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ほくそ笑むプーチン。米国、欧州のウクライナ支援に見えた「変化の兆し」

ロシアに侵攻されたウクライナを支えてきたアメリカ、ヨーロッパに変化が見え始め、アメリカでは、ウクライナ支援の是非が焦点となり予算を巡って議会が紛糾。ヨーロッパでもスロバキアで親ロ派の政党が第1党になるなど、風向きは明らかに変わったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、こうした変化の様子とともに、自信を強くするロシアの動向を伝えます。そして世界の変化を中国が冷静に見守っていることも、中国の変化として捉えています。

米議会の政争の具となった「ウクライナ支援」に、中国が台湾と絡めて報じない理由

アメリカの内政の混乱が世界を駆け巡った1週間だった。アメリカの政府機関が閉鎖される瀬戸際、ジョー・バイデン大統領がつなぎ予算に署名したのは、期限まであとわずか45分というタイミングだった。

だが、米メディアが「異例の1日」と報じた9月30日の攻防はこれで終わりではなかった。共和党保守強硬派の議員から、つなぎ予算の修正案を前進させたケビン・マッカーシー下院議長に対する反発が強まり、解任の動議が提出されたのだ。結果、アメリカの歴史上初となる下院議長の解任という事態に至ったのだった。

マッカーシー議長は今年1月、15回も投票を行いやっと選ばれた人物で、当初から共和党保守強硬派との確執が取りざたされていた。それにしても解任される可能性は当初「低い」と見られていただけに、その衝撃は大きく、米メディアの多くが「歴史的な1日」と報じた。

空席になった議長が決まるのは最短で11日の水曜日。後任にも熱い注目が向けられたのは、今後の予算をめぐり、その影響が世界に及ぶからである。

気が休まらないのは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ではないだろうか。予算をめぐる米議会の紛糾でも、当初からウクライナ支援の是非が焦点だった。共和党保守強硬派からは「アメリカ国民はもうこの戦争を支持できない。ウクライナは米国の51番目の州ではない。米国第一!」(共和党マジョリー・グリーン下院議員)といった意見が公然と議会で述べられた。

これを極端な意見と一蹴できないのは、米テレビCNNが行った調査でも、「ウクライナ支援を『過剰』と考えている米国民が41%に上った」というのだ。ゼレンスキー自身、「アメリカは危険で難しい時期を迎えた」と認めざるを得ない状況だ。

ウクライナ支援を人質にとった米政界の対立。この状況をほくそ笑んで見守っている人物がいるとすれば、その筆頭はまさしくロシアのウラジミール・プーチン大統領だろう。

アメリカで予算をめぐる攻防が激しくなる以前から、ウクライナへの「支援疲れ」(政治の変化を含む)は各地で顕著であった。これまで熱心にウクライナに兵器を提供してきたポーランドは、穀物の輸入をめぐりウクライナと対立し、今後は兵器の支援を行わないと公言。加えてスロバキアでは10月1日に行われた総選挙で、「ウクライナへの軍事支援を中止する」との公約を掲げたロベルト・フィツォ元首相率いる親ロ派の左派ポピュリスト政党「道標・社会民主主義」(SMER-SSD)が第1党となった。

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ヨーロッパでは以前からハンガリーがウクライナ支援には否定的である。こうした環境の変化がプーチン大統領の追い風になったことは間違いない。10月5日にソチで開かれたシンクタンクの年次会議「バルダイ・フォーラム」に登場したプーチンは、「ロシアは世界最大の領土を持つ国。これ以上の領土を持つ必要はない」とロシア・ウクライナ戦争を説明。これは今後の世界秩序をめぐる戦いだと再定義してみせた。

同時に、新世代の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」の試験にロシアが成功したと誇ってみせたのだ。原子力で推進し地球全体が射程に入る巡航ミサイル「ブレベストニク」は、「低空を飛び発見しにくい。射程もほぼ制限がなく飛行軌道も予測不可能な核弾頭ミサイル。アメリカの現状のシステムでは対応できない」(軍事専門家で中国中央テレビコメンテータ─ 杜文龍)というのだ。

プーチンは、「ロシアが核兵器を使うのは核攻撃されたとき、もしくはロシアの存続を脅かされたとき」、とアメリカをけん制することを忘れなかった。ロシアは明らかに自信を強めている。

こうした世界の変化を、これまで西側から「中ロ」と一括りにされてきた中国はどう見ているのだろうか。興味深いことに、極めて静かに見守っているのだ。本来、ウクライナ支援を放り出そうとするアメリカは、台湾問題において「アメリカの後ろ盾」の脆弱性を強調する格好の材料のはずだ。そんな好機が空から降ってきたというのに、中国の権威メディアがそうした論調に大きく傾いていないのだ。

これは昨夏、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した時に見せた激しい反発と対照的だ。当時、中国メディアはバイデン政権への批判を展開すると同時に「いざというとき、本当にアメリカは守ってくれるのか?」と台湾の人々の不安を煽った──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年10月8日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Free Wind 2014/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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