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ついに公明・創価を見限った自民。元国民民主の議員を「首相補佐官」に抜擢した岸田の本心

連立政権を組みながらも、近年は選挙協力を巡り関係性が悪化するなど微妙な状況にあると言っても過言ではない自公両党。その関係を揺るがしかねない官邸人事がさまざまな憶測を呼んでいます。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、元国民民主党の議員を首相補佐官に抜擢した自民党の思惑を推測。さらに当人事に対する公明党代表の反応を紹介しつつ、自公国の「三角関係」の成り行きに注目しています。

自民が知った労組票を取り込む旨味。元国民民主議員を首相補佐官に抜擢した意図

岸田首相は、かつて電機連合の組織内候補だった元国民民主党参院議員、矢田稚子氏をこのほど首相補佐官に起用した。

それがどうしたと言われそうである。第一、矢田稚子氏という名前を耳にしてピンとくる人は案外、少ないのではないか。しかし、コトは自公連立体制にかかわる可能性があるのだ。

首相補佐官といえば、総理直属で国家の重要政策を担うポスト。安倍・菅政権で辣腕をふるった和泉洋人氏は首相補佐官という地位を威圧的に用いて悪名をはせた。そこに、元参院議員とはいえ、野党の国民民主党所属だった人を充てたのだから、まさに、サプライズ人事というほかない。

矢田補佐官の仕事の中身は、岸田首相が進めようとしている賃上げ政策の担当で、官邸では「賃金・雇用の専門家として、助言をもらいたい」と期待しているそうである。

矢田氏が連合傘下のパナソニックグループ労組の幹部だったゆえに、「賃金・雇用の専門家」というのは早計にすぎるが、官邸と労組間のパイプ役としては、一定の役割を果たせるだろう。

むろん、賃金政策のみが人事の目的であるはずはない。各メディアで言われているように、国民民主党との連立への布石、あるいは労働組合票の取り込み、という面は否定できない。

大企業系の民間労組が、国政選挙で自民党との融和姿勢に転じる動きが、その底流にある。民間労組を支持母体とする国民民主党が岸田政権にすり寄ってきたのも、この変化と無縁ではなく、自民、公明両党の関係を激しく揺さぶっている。詳しく見てみよう。

2021年10月に芳野友子氏が会長に就任した連合は自民党との対立関係を緩め、傘下の民間労組にも大きな変化のうねりが起きはじめていた。全トヨタ労連は50年以上、野党系の推薦候補を国会に送り込んできたが、同年10月31日投票の総選挙では擁立せず、結果として自民党に議席を明け渡した。

エンジンから電動化への変革の波が押し寄せる自動車業界にあって、自民党との協力体制は欠かせないとみる当時の豊田章男社長が、岸田首相の3%賃上げ要請に対し、他社に先駆けて満額回答を示したが、その姿勢に労組が呼応した形だった。

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自民党幹部が見つけた民間労組票という新たな票田

2022年2月22日の衆議院本会議で、国民民主党の玉木雄一郎代表は新年度予算に「賛成」を表明し、岸田政権への協力姿勢を示した。このあたりから、国民民主の連立入りが取りざたされるようになる。

22年7月の参院選では、国民民主党を支援する民間労組が一部選挙区で自民党をバックアップした。当時の自民党選対委員長、遠藤利明氏が以下のように明らかにしている。

「選挙協力」というような明確な協力関係があったわけではない。しかし、遠藤氏は、国民民主を支援する産業別労働組合(産別)の一部が、複数の選挙区で「自民支援ないしは中立という形で動いてくれた」と語った。

 

遠藤氏の念頭にあったのは、電力総連、自動車総連、UAゼンセン、電機連合の4産別だ。自民と連携する理由として「賃上げ問題で自動車、原発政策で電力」などと指摘した。

(8月10日毎日新聞)

参院選公示直前の22年6月上旬、国民民主幹部が4産別の一つの組織内議員を通じ、立憲の現職がいた岩手、新潟、山梨の3選挙区で、自民候補を支援するよう出身労組に働きかけたという。これによって勝利をつかんだ自民党は、労組票を取り込む旨味を実感したことだろう。

この年の1月には、自公間の問題が表面化していた。公明党の石井啓一幹事長が定例会見で、夏の参院選をめぐり選挙協力が難航していることを明かした。自民党の茂木幹事長が兵庫選挙区などで公明党候補の推薦を渋っていたためだ。

