10月13日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令を東京地方裁判所に請求した文科省。旧統一教会側は16日に開いた記者会見で「死刑の求刑だ」とまで言い切り、全面的に争う姿勢をあらわにしましたが、この案件を識者はどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、かつて旧統一教会の信者だったジャーナリストの多田文明さんが、解散命令請求に関する文科大臣の会見等を聞くなかで、自身が驚いたというポイントを3つ挙げ、その理由を詳しく解説。さらに旧統一教会の今後について考察するとともに、信者を監視する必要性を訴えています。
国が調査することの凄さと問題の“理解”の深さ。統一教会元信者が文化庁「解散命令請求」で驚いた3つのこと
文化庁は宗教審議会に旧統一教会への解散命令請求を諮問して了承を得て、東京地方裁判所に申し立てました。
そして、10月13日に受理されました。
5,000点の資料など裁判所に提出されたものが、段ボール20箱にも及ぶという内容で、文化庁が昨年11月に1回目の報告徴収・質問権の行使をしてから、着実に証拠を積み上げていったのかがわかります。
解散命令請求の判断をした経緯など、大臣会見とその後に行われた文化庁の説明にも参加して話を聞くなかで、元信者として驚いたことや思うところなどを挙げます。
1.内部用語が次々に。文化庁の旧統一教会問題への理解の深さ
まず会見で感じたのは、文化庁の旧統一教会問題への理解の深さです。「旧統一教会への解散命令請求 被害者の声だけは絶対に消すことはできない 元信者として重要だと思うこと(ヤフーニュース個人)」にも書きましたが、説明のなかで驚いたのは、旧統一教会の内部用語が次々に飛び出してくることでした。
「万物復帰」はもちろんのこと、伝道や物品販売などで旧統一教会がよく使う「タワー長」といった用語がありました。
タワー長とは、勧誘現場の中心的な人物のことです。
宝石店などの物品販売会場に、誰かを連れこんだ時には、勧誘してきた信者は必ずタワー長に報告・連絡・相談をして、指示を仰がなくてはなりません。
そしてアドバイザー(伝道で霊能師・占い師)と言われる人が、連れ込んだ信者とともに、タワー長の指示を受けながら、契約にまで持って行きます。
この組織的な勧誘手法により、かなりの高い確率で展示会に連れ込んだ人たちに商品の購入をさせることができました。
これは、教団内ではマニュアル化されて、信者らは同じように行うわけですが、
当時(信者時代)のことを思い出しながら、今、問題になっている闇バイトの構図も似たようなものだと、改めて感じました。
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
2.40年以上前から「闇バイト」の手法を駆使していた旧統一教会
闇バイトにも通じる、マニュアルを使い、組織の指示を受けて末端に行動させる手法
闇バイトで募集された人たちは、犯罪組織の指示役の指示を受けて行動します。
実際に、その指示通りに動けば、犯罪の未経験者たちが、プロ並みの詐欺や強盗ができてしまうようになっています。
実は、展示会に動員してくる信者は、まだ勧誘されたばかりの信者も多くいます。
そうした人たちに経験豊富なタワー長が指示することで、プロ並みの勧誘者となって連れ込んだ人に物を買わせることができるのです。
つまり、今問題になっている闇バイトから犯罪の手足として行動させる組織的の手法は、すでに1980年代から、霊感商法や宝石などの物品販売、高額献金にて旧統一教会で使われていたわけです。
その手法の構図を文化庁はしっかりと理解しているところに、旧統一教会問題の理解の深さに驚いた次第です。
3.170人を超える被害者等にヒアリングをしたからこそ、わかること
旧統一教会への解散命令請求を、宗教法人審議会に諮問する際、盛山正仁文部科学大臣は「170名を超える被害者等のヒアリングなどを通じて、情報を収集し詳細に内容を検討してまいりました」と話しました。
昨年7月に安倍元首相が銃撃されて以来、何度も言ってきたことに「旧統一教会の問題を理解するには、一人でも多くの多くの被害者の声を聞くこと」があります。
被害者の状況を聞かない状況では、どうしても旧統一教会の表面的な言動に惑わされてしまいます。
まさにその状況が、1980年代から40年間、甚大な被害を生み出されてきたにもかかわらず、この問題が取り上げられてこなかった、理由の一つだと思っています。
未だに、教団の信者を含め、被害に目を向けない方もいますが、国民の多くは被害者の状況を報道などで知り、それによって、「旧統一教会の解散命令」を求める、国民の声が大きくなり、政府を動かしたと考えています。
先ほど、文化庁の「旧統一教会の問題の理解の深さ」を話しましたが、これは何より、170名を超える被害者などのヒアリングをしたことによります。
被害の実情はそれぞれに違いますが、根本にある手法はほぼ同じで、組織的に教団がお金集めなどの実態を把握したのだと思われます。
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
4.「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」にまで言及された解散事由
解散命令の事由として、宗教法人法1項1号には「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」とあり、こちらは甚大な被害状況から当然と思っていました。
しかし驚いたのは、文化庁から同法の第81条1項2号前段の「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」の解散事由にまで言及したことです。
文化庁からの説明でも、決して教義に関して踏み込むものではないとして「客観的に現象面をとらえた場合に、未証勧誘(旧統一教会と告げないままに教化、勧誘を行うこと)や因縁トーク(先祖の因縁による不幸になる)は、客観的に現象面をとらえた場合に、統一教会の財産的利益を優先している」としています。
教団内では「人情より天情を優先させる」ようにいわれますが、その点についても「信者に対して信者の良心等よりも、宗教法人の利益を図ることを優先し、その命令の善悪、法的合成や道徳的観点からの判断を禁止するような指導がみられる」と指摘しています。
つまり、宗教法人格を与えるにはふさわしくない活動してきたということで、解散命令請求の判断するに至ったといえます。
5.韓国本部の反応と旧統一教会の今後
最後に、韓国本部の反応です。
報道によると、韓国本部は、信者たちの社会的信頼を守れなかったことへの「道義的責任を感じる」や日本の社会から信頼を得られるような「新しい教会をともに作る」という声明が出されているということです。
しかし「新しい教会をともに作る」ことは、やめてもらいたいと思います、
そもそもが韓国本部の献金の指示などにより、こうした事態が起きたわけです。どこか他人ごとの声明に聞こえます。
できるなら日本の本部は、韓国本部との関係断絶をして、一緒に教会を作らずに、独自の運営を行わなければ、信頼回復はできないと思います。
ただし、旧統一教会は教祖の命令、指示が、絶対の上位下達のカルト的組織ですので、韓国本部=教祖の指示を聞かないという姿勢を示すこと自体がなかなか難しいと思っています。
今後、裁判所で解散命令の決定が出るとなれば、任意団体となり、信者らは活動していくことになると思います。
しかしこれまでの傾向をみても、様々に分派はできると思います。その中には、文鮮明教祖の教えに戻るといって、以前のような未証勧誘や因縁トークなどを強烈に始める人たちも出てきてもおかしくはありません。
信仰を続ける信者たちの行き過ぎた活動を押さえるためにも、解散命令を見据えての監視の態勢も必要になってくると考えています――(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2023年10月14日号の一部抜粋です。続きは、ご登録の上お楽しみください、初月無料です)
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
最新刊
『信じる者は、ダマされる。
元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』
好評発売中!
image by: Unification Church Hungary, CC0 1.0, via Wikimedia Commons