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人民の「食事代」でミサイルを作る北朝鮮。猛スピードで色あせていく“金日成の遺訓”

北朝鮮が「軍事偵察衛星」の打ち上げを行っていると報道されていますが、実はそれが成功したところで米国にしてやられるのが関の山だということを、当の北朝鮮はご存知なのでしょうか。北朝鮮が躍起になっている理由と米国の新たな戦略資産について、韓国の時事雑誌「週刊東亜」の文章を無料メルマガ『キムチパワー』で韓国在住歴30年を超え教育関連の仕事に従事する日本人著者が、自身で翻訳しながらわかりやすく紹介しています。 

北が躍起になっている「軍事偵察衛星」、成功しても米国の餌食

北が衛星だミサイルだと躍起になっているが、結局は無駄だという内容である。この『週刊東亜』の文章が真であることを祈る。


人工衛星は文字通り天体の周りを回るように作った人工構造物だ。人間の力で地球外の宇宙に何かを乗せるのは簡単なことではなく、お金もたくさんかかる。宇宙開発を試みる国の大部分がある程度食べていけるほどの経済水準を持っているのもこのためだ。

5月、韓半島では南北いずれも衛星打ち上げを試みた。世界10位圏の経済力を持つ大韓民国は5月25日、衛星8個を積んだ「ヌリ号」の打ち上げに成功した。これを妬んだのか同月31日、無理に衛星打ち上げを強行した北朝鮮は「千里馬(チョンリマ)1型」ロケットが西海に墜落するという恥を全世界に知らしめることになる。

実際、北朝鮮は韓国より先に宇宙開発を始めた。1990年代後半に打ち上げを開始したテポドンシリーズについて、当時の北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は、「一度発射するのに3億ドル(約3,820億ウォン)ほどお金がかかった」と振り返った。数百万人が飢え死にする「苦難の行軍」時期に食糧を買うお金でロケットを作ったという話だ。金正日が亡くなる少し前の09年に打ち上げられた「銀河-3号」とこれに載せられた「光明星-3号」の打ち上げ費用は8億5,000万ドル(約1兆800億ウォン)程度と推算されている。千里馬1型発射には銀河3号発射時よりさらに多くのお金がかかったものと見られる。

北朝鮮は最近、中国からコメの輸入を大幅に増やした。トン当たり450ドル(約57万ウォン)程度でコメを輸入し、差し迫った食糧難を解決しているのだ。北朝鮮は今回の衛星打ち上げ失敗でコメ200万トンを買える金を失ったわけだ。

一部の北朝鮮専門メディアは「北朝鮮が発射失敗と連続発射に備えて千里馬1型予備機体をいくつか作っておいた」と観測している。事実なら、北朝鮮が全人民に「ご飯に肉汁」を食べさせるための金でとんでもないことをしているということになる。すべての人民が瓦葺きの家に住み、ご飯に肉汁を思う存分食べさせなければならないという金日成(キム・イルソン)主席の遺訓が色あせるこのようなことを北朝鮮はなぜ続けるのか。

北朝鮮が軍事偵察衛星を確保しようとする理由は、自分たちの「パンチ」をより正確に飛ばせる「目」を持つためだ。今年初めから北朝鮮が発射した多様なミサイルとドローンは有事の際に韓国を威嚇する「パンチ」だ。北朝鮮は、今や望むところにこのようなパンチを正確に飛ばす「目」が必要だ。

北朝鮮当局は2021年6月11日、朝鮮労働党第8期中央軍事会議拡大会議で重大決定を下した。金正恩は当時会議を主宰し「米国の対朝鮮圧迫は非核化そのものが目的ではなく、中国との覇権競争を念頭に置いた国際政治戦略の一部」と規定した。金正恩はこのような教示に加え「米・中覇権競争が激化し戦争が勃発した時、中国側で一定部分の役割を果たさなければならない」としてそのための戦略軍改編を指示したと報道されている。同日の会議後、北朝鮮は文字通り中国の前衛になったわけだ。

中国と北朝鮮は脣亡歯寒(「唇亡びて歯寒し」=親しい仲の一方が滅びると他方も滅びるの意)の関係だ。北朝鮮は、米国の西太平洋・対中・前進軍事基地から中国本土を守る緩衝区域の役割を果たしている。北朝鮮が緩衝区域の役割から一歩進んで多様な戦略資産を備えた後、西太平洋地域の米国戦略資産と米同盟国を牽制・制圧する役割まで引き受けるならばどうなるだろうか。

中国としてはこれほどありがたいことはないだろう。台湾と有事の際、北朝鮮が韓米日の軍事的介入を抑制、遮断したり、米中衝突局面で北朝鮮が韓国・日本と西太平洋地域の米軍戦略資産を代わりに核攻撃するシナリオも考えられる。核戦力で劣勢の中国が米国に直接核攻撃を加えることは、文字通り滅亡につながる可能性が高い。核攻撃を北朝鮮内の一部強硬派の突発行動に仕立てた場合、北朝鮮地域に軍隊を送る口実まで得ることができる。こうした状況で中国が北朝鮮の核とミサイル開発・戦力強化を防ぐ理由はない。

北朝鮮は今年3月、多様なタイプのミサイルとドローンを発射した。いわゆる「核反接近_地域拒否(Anti-Access_Area Denial・A2_AD)」概念を披露したのだ。当時、北朝鮮は地下サイロから奇襲発射した戦術弾道ミサイルを800キロまで飛行させた後、800メートル上空で模擬核弾頭を爆発させる試験を行った。