その後、それならもう選挙協力はやめだと公明党が強硬姿勢を示したとたん自民党側が折れ、菅義偉前首相が水面下で動いて、合意した経緯がある。

公明党との選挙協力が先行き不透明になりつつあっただけに、自民党幹部は、民間労組票という新たな票田を見つけた思いがしたに違いない。

自民党は長きにわたる公明党との連立で、選挙の足腰が弱くなり、創価学会票なしには勝てなくなってしまった。しかし、近年、創価学会じたいが少子高齢化の進行でじわじわと弱体化しつつある。自民党内には、いつまでも公明党に譲歩していていいのかという強硬論が右派を中心に強くなっている。

22年に続き、23年にも自公の選挙協力をめぐる揉め事が起こり、公明の石井幹事長が「信頼関係は地に堕ちた」と発言、東京の衆院小選挙区で自民党候補を推薦しないと言い出した。自民党内の意識変化を感じ、公明党側が苛立ったとみることもできるだろう。

公明党との交渉に苦労した茂木幹事長は、公明党嫌いで知られる麻生副総裁とはかって国民民主の連立入りを画策し、22年夏ごろから秘密裏に根回しを進めてきたといわれる。労働組合票に手を突っ込むには、国民民主党を味方にするのが近道というわけだ。ちなみに、国民民主党には、連合傘下の自動車総連、UAゼンセン、電力総連、電機連合出身の国会議員7人が所属している。

だが、物事はそう簡単にはいかない。長く選挙で敵対してきた自民党と手を組むことに関して、連合内部の反発が強いからだ。

もともと連合は、大企業系労組(民間産別)を主体とする旧民社党系の「同盟」と、官公労を中心とす旧社会党系の「総評」が合体してできた労組のナショナルセンターだ。近年、大企業系労組が執行部を牛耳り、官公労系の影響力は低下しているとはいえ、連合という組織全体の意見集約を無視し、一部労組が権力側に一気に走るわけにはいかない。どうしてもということになれば、分裂するしかないだろう。

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執拗とも思える自民党の「工作」の真の狙い

先般の内閣改造で玉木氏を入閣させるもくろみは、そんなわけでとん挫した。そこで浮上したのが、矢田氏の補佐官起用だ。矢田氏は2022年7月の参院選で落選、今年7月に次期参院選への不出馬を表明し、電機連合の役職をやめて、パナソニックの正社員として職場復帰したばかりだった。

矢田氏は今年4月の大阪市長選で自民党から出馬の打診を受け、前向きの姿勢を示したといわれる。その情報を得た官邸が、矢田氏を一本釣りしたようだ。

ただ、この執拗とも思える自民党の“工作”の真の狙いが、国民民主との連立にあるのか、民間労組の取り込みにあるのかは、はっきりしない。国民民主党の内部には「わが党から支持労組を引きはがそうとしているのではないか」とか「結局は自民に使い捨てにされるだけ」といった警戒感もあるらしい。

25年参院選比例代表に自民党が矢田氏を擁立し、電機連合を完全に掌中におさめるのではという見方もあり、連合内部でも「連合をぶっ潰そうというのか」と心配する声が上がっている。たしかに、矢田氏の首相補佐官就任は、連合解体の引き金になりかねない。

芳野会長は「政争の具に使われないよう気をつけてもらいたい」と釘を刺しているというが、麻生副総裁と会食するなど自民党への接近が目立つ芳野氏のこと、先刻承知の人事なのではないかと勘繰るむきもある。

一方、政権の一角を占めることへの異常な執着を持つ公明党は、自公関係に割って入ろうとする国民民主党の動きに神経をとがらせている。

山口代表は矢田氏の人事について「総理が任命した意図に従ってどう生かしていくか、総理のやり方を見ていきたい」、国民民主の連立入りに関して「どこからも私たちは聞いたことがない。連合は連立について否定している」と語り、淡々とした態度のなかにも、拒否感をのぞかせている。

おりしも、麻生副総裁が安保3文書をめぐって山口代表ら公明党幹部を「ガン」呼ばわりする発言が飛び出し、自公間の新たな火種となっている。麻生氏が公明党・創価学会を忌み嫌っていることは周知の事実であり、国民民主党を使って、自公関係の見直しに結びつけたい思惑があるのも確かなようだ。

自民党には、麻生氏のように学会票の助けが不要な議員もいるが、それなしには選挙に勝てない議員も数多い。問題は、自民党がそんな状況に甘んじていることだ。特定の宗教団体に集票を依存し、その結果、政策が歪められるというのでは、真の「国民政党」とは言えないだろう。

自公国の“三角関係”が今後、どうなっていくのか。その成り行きしだいで、日本の権力構造が大きく変わるかもしれない。

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image by: 首相官邸

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