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今になって出た「過剰なコロナ対策」の悪影響。いま子供たちにヘルパンギーナが流行している訳

夏風邪の一種で乳幼児が罹患しやすいヘルパンギーナが猛威を振るっています。ここ3年ほどほとんど見られなかったというウイルス感染症が爆発的拡大を見せているのは、一体何が原因なのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、その理由を解説。さらに子供たちとウイスルとの関係について、自身の思うところを記しています。

ヘルパンギーナが大流行。過剰なコロナ対策が子供たちから奪ったもの

7月11日、京都大や筑波大などの研究チームが、小児科分野の国際学術誌「JAMA Pediatrics」にオンライン発表した研究によると、3~5歳の間にコロナ禍を経験した5歳児は、未経験の同年齢と比べて、平均4.39カ月の発達の遅れがあることがわかったという。

コロナ禍で5歳児に約4か月の発達の遅れ―3歳、5歳ともに発達の個人差拡大:京都大学

首都圏の保育園に通っている乳幼児887名に対して、2017年から断続的に追跡調査をしてきたもので、総合的な発達のほか、運動、手指の操作、言語理解、言語表出、抽象的な概念理解、社会性など130項目以上の指標で評価したという。

3歳児では、コロナ禍での発達の遅れはみられず、むしろ、運動や手指の操作、抽象的な概念理解、社会性などでは進んでいた。

しかし、5歳児に発達の遅れが見られ、特に、保護者が精神的な不調を抱える家庭の子は、発達の遅れが顕著であったという。

3歳児の場合、大人とのやり取りを通して学ぶ発達段階にあたるため、保護者の在宅勤務が増えるなどしたことで発達が進んだ可能性があるが、5歳児の場合は、社会性を身につける段階にあり、他者との交流が重要であるにも関わらず、保護者以外の大人や、他の子どもと触れ合う機会が制限され、負の影響を与えた可能性が考えられるという。

ほら、言わんこっちゃない、という感想だ。

自粛を強要し、他人と異様に距離をとって生活することを奨励した結果、教員が子どもと話す機会が減り、家庭訪問が見送られていることが問題になり、「児童虐待の過去最多」が報道された。

だが、そういった暴力的なケースだけでなく、社会全体でマイルドに幼児をいたぶったようなものだ。大事な幼児期にマスクをさせて、恐怖を与えられながらピリピリと過ごす日々を煽った大人たちの責任は重大である。

いまだに「第9波」だの煽っている奴は、もうテレビに出すな!

この結果を受け止めて、「あのコロナ対策は正しかったのか?」をちゃんと総括してくれと叫びたい。

子どもにとって遅れているのは、発達だけではない。免疫機能の低下も起きている。

現在、ヘルパンギーナが大流行中だ。

口やのどの奥に水泡がたくさんできるウイルス性の咽頭炎で、原因は、エンテロウイルス。主流の患者は幼児で、珍しくたま~に大人がかかることもあり、水も飲み込めない痛みにしばらく耐えなければならず、げっそり痩せてしまう。

今年は、全国約3,000の小児科定点医療機関から2万人以上の報告があり、過去10年で最も多い数となっている。

流行しているウイルスの型は、特に今年に限って特別なものではないようで、小児科専門医の斎藤昭彦氏によると、「コロナ対策で病気になる機会が減って、免疫が低下したことが原因の1つと考えられる」という。

マスクをさせて、人と接触させないようにして、外へもほとんど遊びに行かないような日々を送っていれば、当然、子どもは肉体的にもひ弱になってしまう。

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「よくある流行りの風邪の1つ」になったコロナ

過去3年は、ヘルパンギーナをはじめ、インフルエンザ、夏風邪のRSウイルスなど様々なウイルス感染症がすっかり鳴りをひそめて流行しなかった。

ヘルパンギーナの流行状況

1つのウイルスに感染すると、それに対する免疫応答が起きたり、ウイルスが吸着するための受容体が占領されたりして、あとから来たウイルスが流行しなくなる「ウイルス干渉」が起きていたためとみられるが、3年も経てば、いくら「第9波!」と騒がれようと、とうとうコロナも「ほかのと同じ、よくある流行りの風邪の1つ」になってしまい、乳幼児の間では、入れ替わって現在ヘルパンギーナが流行中、ということだろう。

