6月9日の参議院本会議で成立した改定入管法。一部からは「改悪」とする声も挙がっていますが、はたして日本の難民政策は胸を張れるものなのでしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹さんが、我が国の難民に対する人命軽視も甚だしい扱いを詳しく紹介。その上で、日本国民として現状に声を上げるべき理由を解説しています。
入管法改悪で、日本は「人でなし」の国になった!ツケは日本国民の弱者切り捨てへ!
入管法は、2019年に「特定技能」という在留資格新設にともない大きな改訂がありました。
そして2021年にも改定の動きがあり、その改訂の主眼は、「不法滞在者の帰国を徹底する」、「難民申請は2回申請を却下され3回目以降申請の場合は強制送還を可能とする」、「強制送還を拒む者には刑事罰を加えることを可能とする」といった内容で人権軽視が疑われる諸点を盛り込んだものだったのです。
ところが、結局この改訂法案は成立を見送られます。
スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん が、不法滞在状態で名古屋出入国在留管理局に収容されていた際、体調不良訴えたものの、詐病を疑われ、適切な治療が施されないまま死亡した事件(2021年3月)が生じたからでした。
この事件で、入管のそもそもの在り方や収容者の管理状況などが批判を浴び、まずは入管の医療体制の強化こそが先決として、この改訂案の成立が見送られたのでした。
それにもかかわらず、前回の問題点をそのまま含んだ入管体制の管理強化の改定案が今国会にも提出されました。
そして十分な審議も経ないまま、連立与党の自民・公明と日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決・成立されたのです(6月9日)。
かねて問題視されていた入管の収容者管理や難民申請と難民認定の「あるべき姿」の議論もないまま、与党と「ゆ党(与党でも野党でもない御用政党)」の馴れ合いで、数の力で「人命軽視」「人権軽視法案」が強行突破されてしまったのでした。
ちなみに、この法案を「人権軽視で問題!」として反対したのは、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社民党などでした。
日本は、難民の認定が極端に少ない──として、国際的な批判を浴びる中、こうした人命・人権軽視路線のままに、どこまで政府は突き進むつもりなのでしょうか。
強権国家への道をひたすら志向しているようで、甚だ危険な匂いが感じられるばかりなのです。
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難民・激増の時代!世界の潮流に逆行する「人命・人権軽視国家ニッポン」!
世界の人口は、2022年末時点で80億人を突破しました。
しかし、世界人口が80億人を超えてなお、命の危険にさらされる厳しい環境下におかれる人々の数も激増を続けています。
1950年にスイスのジュネーブで設立された国連難民高等弁務官事務所(UNHCR=ユーエヌエイチシーアール=略呼称はアンカー)によれば、現在世界の紛争や迫害によって、家を追われた難民や避難民の数は、1億1,000万人に達したと推計されています。
世界人口の80人に1人が、つねに迫害などによる命の危険にさらされる難民や避難民──ということなのです。
しかも、2020年時点(約8,000万人)と比べても、わずかこの2年余りで3,000万人も激増しており、UNHCRの推計によれば、70年前から統計を取り始めて以来、難民や避難民の数は増え続け、毎年のように過去最多数を記録しているのです(1日平均約4万1,000人ずつの増加)。
ものすごい数の難民や避難民が生まれ続けているのです。
絶え間ない紛争や迫害によって、難民や避難民が増えているのは、シリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、コンゴ民主共和国、スーダン、ソマリア、中央アフリカ共和国、エリトリアといった国々が突出して多くなっています。
これらの国々からは、数十万人から数百万人単位で難民や避難民がつねに輩出されており、世界の難民や避難民全体の4分の3を占めるとまでいわれています。
こうした状況に対しては、第2次大戦後に世界各国が手を差しのべるべく協調し、1951年に「難民の地位に関する条約(現在加盟146ヵ国)」が採択され、1967年にはその条約の不備を補う「難民の地位に関する議定書(現在加盟147ヵ国)」が採択されて今日に至っています。
この2つを合わせて、国際的な「難民条約」と呼ぶのです。
この「難民条約」は、難民の取り扱いに関する最小限の人道的基準を設定しており、難民のための国際的協調と団結を強め、庇護を提供する場合、政治的な理由で難民認定の基準を変更することがないように定められたものでした。
出入国在留管理局の「一括一元管理」が日本国の難民認定を阻んでいる!
