秦の始皇帝をはじめ、多くの権力者たちが求め続けてきた不老長寿の霊薬。そんな薬の研究開発が今、アメリカで盛んになされていることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、アマゾンの創業者ら富裕層がこぞって投資する米国の老化研究の現状を紹介。その上で、かような取り組みの是非について自身が思うところを記しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
何歳まで生きたいですか?米で関心が高まる不老長寿研究
今回は近年、アメリカで関心が高まっている不老長寿研究を取り上げます。
日本は世界で最も早く「超高齢社会」に突入しましたが、米国でも高齢化率は急速に高まっていて、2035年までに65歳以上の年齢層が初めて未成年者(18歳未満)を上回ると予測されています。
日本の総人口の約0.06%が100歳以上とされていますが、米国では0.03%。日本の100歳以上の人数は、9万2,139人。米国は9万7,914人。日本の2.6倍の人口を誇るとはいえ、高齢化対策は急務になっているのです。
そんな中、2021年にNature Aging誌に、老化そのものをターゲットにした薬を用い、老化を遅らせることで、経済に大きなプラスの影響を与える可能性があるとの論文が掲載されました。
つまり、ポイントはただ単に寿命を伸ばすだけではないってこと。認知症などを伴う老化のプロセスそのものを遅らせることで、長く働く人が増え、長く消費する人々も増える。いい薬が見つかれば、経済は回る!100歳過ぎても元気でいられる!もっともっと経済は回る!120歳まで生きられちゃう!バンザイ!!!というのです。
注目を集めているのが、糖尿病の治療薬として1995年に承認されている「メトホルミン」です。メトホルミンに抗老化作用があるとされ、マウスを使った実験では、寿命を延ばすことが確認されています。
また、糖尿病患者=メトホルミンを服用するグループと、糖尿病ではない人=メトホルミンを服用してないグループとの比較では、生存率が向上することが観察研究で確認されています。これはメトホルミンが人間の老化を遅らせる役割を果たしている裏付けになるそうです。
たった一回の、しかも観察実験で?との疑念もありますが、歳をとっても老いないという摩訶不思議が近い将来実現するかも…しれません。
もちろん薬を用いるわけですから、本当に効果があるかどうかは臨床実験を繰り返し行うことが不可欠です。それでも不老長寿を願う人は多く、金のある富裕層ほど「早く薬を!」とスタートアップ企業に投資しているとかで、「長生きする金持ちが増える!」との懸念も出てきているとか。…アメリカっぽいですよね。
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グーグルは2013年、老化研究に特化したベンチャー「カリコ」を設立。トップには、アップルの取締役会長で、バイオベンチャーの草分け、米ジェネンテックを長く率いたアーサー・レヴィンソン氏が就任。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、加齢とともに体内に蓄積する老化細胞を破壊する医薬品を開発するベンチャー、ユニティ・バイオテクノロジー社に個人で出資しています。
同社は、2023年4月、老化細胞が生存のために依存するタンパク質の機能を阻害するように設計されたUBX1325と呼ばれるものが、糖尿病黄斑浮腫患者の視力改善に効果を示す可能性があるとする臨床試験の結果を発表しています。
そもそも「老いる」のは人間だけ。老いは人間だけに与えられた特権です。
東大の小林武彦教授によると、進化の課程でその方が集団として有利だったと。若い世代を支えるためには老人が必要だったのです。
その特権を医学技術の進歩でどんどん伸ばし、さらには老いのプロセス自体を遅らせようとしてるのですから、これは生物としてのヒトではなく、人間の願いであり、資本主義社会における金のある人間だけに許される果てしなき欲望です。
だいたいその特権を本当に生かしてるのかも…はなはだ疑問です。
金を長生きに使うことは結構なことですが、その欲望熱を若者のためになることに注いだ方がいいのでは?と思うのは私だけでしょうか。
庶民のたわごとですね。
みなさまのご意見、お聞かせください。
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