく対応することで「チャンス」にもなります。ぜひ頑張って対策を実行していきましょう。
■今日のツボ■
- 問屋さんの卸掛率引き上げの申し入れに、対応する方法はある
- それは、粗利益と営業利益を上げる方法を考えることである
- 粗利益の高い商品を仕入れ、販管費の見直しをすると良い
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