日本が、難民や避難民と関わるようになったのは、1970年代後半からでした。
ベトナム、ラオス、カンボジアなどのインドシナ3国が社会主義政権となり、旧政府関係者や新体制を嫌う人々が小型船で周辺国へ逃れるボートピープルとなり、日本にも流れ着いたことに端を発し、1981年に日本も「難民条約」に加盟したのでした。
日本における出入国に関わる法律は、1951年に公布された「出入国管理令」を1982年に改訂した「出入国管理及び難民認定法」です。
この法律で「観光で上陸する外国人、日本での就労を目的に長期滞在する外国人、さらに難民申請を行うために上陸する難民申請者、外国人技能実習で入国する外国人」まで、まったく異なる目的で来日する外国人の出入国を、すべてひと括りにして管理しています。
そもそも、ここに現在の日本国における「難民」への無理筋対応や根本的矛盾が生じている──と言わざるをえないのです。
なにしろ、出入国在留管理局そのものが、本来はオーバーステイ(不法滞在)や不法就労を取り締まるための行政庁だからです。
紛争や迫害で祖国を追われてきた「難民」や「避難民」に人道的に対処するには、まったく不向きな役所でしかないからです。
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はじめから色メガネの差別的視点でとらえ、出入国在留管理局によって「難民」が阻まれる現実!異常に少ない日本国の難民認定数とその疎外のための非常識なシステム!
法務省のデータによれば、日本における難民認定者数の推移は以下の通りです(申請者数、認定者数、認定率、人道的配慮の在留許可人数の順)。
(申請者数) (認定者数) (認定率) (人道配慮)
●2010年 1,202人 39人 (3.2%) 63人
●2011年 1,867人 21人 (1.1%) 248人
●2012年 2,545人 18人 (0.7%) 12人
●2013年 3,260人 6人 (0.18%) 151人
●2014年 5,000人 11人 (0.2%) 110人
●2015年 7,586人 27人 (0.35%) 79人
●2016年 10,901人 28人 (0.25%) 97人
●2017年 19,629人 20人 (0.1%) 45人
●2018年 10,493人 42人 (0.4%) 40人
●2019年 10,375人 44人 (0.4%) 37人
●2020年 3,936人 47人 (1.1%) 44人
●2021年 2,413人 74人 (3.0%) 74人
これに比べて、2021年の諸外国の場合はどうでしょう。
(申請者数) (認定者数) (認定率)
●米国 210,488人 20,590人 (18.06%)
●英国 60,950人 13,703人 (56.56%)
●ドイツ 253,688人 38,918人 (15.14%)
●フランス 171,323人 32,571人 (15.65%)
●カナダ 35,839人 33,801人 (55.38%)
●豪州 28,326人 3,562人 (13.53%)
桁違いに、難民認定数の比率や人数が多いことが一目瞭然でしょう。この違いは、いったいどこから来ているのでしょうか。
日本の入管は、就労を目的とする「偽装難民」を極度に疑い、母国での「迫害」や「虐待」への洞察が極めて浅く、定義があいまいで限定的なところに、まず問題の核心がありました。
つまり、母国で身体拘束されたり、虐待されたり、強制労働に従事させられた──としても、それを必ずしも「信憑性あるもの」として捉えようとしない出入国在留管理局側の姿勢に大きな問題があるのです。
母国の事情を把握できていない知識不足状態にも関わらず、書類審査を中心に、ほんの少しの人だけに対面審査をするだけで、難民かどうかを判断する──といった非常に杜撰な体制だからです。
難民申請する側の人間にとっては、母国に強制送還されれば、生命・身体に危険が及ぶ──という切迫した事情があるのに、そうしたことへの配慮がほとんど欠落している──という状況が濃厚なのです。
そもそも収集するのも難しい、迫害などの証拠となる申請書類を難民認定を申請する側が多数用意しなければならず、おまけに入管側はテキトーな書類審査を中心に判断し、それでも「事実かどうか、信憑性がない」などと一刀両断に切り捨ててしまうからです。
迫害などの事実証明を「難民申請する側」に求めることからして、そもそも非常にハードルが高いのです。
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難民認定の二次審査を行う「難民審査参与員」という制度設計の大いなる「欺瞞」!
