2016年に大論争を引き起こした「保育園落ちた日本死ね!!!」騒動から7年あまり、いつの間にか解消していた感のある待機児童問題。しかしそれは決して「善政」によるものではないようです。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、「結果的」に待機児童問題が解決した裏事情を解説。日本が死ぬのを待っていた張本人を名指しで否定しています。
優先された保育業界の利権。なぜいつの間にか待機児童問題は解消したか
日本では、長い間、「待機児童問題」が社会問題になっていました。待機児童というのは、保育園に入りたくても枠がなくて入れない子供たちのことです。2016年には、保育所の入園選考に落ちた保護者が「日本死ね」とSNSで投稿したことでも話題になりました。
この待機児童問題が、近年、ほぼ解消していることをご存じでしょうか?2017年には2.6万人もいた待機児童が2022年4月の時点で2,944人にまで減少しました。
これについてメディアでは、「受け入れ施設が充実したことが要因」などと述べています。が、実は、この待機児童の現象には、とんでもない理由があるのです。今回から2回に分けて、この問題を追及してみたいと思います。
待機児童問題が解消しつつあるのは、メディアが言うような「受け入れ施設が充実したから」などではありません。もっと単純な理由であり、誰もが簡単に確認できる数理的な理由からです。ざっくり言えば、単に「子供の数が減ったから」なのです。
日本の出生数は、90年代までは120万人を維持していましたが、2000年に120万人を切りました。さらに2010年代には減少が加速し、2010年は110万人、2017年には100万人を切って97万人となったのです。待機児童が問題になった2000年代以降、急激に出生数が減少していたのです。この20年で20%以上減少したわけです。子供の数が20%も減少したのだから、待機児童問題も解消するはずです。別に政治のおかげでも何でもないのです。
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「保育所を作るな」厚労省が全国の自治体に発した通知
この「待機児童問題解消」の経緯には、恐ろしい政治的意図が隠されているのです。というのも、ざっくり言えば、政府は出生数の減少を見越して「わざと待機児童問題を解決させなかった」のです。
現在、日本は深刻な少子高齢化問題を抱えており、これはあらゆる手を使ってでも改善させなければならないはずです。待機児童問題は、その少子高齢化の要因の一つなのに、政治家たちはそれをわざと解決しなかったのです。つまり政治は、出生数の減少を食い止めるどころか後押しをしたのです。
これには、実は保育所の利権が絡んでいます。保育所というのは、その設置数が、自治体によって調整されています。児童不足で保育所が経営難に陥らないように、自治体の方が気を配っているのです。それは、厚生労働省からの指示によるものです。
信じがたいことに厚生労働省は、2000年代初頭に自治体に対し「需要以上に保育所をつくらないように」という通知を出しているのです。「児童が不足して保育所がつぶれるのはまずい」そして、そのためには「保育所が不足して待機児童が増えるのは構わない」ということなのです。
この通知は非公開でも何でもなく、一般の人にも知れるものです。その通知というのは、2000(平成12)年3月30日に厚生労働省から全国の自治体に発せられた「保育所の設置認可について」という通知です。この「保育所の設置認可について」の第1条「保育設置認可の指針」の冒頭には、次のような記述があります。
一 地域の状況の把握
都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、保育所入所待機児童数をはじめとして、人口数、就学前児童数、就業構造等に係る数量的、地域的な現状及び動向、並びに延長保育等多様な保育サービスに対する需要などに係る地域の現状及び方向の分析を行うとともに、将来の保育需要の推計を行うこと。
これをざっくり言うと、児童の数を把握し、保育所の需要を調べること、という意味です。つまりは、各保育所が児童数が足りなくなるような認可はしてはならないということです。これは、実はとんでもないことです。認可権のある自治体が、保育所の需給を調整しなくてはならない、つまりは、既存の保育所がある地域には、新規参入が非常にしにくい構造になっているのです。
またこの通知文の中には、「地域の現状及び方向の分析を行う」となっています。これは、「今の現状だけじゃなく、将来の需要も考慮しなさい」という意味です。つまり、これは暗に「将来、子供が減る恐れがある場合には、むやみに保育所をつくるな」と言っているわけです。今の日本では、ほとんどの地域で、このままいけば将来子供が減ります。だから、ほとんどの地域で、保育所の認可はなるべくするな、ということです。この通知こそが、待機児童問題を長い間、解決させなかった最大の要因だといえるのです。
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日本が死んでゆくのを待っていた安倍晋三氏
国は、待機児童を本気でなくす気はなかったのです。たとえば待機児童問題の最盛期の2017年度の予算で、安倍内閣が保育士の待遇改善のために支出した額は、わずか492億円でした。待機児童問題など、2,000億円も出せば簡単に解決したのです。2,000億円も出せば保育所は2,000カ所くらいつくれるので、待機児童問題など簡単に片付いたのです。2017年度予算は全体100兆円近いので、2,000億円はそのわずか0.2%です。そのくらいのお金を出すくらいどうにでもなったはずです。実際に、公共事業費だけで約6兆円が予算計上されているのです。子供を預ける場所がなく、困っている若い夫婦が大勢いる中で、それを助ける前に、道路やダムなどの公共事業に巨額の予算を使っているのです。
今の日本で、少子高齢化がこれほど進んだ日本で、育児支援よりも優先してやらなければならない事など、そうそうなかったはずです。本気で待機児童問題を解決しようと思えば、そのくらいのお金は政府はいつでも出せたのです。
しかし、国は保育業界の既得権益を守るために、この問題を解決させてこなかったのです。待機児童をゼロにするということは、保育所の受け入れ人数と入所希望の児童数が一致するということです。今の児童数に合わせて保育所をつくってしまうと、将来子供が減った時に、保育所が余ってしまいます。それを避けるためには、ある程度の待機児童が出るのは仕方がない、ということだったのです。
安倍首相は、2017年2月の国会答弁で次のように述べています。
2017年度末(2018年3月)に待機児童ゼロは非常に厳しい状況になっているのは事実。
安倍首相は2013年に首相に就任した当初に2017年度末に待機児童ゼロを目指すと述べていました。その約束は反故にされたわけです。「今の待機児童問題は、子供が減ればいずれ解決する。今、急いですることはない」ということです。
しかし、子供が減るということは、日本が衰退するということと同意義です。今の日本の人口動態が続けば、数百年も経てば日本は滅んでしまいます。いや、あと20年も経てば、経済が大勢の老人を背負いきれず、破綻してしまうでしょう。今の日本の人口動態を見れば、どんな経済学者もこれは否定できないはずです。だから、今の日本は、何を差し置いても、子育て環境を整え、子供を増やさなくてはならないはずです。
にもかかわらず、安倍首相は、子供が減るのを待っていたのです。つまり、日本が死んでいくのを待っていたのです。そして、彼らの目論見通り、子供が激減し、保育業界の利権は守れたということです。次回は、保育業界の知られざる利権について掘り下げてみたいと思います。
(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2023年8月16日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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