バブル経済崩壊の大きな要因となった、不動産融資への総量規制。当時の大蔵省は、なぜこのような「天下の愚策」を断行したのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、その背景に日本のバブル・マネーに悩まされていたアメリカからの強い要求があったと指摘。結果的に「外圧」に屈し、その場しのぎの政策に走った日本政府を批判しています。
すべてはアメリカの国益優先。日本のバブルを崩壊させた真犯人
前回、1980年代から始まった「日米構造協議」が、日本の商店街をシャッター通りに変えてしまったということをお話しました。
今回は、「日米構造協議」が実はバブル崩壊の原因にもなっていたのではないか、というお話をしたいと思います。日本は、バブルの崩壊以降、長い低迷に苦しんでいます。
1980年代、アメリカは、バブル当時の日本の地価高騰を快く思っていませんでした。1989年11月に提出されたアメリカの対日要求資料には、次のようなことが記されています。
「日本の地価高騰は、国民が狭い住宅に住むことを余儀なくされ、住宅関連商品の保有能力が制限されている」
「それが結局、日本人の消費や投資を削減し、経常黒字の拡大を招いている」
つまりは、アメリカは日本の住宅事情が悪いので、国民の消費が伸びていない、そしてその原因は地価の高騰にある、と言うことです。
確かに日本人は、先進諸国に比べて狭い住宅に暮らしていました。その狭さはウサギ小屋とも揶揄されていました。
また当時アメリカは、日本のバブル・マネーに悩まされていたのです。当時、数多くのアメリカの不動産や有名企業が、日本企業に買収されていました。それは、日本の地価高騰の影響が大きかったのです。
日本の大企業の多くは、土地を持っていました。そして日本の土地が高騰しているために、土地を保有している企業の担保価値が上がります。つまり、地価高騰のために日本の企業の含み益が急激に膨らんでいたのです。
そのため、銀行は企業にいくらでもお金を貸すという状態になっていました。日本企業は、その潤沢な資金を用いて、アメリカなどにも積極的に投資していました。アメリカの象徴のようなロックフェラー・センターが三菱地所に買収されたり、ほかにも日本企業によるアメリカ企業の買収合併などが相次いでいました。
どうにかして、日本の土地の高騰を抑えなければアメリカの重要な土地や企業が、日本企業に買い占められてしまうのではないか。アメリカはそういう危惧さえ持ち始めていたのです。
「とりあえず土地を買う」が生んだバブル経済
そもそも、なぜ日本でバブルが起きたのでしょうか?
日本では、戦後一貫して土地の値段は上がり続けていました。貿易などで巨額の金を稼いでいた日本の企業たちは、その使い道として、とりあえず土地を買っておくというようなことが行われていたのです。
それが、さらに土地の価格を引き上げることになりました。土地の価格が上がれば、企業の資産価値は上がり労せずして収益を得ることができます。やがてそういうスキームができあがり、それを目指してまた多くの企業が土地を買い求めることになりました。
土地の価格が上がれば、担保価値も上がるので、銀行はさらに多額の融資をしてくれます。そのため、日本企業は莫大な資金力を有することになったのです。その金が、一部は株式に投じられ、日本株の高騰を招き、一部はアメリカなど他国の土地や企業の買収に充てられました。
日本のバブルは、日本だけじゃなく、世界経済にも大きな影響を与えていたのです。
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アメリカが日本に突きつけた2つの要求
そのためアメリカは、日本の土地高騰を抑えるために、「日米構造協議」で次のような要求をしました。
- 土地保有税を引き上げること
- 都心部の農地を宅地並みに課税すること
この要求の意味をざっくり言うと、次のような事です。
日本の固定資産税は、先進国に比べて税率が低いので、土地を保有するときの経費が低くて済む、そのため企業は土地を保有したがる。これを防ぐために土地保有税(固定資産税)を引き上げて、企業が土地を持つメリットを減じさせようということでした。
そして、日本では、農地にかかる税金が著しく低く、都心部の農地も同様に低率の税金となっている。そのため、都心部に農地を持つ人は、なかなか土地を手放さないという状況が生まれていました。ただでさえ、日本は土地が少ない中で、都心部の農地がなかなか開発されないとなると、都心部で使用できる土地が限られる、そのために、必然的に土地の価格が高くなる。都心部の農地を、宅地と同様に課税すれば、農地を手放す人が増え、都心部の土地不足が解消するはず。
アメリカの要求には、そういう狙いがあったのです。アメリカの狙いは、ある意味、日本の積年の課題を言い当てたものでもありました。日本では固定資産税が先進国に比べて低く、特に大地主の固定資産税は相当に低いのです。固定資産税には住居用の狭い土地は本来の税額の6分の1でいいという規定があるのですが、なぜかこれが大地主にも適用されていたのです。
都心部に多くの農地(形ばかりの)が残っているのも、日本の政治にとって長年の懸案事項でもあったからです。農地の税制が優遇されているばかりに、都心部に農地を持つ農家の中には、農業はすでにやめているのに、形ばかり農業を続けているというようなケースが多くあったのです。
しかし都心部の地主の多くは、政権与党の支持母体となっていたので、政権側はなかなか手を付けられずにいたのです。アメリカはそれを見通した上で、日本に土地改革を迫ったわけです。
このアメリカの要求に対し、日本はどう答えたかというと、非常に中途半端な土地改革をしたのです。「本質は変えないが、アメリカの顔は立てた」という施策を行なったのです。
この中途半端な土地改革がバブルの崩壊を招き、その後の長い日本経済低迷期を招くことになるのです。具体的に言うと、土地高騰を防ぐために、日本銀行が融資の「総量規制」というものを行なったのです。銀行が企業に多額の融資をするから土地が高騰するわけだから、銀行が企業に貸すお金を制限しよう、ということです。
固定資産税の改革や、都心部農地の税制改革などには手をつけず、とりあえず、その場しのぎの土地高騰抑制策を行ったのです。その結果、バブルだけがはじけたのです。
このバブル崩壊により、日本は、大不況に見舞われた上、都心部の土地不足の問題や住宅狭小の問題などは改善されませんでした。つまり、「怪我をしただけ」だったのです。「アメリカ政府のごり押しと日本政府の愚策で、日本国民が苦しめられる」という図となったのです。
(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2023年7月1日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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