ところで、難民かどうか──の審査を実質的に担うのは、「難民審査参与員」という存在になります。
この方たちの審査結果をもとに、最終的な難民認定を行うのが法務大臣とされます。しかし、いっぽうで必ずしも大臣は参与員の判断に従う必要もないとされています。
難民審査参与員とは、入管での一次審査で「難民でない」と不認定にされた外国人が、それを不服として申し立てる二次審査において、第三者的立場で「難民か、難民でないか」──を判定する役割を担う人になります。
法務大臣からはタテマエ的に任命される難民審査参与員ですが、任命されるのは知識人や有識者とされます(弁護士や大学教授、国際協力活動者など)。
ただし、だからといって、難民問題の専門家ではないため、難民申請者にとって難民認定されるかどうかは、参与員の判断に大きなバラツキがあり、俗にいう「難民認定ガチャ」とも揶揄(やゆ)されているのです。
こうした難民審査参与員は、現在111人が出入国在留管理庁に登録されているものの、参与員が担当する難民審査の「数」にも、これまた大きなバラツキがありました。
一部の元参与員だった人は「難民認定すべき──と審査結果を伝えたら、その後審査する難民申請者の審査数がみるみる減らされていった」という証言さえあるのです。
これはいったいどういうことでしょうか。
要するに「難民認定」したら、参与員の仕事がどんどん減らされる恣意的なシステムになっていた──というわけなのです。
「難民認定」なんてしたら、参与員のあなたには、これ以上もう審査をお任せしませんよ──という実態を示しているではありませんか。
この時点で明確な「難民認定排除」を行っていたのです。
参与員は、「ちゃんと厳格に難民認定審査やっていますよ」というポーズを示すための存在にすぎないわけでした。
難民審査参与員そのものが恣意的な入管のコントロール下にある!
また、今回の「改訂・入管難民法案」の強制送還を容易にする差別的・非人道的な重要条項の根拠となった──といわれる参与員自身の国会証言もありました。
2021年4月21日の衆院法務委員会における、自身が難民審査参与員としての実体験を述べた柳瀬房子氏の発言です。
「私自身参与員が、入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることが出来ません。私だけでなく、他の参与員の方約100名ぐらいおられますが、難民と認定できたという申請者がほとんどいないのが現状です」
この柳瀬氏の国会証言を真に受けると、難民申請する人は、実際は難民に当たらない人ばかりで、難民申請を乱用している──と聞こえます。
ゆえに、2回も難民申請して却下された外国人は、さっさと母国へ強制送還すべきだ──という改訂入管法に盛り込まれた厳しく非情な論理がまかり通ってしまうのです。
しかし、その後入管庁が公表した柳瀬氏の難民審査数によれば、柳瀬氏が異常に多い難民審査にあたっていた事実も明らかになっています。
2021年には、全部で6,741件あった難民申請に対し、柳瀬氏がその20.4%の1,378件を一手に審査していたのです。
2022年には、全部で4,740件あった難民申請に対し、柳瀬氏が25.9%の1,231件を一手に審査していたのです。
穿(うが)った見方ですが、柳瀬氏に難民申請者の審査が集中しているのは、「難民認定しない難民審査参与員だからではないのか?」という疑惑が浮かびます。
柳瀬氏は、難民申請者1人あたりに、たったの6分しか費やしていない計算になる──という指摘までが飛び出しているのです。たった6分書類をめくっただけで、「この人は難民と違う!」とばかりの判断を下していたのではないか――という大きな疑惑です。
母国へ強制送還されれば、生命や身体に危険が及ぶ──という難民認定申請者をどう考えているのでしょうか。
先の元難民審査参与員だった人の「難民認定を出すと難民審査する申請者数がどんどん減らされた」という証言と見事に符合するのです。
どうやら、出入国在留管理局は、密室で相当ヤバいことを行っているのではないでしょうか。
こんな疑惑が飛び出しても、自民・公明・日本維新・国民民主は、入管法改定案を強行成立させたのでした。
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入管の難民認定は却下が「前提」?ブラックボックス下で「人権侵害」が横行するニッポン!やがて日本国民も「緊急事態条項」を憲法に盛り込まれ「人権」が追いやられる!