この時、発射原点から東海(日本海)上の弾着点まで仮想の線を引き、この線をそのまま南側に回せば済州南東海域だ。北朝鮮がミサイルを発射した当時、同海域にはF35B戦闘機を積んだ米国「マーキンアイランド」強襲揚陸艦の戦団があった。当時、北朝鮮が発射したファサル‐1・2型巡航ミサイルと津波‐1・2型水中原子力自爆ドローンもやはり米国空母および上陸艦戦団を狙ったものだ。北朝鮮がこのような兵器を米空母戦団に正確に投射するためには、少なくとも1時間単位で位置を把握できる「目」が必要だ。その目がまさに北朝鮮が今回発射を試みた「万里鏡(マンリギョン)1号」だ。

国家情報院は万里鏡1号が1メートル級の解像度を持つ光学偵察衛星であることを把握している。縦横1メートルを一つのピクセルと認識するということだ。センチ級解像度の衛星が商用化された状況で、大した性能ではない。しかし、北朝鮮が追跡しようとする目標物の大きさが長さ300メートル、幅70メートルを軽く超える規模なら、この程度の解像度でも十分だ。

一般的に偵察衛星は500~1,500キロメートル低軌道・極軌道に乗せる。そうしてこそ、1日2回同じ地域の上空を通過して偵察することができるからだ。北朝鮮が昼間偵察用光学偵察衛星7~8個と夜間偵察用レーダー偵察衛星3~4個を発射する場合、1時間に1回ずつ米空母の戦団位置を確認する偵察能力を持つことになる。米空母は最大時速60キロメートル程度しか出せないため、1時間に一度位置と航海方向を把握すれば攻撃が可能だ。北朝鮮の技術力で具現が不可能な衛星精度は数十キロトン威力の高い破壊力、すなわち核弾頭が解決してくれるだろう。

北朝鮮は多様な打撃資産と偵察衛星を連携して運用するための専担組織も新設した。昨年9月8日、最高人民会議第14期第7回会議の議決で同年10月「武力総司令官核戦争抑制力強化発展のための事業」という命令書が北朝鮮戦略軍に通達された。その結果、北朝鮮戦略軍傘下に「宇宙戦略部」という組織が作られた。当時、北朝鮮当局は「戦略軍に大量配置される軍事偵察衛星は戦術核運用部隊の目と耳、神経になるだろう」と明らかにした。これは万里鏡1号のような偵察衛星が北朝鮮版核A2_AD資産の標的獲得手段として戦略軍統制下で運用されることを示唆したものだ。

それなら、北朝鮮が本当に米国空母戦団を遠距離から核に精密迎撃する北朝鮮版核A2_AD能力を備えることになるのだろうか。金正恩としては非常に無念だろうが、現実ではそのようなことは起こらない。米国がすでに対応準備を終えたためだ。

2021年2月1日、在韓米軍群山基地第607航空作戦センターで一部空軍兵力の宇宙軍専属行事が開かれた。彼らは宇宙軍の一部として群山に常時配置され、有事の際に輸送機で配置される「対通信システム(CCS)ブロック10.2」運用を支援する任務を引き受けた。CCSブロック10.2は2020年に作戦運用を開始した新型兵器体系だ。外形は衛星通信用アンテナのように見えるが、敵衛星を無力化できる強力な戦略資産だ。

CCSブロック10.2は敵地上管制所と衛星間の通信を撹乱するソフトキル(softkill)兵器だ 地上管制所が衛星に伝送する命令信号と衛星が地上管制所に送るデータ信号、すなわちアップリンク・ダウンリンク双方向信号を全て撹乱できる。

米軍が北東アジア地域にCCSブロック10.2を配置したのはどういう意味だろうか。北朝鮮が偵察衛星を運用したくても使えないという意味だ。CCSブロック10.2を作動すれば衛星が撮影して送るデータが全て撹乱されることになる。このシステムは米国「戦略防衛構想(SDI)」技術開発が真っ最中だった時代、旧ソ連の衛星に対応しようと初めて開発された。ハードキル(hardkill)手段で衛星を破壊する場合、宇宙ゴミ問題が発生し、状況がさらに悪化する恐れがあるため、衛星を直接攻撃する代わりに無力化するために登場した兵器だ。

米軍はハードキル手段も多量に保有している。イージス艦に搭載されるSM-3は08年、すでに低軌道衛星迎撃能力を立証した。現在配備されているSM-3ブロック2Aの迎撃高度は、当時使用されたモデルに比べて3倍近く高い。北朝鮮がいくら偵察衛星を飛ばしても、その衛星が低軌道を回る限り、米国がその気になればいつでも迎撃できるという話だ。

空母打撃用対艦弾道ミサイルDF21DとDF26を運用する中国が、標的獲得手段を衛星から極超音速無人偵察機WZ8に変えたのもこのためだ。衛星の代わりに、長距離飛行が可能でありながらも生存性が高い極超音速・ステルス無人機に監視偵察資産を変えたのだ。中国と違って、北朝鮮はこのような兵器を開発することも、大量配置して運用する能力もないため衛星を選択せざるを得なかったのだろう。

北朝鮮は5月、千里馬1型の打ち上げに失敗した後、近く技術的な問題を補完し、再び打ち上げに乗り出すと明らかにした。核A2_ADを完成させて米国に大口をたたいて、中国からお褒めの言葉をいただこうとする心算だろうが無駄だ。北朝鮮指導部は莫大な金をかけた衛星が有事の際に無力化する姿を見て後悔しないことを望む。衛星やロケットを作るお金で食糧を買って人民から食べさせるのが危険な体制を一日でも延長する道だ。(週刊東亜ベース)

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年6月19日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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