コロナ発生前後に生まれた乳幼児は、3年間、さまざまなウイルスに感染して免疫を鍛えるという機会に恵まれなかった。コロナが特筆すべきものでなくなった以上、今後は、あらゆる感染症において、キャリーオーバー的に通常の何倍もの患者が発生すると思っておいたほうがいい。

生物である限り、感染症を回避することは不可能だ。できる限りたくさん遊んで、たくさん食べて、体力をつけさせるしかないだろう。

推奨される「マスクの着用よりも入念な手洗い」

ところで、このヘルパンギーナの流行を知らせる記事、なかなか面白いことが書かれている。

大便で広がる「糞口感染」に注意 ヨミドクター(読売新聞) 2023.7.11

ほお!

記事によれば、ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスは、腸管で増殖するため、便の中のウイルスが圧倒的に多いらしい。そのため、「糞口感染」が主な感染ルートになるという。

糞口感染は、子どもが、他人のうんこを口に入れてしまうという意味ではない。

記事では、おむつを替えたり排便をしたりしたあと、しっかり手を洗わずに、あちこち触れていくと、その場所をほかの人が触り、ウイルスが何らかの経路で口の中に入ると表現。

小さい子どもと接する機会のない大人でも、ヘルパンギーナの免疫がない場合は、公共施設のトイレの便座やレバー、ドアノブ、蛇口などが感染源になる。そこからエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン、電車やバスの手すり、そしてタッチパネルやスマホなど、人が手で触れる部分を介して広がっていくということだろう。

ヘルパンギーナは、のどの奥でもウイルスが増えるため、鼻水や唾液を介した「接触感染」も起きるという。

現在、RSウイルスによる風邪も増えているが、こちらも「鼻水や唾液などを介した接触感染で広がります。感染を防ぐには、ヘルパンギーナと同様、こまめに手洗いをすることが重要」と警鐘を鳴らしていた。

そして面白いことに、コロナが5類になり、マスクを外す人が増えているが「マスクの着用よりも入念な手洗い」をはっきり推しているのである。

かつて、糞口感染・接触感染を頑なに否定して、「下水が完備されている先進国では大きな問題にならない」「接触感染はほとんどない」と主張しただけでなく、激昂して「帰りますよ!」と立ち上がり、腰のベルトをむんずと握りしめ、なだめようとした中川淳一郎氏を突き飛ばしたのに帰らないという芸を披露したM氏は、この記事を読み、なにを思うのであろうか。

「もう帰る」とキレる宮沢孝幸氏

便と一緒に排出されたウイルスは、近代化されて下水の完備された先進国なら、すべて下水に流れてゆき、外部に出て人に感染することはないというのは、やはり大きな思い違いだった。

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やはり間違いだった「コロナの接触感染はほとんどない」という主張

ヘルパンギーナの場合、おむつを替える際や、本人がうんこをした際に、直接、手にウイルスが付着するというルートももちろんあるが、腸からトイレに排泄されたピチピチのウイルスは、水洗トイレの水流によって、最大80万個、ミスト状の水分になってトイレ内に舞い上がっている。

ミストは、ドア、ドアノブ、ペーパーホルダーなどに付着するほか、床に大量に落下する。

ここで思い出すのは、血栓症などの症状を起こしていた初期のコロナは、ヘルパンギーナ同様、腸管で大量に増殖する特徴があったということだ。

2020年に話題になったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内調査で、ウイルスが最も多く検出されたのは「トイレの床」と発表されたが、やはり、水洗トイレによってウイルスが舞い上がったこと、それが糞口感染の最初のルートと考えると辻褄が合う。

ウイルス検出多いのは「トイレ床」「枕や電話機」「TVリモコン」…クルーズ船感染者の室内 (読売新聞)2020.5.4

船内調査結果では、トイレの次に多くウイルスが発見されたのは、患者にもっとも近い「枕」、そして「電話機」「テレビリモコン」と手で触るツルツルしたものが列挙されていた。

接触感染の様子がはっきり想像できる。

この時、もし、乗客たちが持っていたスマホを検査対象にしていたならば、当然、多くのウイルスが見つかっていただろう。船内の電話機やリモコンより、確実に手に取る頻度が高いものなのだから。

「下水が完備されている先進国では大きな問題にならない」
「接触感染はほとんどない」

これらの主張は、やはり間違い!