ウガンダから3年前に来日した女性は、レズビアンだったため、ウガンダで警察に拘束され、過酷な拷問を受けた結果、皮膚移植の手術まで受けた──というひどい迫害を受けました。
ウガンダでは、同性愛は犯罪だからです。
今年5月からはさらに法律が厳しくなり、ウガンダで同性愛者の最高刑が「死刑」にまでなっています。
このウガンダ人女性は、入管で難民申請を行いましたが、書類審査だけで「信憑性がない」という判断で難民認定を却下されています。
ゆえに難民審査参与員と直接面談する「対面審査」を求めたものの、これも認められませんでした。
母国ウガンダに強制送還されれば、警察に逮捕され、再び命の危険も伴うことになります。
幸いなことに、難民支援団体の協力の下、2年前に大阪地裁に提訴でき、今年3月に「難民認定すべし」という判決が下されて、ウガンダへの強制送還は免れています。
ようやく日本で安心して働き、生活できるようになったのでした。
泥酔した入管の日本人女医がコロンビア人女性の胆石を診察したものの、女医は「胆石などどうでもいい」と薬も処方せず放置!
大阪の入管では、今年1月に、酔っぱらった女医が、胆石に苦しむ収容者の診察にあたり、「胆石などどうでもいい」と暴言を吐き、患者を放置した事件も明らかになっています。
のちに、改訂入管法反対の国会議員が、この女医の呼気アルコール検査結果のデータを入手して公表しましたが、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.36ミリリットルだったことがわかっています。
運転免許の場合なら、アルコール濃度0.25ミリリットルで「免許取り消し」になります。ものすごい泥酔状態での診察なのでした。
この女医は、そうした問題行動により、その後の医療業務からは外されたそうですが、入管全体における職員のモラル低下が十二分に窺える話だったのです。
読者の皆様はどのようにお考えでしょうか。
ここまでご覧いただいた通り、入管の「難民認定」そのものが、極めてずさんな管理体制下で行われています。
日本の「難民認定数」が異常に少ない理由がお判りいただけたのではないでしょうか。
これは、迫害に遭ったと訴え、難民認定を求める外国人だけの問題ではないのです。
入管難民法を強化改訂する以前に、日本の入管そのものの体質を抜本的に改めるべきが先決ではありませんか。
難民申請者の認定過程では、書類審査だけでなく、必ず対面審査を実施し、その際の録音・録画を記録する、あるいは申請者の代理人の同席も必要とすべきでしょう。
適正な審査が行われていない可能性が高すぎるからです。
まずは、入管自体の改革が求められるのです。
このように難民申請者の認定率が著しく低い現状は、今後も国際社会からの批判の高まりがますます予想されるでしょう。
難民認定業務を入管でなく、第三者的機関を新たに設立して行う必要性もあるのではないでしょうか。
このままでは、またぞろ入管内部における不祥事がなくならない──と思われるからです。
ブラックボックスで隠蔽された組織では、腐敗の根絶は難しいのです。
いずれにしろ、入管という、私たちのよく知らない組織の中では「人命軽視」「人権軽視」の事態がさんざん行われてきているのです。
私たち日本国民も、こうしたひどい状況に声を上げておかないと、やがて憲法改正で「緊急事態条項」を入れられ、戦前に逆戻りしかねないでしょう。
戦前の「人権無視・人権弾圧」の黒歴史を為政者に繰り返させないためにも、今回の「人命軽視」「人権軽視」の入管難民法改訂に賛成した政党には、今後も投票しないようにしたいものなのです。
この記事の著者・神樹兵輔さんのメルマガ
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