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プーチン激怒。トルコの盟友エルドアンが突如見せた「3つの裏切り」

数少ない「プーチンの理解者」の一人として数えられてきたトルコのエルドアン大統領。そんな彼がここに来て、プーチン大統領と敵対するかのような行動を取り続けています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、エルドアン氏が見せた「プーチン氏への3つの裏切り」の内容を詳しく紹介。その上で、なぜ彼が盟友を見限るに至ったのかについて解説しています。

エルドアンは【親友プーチン】を【3度裏切る】

今回のウクライナ戦争で、大活躍している男といえば、トルコのエルドアン大統領でしょう。欧米では、「独裁者」と評判が悪い。しかし事実として、エルドアンは、国連、ウクライナ、ロシアの仲介をし、「穀物合意」を成立させました。

これは、何でしょうか?

ロシアは小麦輸出量、世界一。ウクライナは、世界5位。戦争がはじまると、ロシアが黒海を封鎖した。それで、ウクライナは小麦輸出ができなくなったのです。結果、穀物価格が世界的に高騰しました。それだけでなく、アフリカや中東の一部の国では食糧危機が起こった。エルドアンは、国連、ウクライナ、ロシアをまきこんで、2022年7月、「穀物合意」を成立させたのです。

エルドアンは、ウクライナにとっても、ロシアにとっても「いいトルコ大統領」です。彼が5月の大統領選挙で再選すると、ゼレンスキーもプーチンも祝意を示しました。そして、それはおそらく、「心からの祝意」でした。なぜ、エルドアンは、対立するゼレンスキー、プーチンの両者から愛されているのでしょうか?

ウクライナの恩人エルドアン

ゼレンスキーにとって、彼は穀物合意の恩人です。これで、小麦を輸出して外貨を得ることができるようになった。

さらに、無人機バイラクタルの件でも恩人です。戦争がはじまった時、ロシア国営メディアは、「3日でキーウを陥落させる」とはしゃいでいました。長い戦車の行列が、キーウに進軍していった。ところが、ロシアはキーウの戦いで大敗北を喫し、以後東部ルガンスク、ドネツクに主戦場が移っていきます。なぜ、ウクライナは、キーウでロシア軍を撃退できたのでしょうか?

二つの武器の存在が注目されました。一つは、携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」。これがあれば、女性一人でも、戦車を破壊することができる。もう一つは、トルコ製無人機「バイラクタル」です。ロシアの戦車を破壊しまくりました。

喜んだウクライナ人は、「バイラクタルを称える歌」を作り感謝したのです。

Байрактар. Фольклорний гурт “Святовид”

さらに重要なことに、トルコは、バイラクタルをロシアに輸出していません。ロシアは仕方なく、イランから無人機を輸入しています。というわけで、エルドアンは、「ウクライナの友達」なのです。

プーチンの親友エルドアン

では、プーチンは、なぜウクライナを支援するエルドアンと仲がいいのでしょうか?

話は2016年まで遡ります。エルドアンが、欧米、特にアメリカを嫌いになり、ロシアに接近するきっかけになった事件があります。それが2016年7月15日に起こった「クーデター未遂事件」。トルコ軍の一部が、エルドアンに対し反乱を起こしたのです。

クーデターは失敗し、軍関係者、司法関係者約7,500人が逮捕されました。そして、警察官約7,900人、公務員約8,700人が解雇されました。

このクーデターの黒幕とされているのが、フェトフラー・ギュレンという男です。ギュレンは1960年末頃、「ギュレン運動」という社会運動をはじめました。ギュレンは、教育機関を建設したり、トルコ文化を普及たり、宗教間の対話を呼びかけたり、貧困層への支援を行っていた。2016年のクーデターに参加した人たちの多くが「ギュレンの支持者」だったとのこと。

ところで、ギュレンは、アメリカ在住です。エルドアンは、アメリカに、「ギュレンの引き渡し」を要求しました。ところが、アメリカ政府は引き渡しを拒否し、トルコとアメリカの関係は、大いに悪化したのです。ちなみにトルコの内相は、「アメリカがクーデターの黒幕だ!」と主張しています。ロイター2021年2月5日。

トルコのソイル内相は4日、2016年に同国で起きたクーデター未遂事件について、背後に米国が存在していたとの認識を示した。地元紙ヒュリエットが報じた。

ソイル内相は「7月15日の背後に米国の存在があったことは非常に明らかだ。(ギュレン師のネットワーク)FETOが彼らの指示を受けて実行した」と述べた。

内相が、「アメリカがクーデターの黒幕」といっている。ということは、エルドアン自身もそう思っている可能性が高いでしょう。

エルドアンが「アメリカが起こした」と思っているクーデター未遂が2016年。ここからエルドアンは、露骨にアメリカに反抗するようになっていきます。

たとえば、アメリカの同盟国でありながら、ロシアから武器を買っている。2017年、エルドアンは、ロシアから地対空ミサイル「S400」を購入することを決めました。

そして、トルコは、スウェーデンがNATOに加盟することに反対しています。スウェーデンが、トルコからの分離独立を主張するクルド労働者党(PKK)の難民を匿っているからです。これは、トルコ側の事情ですが、プーチンから見ると、「エルドアンのおかげで、NATO拡大が阻止されている」となります。

いずれにしてもプーチンは、「エルドアンは、NATO分断を引き起こせる男」として大切にしているのです。プーチンにとってエルドアンは、ただの「独裁者仲間」ではない。NATOを破壊するための「戦略的パートナーといえるでしょう。

