糖質制限食を実践し、卵を始めとする高コレステロール食材を多く摂取するようになった人が、血中コレステロール値の変化を気にするのは当然のこと。1日4個の卵摂取を半年以上続けLDLコレステロール値が上昇したとの質問に答えるのは、メルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』著者で、糖質制限食の提唱者として知られる江部康二医師です。江部さんは、食事が血中コレステロール値へ与える影響はないというのは確かなエビデンスがあると説明。ただし、短期的には肝臓による調整が追いつかず、質問者以上の数値になる人もいると伝えたうえで、評価を示しています。
卵の摂取と血中コレステロールについて
Question
卵の摂取と血中コレステロールについて質問があります。半年以上、1日あたり4個の卵を食べた結果、LDLコレステロールが約150→198まで上がりました。
そして卵の多量摂取をやめ、タンパク源を豚ロース100gに変更したところ、2ヶ月足らずで155まで下がり、中性脂肪も97→60となっています。
最近の医学、栄養学では、食物由来のコレステロールは血中コレステロールへの影響は少ないと言われていますが、この結果を見ると、やはり食物由来のコレステロールは血中コレステロールに影響があるように思えます。体質的なものなのでしょうか?
ドクター江部からの回答
普通の大きさの卵1個の重さは約65g、中身は約55gで、その中のコレステロール量は約250mgです。日本人の平均的なコレステロール摂取量は1日に300mgですので、卵1個のコレステロール量は、それなりに多いと言えます。
[100g中のコレステロール量]
・豚もも:46mg
・豚ロース:51mg
・豚ヒレ:47mg
・鶏卵:428mg
・鶏もも:114mg
・鶏ささみ:54mg
・バター:227mg
・チーズ(ゴーダ):67mg
データ的には、鶏卵のコレステロール含有量はダントツに多いですね。しかし、ご指摘のように、2015年に米国でも日本でも、食事中のコレステロールの摂取基準を撤廃しています。
これは、食事中に含まれるコレステロールの量が、血中コレステロール濃度に影響を与えないという研究結果を踏まえてのことと思われます。
例えば、米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された論文において、
「は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げない。総コレステロール値も不変」(JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.)
と報告されています。
5万人で対象群をおいて8年間追跡した信頼度の高い論文です。でも、この研究、8年間の観察ですね。
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わかりやすい例として、玄米菜食的な食生活をしていて糖尿病を発症した人が糖質制限食に切り替える場合があります。このとき、血糖値やHbA1cは速やかに改善して正常範囲内となりますが、LDLコレステロールは、軽く200mg/dlを超えて、250-300mg/dlを超えることもあります。
これは、玄米菜食時代は、食材のコレステロールが少ないので、肝臓が充分量のコレステロールを作って体内に供給していたのが、糖質制限食に切り替えて、食材のコレステロールがおおいに増えたので、これらが合わさってLDLコレステロール高値になったものと思われます。
勿論、肝臓が調整して徐々にLDLコレステロール値は落ち着いていくのですが、いかんせん個人差が非常に大きいです。半年~1-2年で落ち着くこともありますが、数年以上かかることもあります。個人の肝臓の調整力とはまあそんなものなのでしょう。
要するに、糖質制限食実践で高コレステロール食材摂取が増えれば、少なくとも短期的には高LDL血症になる人が結構多いと思います。この場合、LDLコレステロールが高値であっても、中性脂肪が80mg/dl以下で、HDLコレステロールが60mg/dl以上であれば、善玉のLDLコレステロールであり、悪玉の小粒子LDLコレステロールは、ほとんどありませんので安心です。
糖質セイゲニストの場合はまずそうなりますので心配ないのです。この方の場合も、卵をまたしっかり食べて、LDLコレステロールが高値になったとしても、糖質制限食の範疇であれば問題ないと思います。
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