「それでも糞口感染・接触感染はない」というなら、ヘルパンギーナの感染経路について批判して、納得のゆく説明をしてほしい。

私は、糞口感染や接触感染について、「誰が発信している説か」ではなく、その説明が論理的で、実際にわかっている調査結果などとつじつまが合い、納得できるものかどうかで判断していた。

ウイルス学者、感染症学者も、「どの大学の先生様が発信している説か」ではなく、改めて学問的に誠実に総括するべきではないか?

嫌がらせでしかないスパコン「富岳」の飛沫シミュレーション

個人的な話になるが、ここしばらく、週に何度か介護施設から引き取った洗濯物を洗っている。

特に感染性の病気があるわけではないが、大便臭がある時は、慎重に取り扱って、専用のバケツで漂白剤につけ置きし、使い捨て手袋をはめて揉み洗いしたあと、すすいでから洗濯機にかけ、終了後は、洗濯槽や洗濯機の外側、バケツの内外、作業周辺の床や壁、自分が手で触れた場所などを掃除するようにしている。

介護に関わっている人にとっては当たり前の作業で、厳密に言えば、もっと防備しないと意味ないよと言われそうだが、ミクロの世界の病原体や微生物というものは、自分が思ってもみなかった無意識の動作で、想像している以上の超絶な広範囲に拡散しているものなのだろうと思っている。

だが、同時に、「だからなるべく清潔を維持できるように、気を付けて取り扱おう」と思うまでで、洗濯物からの病原体や微生物の拡散状況を、科学の力ですべて可視化されたら非常に困るとも思っている。

そんなミクロの世界が何もかも表現されてしまい、いちいち意識するようになったら神経症になってしまうし、怪談話に影響されて、部屋の些細な物音にビビりあがるような、無用なパニックが起きるだけだ。

洗濯物に触れる人にストレスがかかり、周囲で具合の悪い人が出たら、「おまえが接触感染でウイルスを広げたのでは?」という疑いが生まれて、人間関係がこじれるケースも出てきそうだ。

コロナでは、スパコン「富岳」の飛沫シミュレーションが、むやみやたらと「他人の息は、こんなに広がっているぞ。気をつけろ」という印象を植え付けた。あんなものをテレビで放送しまくるなんて、嫌がらせ以外の何物でもない。

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潔癖を求めすぎず、おおらかに受け止める

赤ちゃんのおむつを、毎日何度も交換している子育て中の人たちにとっても、同じだろう。

私は、自分の子どもの糞尿は、心底汚いものとは感じなかったので、毎日何度も色とニオイを観察して健康チェックをしていた。あの感覚からすれば、おむつの扱い方が多少ゆるくなる親も少なくないだろうと想像する。

なるべく広げないためには、糞口感染、接触感染という感染経路と、病時の対策、手洗いや糞尿の始末について啓蒙するしかないが、いずれにせよ子どもは、流行するウイルスには一通り感染して、免疫をそろえていかなければ強くなれない。子ども時代に素通りしたウイルスに、大人になってから感染すると、より一層、苦しむことにもなる。

だから、潔癖を求めず、おおらかに受け止めるしかない。

公共のトイレを利用するときは、気になる人は消毒を使うとよいし、体力や免疫に自信のないときは、ちょっと念入りに手洗いをしておこう。そして、みんな、うんこをしたら、便座のフタをしめてから、水を流すんだよ。

結局、こういう基本的なメッセージに立ち戻るしかないのだ。

(『小林よしのりライジング』2023年7月18日号より一部抜粋・文中敬称略)

2023年7月18日号の小林よしのりさんコラムは「〈性自認〉の曖昧さを保守としてどう捉えるか?」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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