エルドアンは、親友プーチンを3度裏切る

ゼレンスキーからもプーチンからも愛されるエルドアン。しかし、彼は最近、3度プーチンを裏切りました。

【裏切り1】エルドアンは、ウクライナのNATO加盟を支持する

NHK NEWS WEB 7月8日。

トルコのエルドアン大統領が、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナが希望するNATO=北大西洋条約機構への加盟を支持する考えを示しました。

両首脳は日付が変わった8日、現地時間の午前0時すぎから記者会見に臨み、エルドアン大統領はこの中で「ウクライナはNATO加盟に値する」と述べ、7月11日から始まるNATO首脳会議を前に、ウクライナが希望するNATO加盟を支持する考えを示しました。これに対して、ゼレンスキー大統領は「ウクライナのNATO加盟について大統領の考えを聞けてうれしかった」と述べて歓迎しました。

これはプーチンにとって「深刻な裏切り」といえるでしょう。なぜでしょうか?プーチンは、ウクライナ侵略を開始した理由の一つとして【 ウクライナのNATO加盟阻止 】を挙げているからです。

ところが親友のエルドアンは、「ウクライナのNATO加盟を支持する」という。プーチンは激怒したことでしょう。

【裏切り2】アゾフ大隊の元指揮官をウクライナに帰国させた

アゾフ大隊といえば、ロシア側が憎んでいた準軍事組織です。なぜでしょうか?ロシアが「ルガンスク、ドネツクで、ロシア系住民を虐殺した」というとき、その主体は、「アゾフ大隊」だからです。ですから、プーチンが「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救う」というとき、「アゾフ大隊から救う」という意味でした。

ウクライナ戦争がはじまると、アゾフ大隊は、マリウポリでロシア軍と戦いました。しかし、2022年5月に降伏し、生き残った大隊の兵士は捕虜になりました。アゾフ大隊の指揮官たちは、その後トルコに移されました。ロシアからトルコに移されるときの条件は、「トルコにとどまり、ウクライナに引き渡さないこと」だったのです。再びNHK NEWS WEB 7月8日。

8日にはSNSで、ウクライナ東部の要衝マリウポリなどで防衛に関わった当時の「アゾフ大隊」の指揮官ら5人がトルコからウクライナに帰国することを明らかにしました。

すでに帰国し、その映像がニュースで流れています。

元指揮官らはロシア軍の捕虜になったあと、トルコが仲介したロシアとウクライナの捕虜交換で解放され、その後、トルコで生活を続けていたということです。捕虜交換にあたっては、元指揮官らがトルコにとどまることが条件になっていたとされ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、国営のロシア通信に対し、捕虜交換の合意に反する行為だと不快感を示しました。

これも、プーチンから見ると、「深刻な裏切り行為」ですね。

【裏切り3】エルドアンは、スウェーデンのNATO加盟を支持する

そして3つ目の裏切りです。

エルドアンはこれまで、スウェーデンのNATO加盟に反対してきました。既述のように、その理由はクルド問題です。しかし、ここに来て、「スウェーデンのNATO加盟を支持する」と方向転換しています。ただし、「トルコのEU加盟交渉を再開すること」を条件に挙げています。

時事7月10日。

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は10日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、長年停滞しているトルコの欧州連合(EU)加盟交渉が再開すれば支持すると述べた。

これも、プーチンにとっては本当に深刻な裏切りです。なぜでしょうか?ウクライナ侵略、トップの理由は、「ウクライナのNATO加盟阻止」でした。ところが侵略の副作用がでてきた。具体的には、これまで中立を維持してきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を目指すようになったのです。そして、今年4月、フィンランドは31番目のNATO加盟国になりました。

しかし、トルコの反対で、スウェーデンは加盟できていない。プーチンにとってエルドアンは、「NATO拡大を阻止してくれる」ありがたい存在だったのです。ところが、今回裏切った。

というわけでエルドアンは、

以上、3つの深刻な裏切りをしています。

なぜ、エルドアンは、サクッとプーチンを裏切るのでしょうか?

一般的に言われているのは、「プーチンが穀物合意延長に反対しているから」です。穀物合意の期限は、7月18日で切れます。エルドアンは、自分が主導している穀物合意を、プーチンがぶち壊そうとしていることに憤慨している。つまり、エルドアンに言わせれば、「最初に裏切ったのはプーチンだ」ということでしょう。

もう一つ、エルドアンは、「プリゴジンの乱」などを見て、「プーチンの権力基盤が弱体化しているから、好きにしても何もできないだろう」と考えているのでしょう。日本では、「プリゴジンの乱」について、かなりトンチンカンな説が流布されていますが。1日で終わったこの反乱は、ロシア国内の「プーチン最強神話」を粉々にしました。「川に落ちた犬は叩け」というのは、韓国のことわざだそうです。しかし、国際関係のことわざとしても使えそうですね。

プーチンが弱くなったのを見て、中央アジア諸国は、中国に走りました(中国中央アジア運命共同体創設へ)。ロシアが欧州に天然ガス、原油を輸出できなくなったのを見た中国は、ロシア産ガス、原油を【激安】で【人民元】で大量に輸入するようになりました(ロシアではなく、中国自身を助ける)。プーチンが弱くなったのを見て、アルメニアはロシア中心の軍事同盟CSTOからの離脱を検討しはじめました。プーチンが弱くなったのを見て、ウクライナ、ジョージア、モルドバは、EUに加盟申請しました。

これらの事実はすべて、「プーチンの権力基盤が弱体化していること」を示しています。

繰り返しますが、これらはすべて「事実」です。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年7月11日号より一部抜粋)

image by: kursat-bayhan / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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