7月16日に開かれた閣僚級会議で、イギリスの加入を正式決定したTPP。EU離脱から3年、イギリスはTPPのどこに加入のメリットを見たのでしょうか。今回のメルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』ではジャーナリスト・作家として活躍中の宇田川敬介さんが、自国経済への恩恵はごくわずかと見ている英政府が、それでもTPP加盟を決めた背景について考察しています。
なぜイギリスはTPPに加盟したいと思うほどのメリットを感じたのか?
今回は「なぜイギリスはTPPに加盟したいと思うほどのメリットを感じたのか?」として、イギリスのTPP加盟について考えてみたいと思います。
日本などが参加するTPPの閣僚会議が7月16日に開かれ、イギリスが協定に加入することを正式に決めました。
2018年のTPP発足後、新たな国が加わるのは初めてで、経済圏はヨーロッパにも広がることになります。
イギリスで協定が発効すれば、TPPは12か国による体制となり、参加国のGDP=国内総生産の合計はこれまでのおよそ11兆8,000億ドルから12か国でおよそ15兆ドルに拡大し、人口はおよそ5億8,000万人となります。
閉幕後に発表された共同声明では加入申請に対し、「TPPの高い水準を満たすことができるかどうか情報収集を行っている」とし、それぞれの国や地域が貿易ルールを守っているかなどについて調べ始めたことを明らかにしました。
一方、今年3月のBBCの報道では、「イギリス政府は、CPTTP加盟がイギリス経済に与える恩恵はごくわずかだとみている」としている。
イギリスはすでに、ブルネイとマレーシアを除く各加盟国と個別に自由貿易協定を結んでいて、イギリス経済のTTP加盟による拡大率は、今後10年でわずか0.08%にしかならないとみられているからです。
政府に経済見通しを提供している英予算責任局(OBR)は、ブレグジットは長期的にイギリス経済の成長を4%減らしているとして報道しているのですから到底間に合うものではないのです。
このような報道があるにもかかわらず、なぜ、イギリスはTPPに加盟したのでしょうか。
スナク首相の言葉から推測できるこれからの世界
イギリスのスナク首相は、TPP加盟に関して「ブレグジット後の自由における本物の経済的利益」を示すものだと話しています。
「イギリスは、CPTTPの一部として、新規雇用や成長、イノベーションの機会を得るグローバル経済の重要な立場についた」
「イギリスの企業は今後、欧州から南太平洋にまたがる市場への類を見ないアクセスを享受できる」
このスナク首相の言葉は、本年3月にイギリスがTPP参加に関して議会で決定した後の言葉だとされて報道されています。
さて、イギリスは上記のようにあまり経済効果は期待できないにもかかわらず、なぜここまでやる気になっているのでしょうか。
このように数字が出ているということは、基本的には「現在の経済」ではないということが考えられます。
要するに「今後」つまり「これから将来にかけて、イギリスは市場としてインド太平洋に進出する」ということがいえるのではないでしょうか。
実際に、2016年にブレグジットを国民投票で決定し、そして、2021年に完全にEUから離脱したイギリスにとって、EUという巨大な市場を失ったことになります。
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同時にイギリスは「コモンウェルス」ということで、過去に多くの国がイギリスの影響下にあり、その国々がイギリス王室を慕っているということになっています。
このイギリス王室に関しても、エリザベス女王崩御によって力が衰えたとはいえ、まだまだ大変な影響力を持っているということになります。
その意味でいうとTPPの加盟国12か国中でカナダ・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド・マレーシア・ブルネイと6か国がコモンウェルスの影響下にある国であるということになるのです。
EUを離脱したイギリスにとって、これらのコモンウェルスの国々に様々な意味で近づいてゆくのは当たり前のことであると考えられます。
いや、ジョンソン首相は、当時(まだロンドン市長でしたが)、「開かれた英国(グローバル・ブリテン)」を国家戦略に掲げ、EUの一員としては実現できなかった国や地域とも自由貿易協定(FTA)を締結することを目指すとしていたのです。
実際にEU離脱後の英国は、日英包括的経済連携協定(日英CEPA)、英・シンガポールデジタル協定、英・ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタイン自由貿易協定を含め、現在までに70の発効済の新たな貿易協定を結んでいます。
また、オーストラリア、ニュージーランド、ウクライナ(デジタル協定)、東南アフリカとの貿易協定の署名を完了させていますし、米国、インド、中東などとの貿易協定の交渉を進めているのです。
同時に今年のG7でも見えてきたように、グローバルサウスといわれる経済発展著しい国々があり、その国々と戦略的に提携できることがイギリスの将来につながるということになっているのではないかと考えます。
或る意味で、スナク首相のルーツがインドであるということも関係があるかもしれません。
もちろんルーツがインドであるからといって、インドに加担しているとは言い切れませんが、しかし、或る意味で「アジアに拠点を置いた視点」というものがあるのではないかと思います。
これからの成長市場も、また、今後のイギリス経済が生きる道も、インド太平洋が握っているというような感じなのかもしれません。
或る意味で、「21世紀の大航海時代」というようにイギリスはとらえているのかもしれないですね。
何故今加盟を?
ではなぜ今加盟なのでしょうかーーメルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』2023年7月24日号より一部抜粋。続きはご登録の上、お楽しみください。初月無料です)
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