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崖っぷちの木原誠二。妻の元夫「怪死事件」告訴状を警察が受理の新展開

政治的圧力の存在が囁かれる、自民党幹事長代理・木原誠二夫人の元夫怪死事件の捜査打ち切り。しかしここに来て元夫の遺族が提出した告訴状を警視庁が受理、事件は新たな展開を迎えることになりました。警察庁長官が7月の会見で「事件性はない」とまで言い切ったにも関わらず、なぜ警察は告訴状を受理したのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、警察が「受理せざるを得なかった」裏事情を詳説。さらにこの件が岸田政権に及ぼしかねない影響を考察しています。

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木原誠二事件に新展開。妻の元夫遺族が提出した告訴状を警察が受理

自民党幹事長代理、木原誠二氏の妻の元夫、安田種雄さんが2006年に怪死した事件は、警察が殺人事件として重要参考人宅を捜索しながら、捜査が立ち消えになった不透明な経緯から、背後で政治的圧力があったのではないかと疑われている。

警察庁の露木康浩長官が「事件性はない」と明言し、警視庁も自殺という見方を安田さんの遺族に伝えたが、それに納得できない遺族は10月18日、警視庁大塚署に告訴状を提出した。

警察組織トップの発言は重く、大塚署が受理するかどうか危ぶまれたが、25日になって遺族が同署に呼び出され、受理されたことを確認した。

2018年に事件を再捜査したさい、木原氏の妻、X子さんの取り調べを行った元警視庁刑事、佐藤誠氏が「あれは事件だ。自殺だと言える証拠はない」と断言するように、殺人事件である蓋然性は高い。もし告訴状が受理されないなら、法治国家の根幹が問われるところだった。

告訴人は安田種雄さんの父母と姉2人の4人。告訴趣旨は「被疑者不詳の殺人」。以下は、告訴状の文面の一部である。

告訴人らには、時的限界なく犯人検挙のための捜査を求めることが許されなければならないし、かかる告訴人らの行為を阻害することが許されるのであれば、我が国の刑事司法は最早死んだも同然である。

 

告訴人らは、我が国の警察は世界有数の能力と良心を持ち合わせていると信じている。(10月19日文春オンライン)

当然のことながら、大塚署は警視庁にお伺いを立て、警視庁と警察庁の幹部間で対応について話し合われた結果、受理することが決まったということだろう。

警察にとっては難題だった。受理したら、再捜査が必要だ。その結果、自殺ではなく他殺であることが判明した場合、露木長官の「事件性はない」発言は何だったのかという批判が起こるにちがいない。重要参考人宅の捜索までしながら捜査を打ち切った警察に対する不信がますます高まる。そして、なぜ中途で捜査をやめたのか、そこに政界からの働きかけがなかったのかと、激しい追及がメディアや国会ではじまるだろう。

警察はできることなら告訴状を受理したくなかったにちがいない。だが、受理しないのなら、その正当な理由が必要である。検察OBの若狭勝弁護士は自身のネット動画番組で、こう言う。

「遺族には“告訴権”といえるものがある。国会議員が告訴する場合には1枚のペラペラの新聞記事だけでも受理することがある。遺族の告訴状を受理しないというのを、決して許してはいけない。警察が受理するかどうかが法治国家を維持するための大切なバロメーターとなる」

2006年4月10日未明に発覚したこの事件。木原氏の妻、X子さんの元夫、安田種雄さんが自宅で血まみれになって亡くなっていた。喉から肺にかけて深い刺し傷があり、柄に血の汚れがないナイフが足元にきちんと置かれているなど、自殺としては不可解な点があった。

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「明日で全て終わりだ」の一言で打ち切られた再捜査

しかし事件直後に、警察は安田さんの遺族に「自殺」という見立ての説明をしていた。

父はこう悔しがる。「種雄が死んだ翌日の4月10日、事件現場から大塚署へ遺体が運ばれて、翌日には司法解剖を行うと説明がありました。ところが司法解剖が行われる前の10日の夕方にも説明があり、『事件性がない』と担当の刑事に言われました。それが今でも忘れられません」(文春オンライン)

ネット動画番組で発信を続けている検察OBの村上康聡弁護士は、司法解剖より先に警察が自殺と決めつけている点に着目する。自殺と断定できるのであれば、警察はその証拠をつけて検察庁に「送致」すればよい。それでこの件は終わりだ。

しかし、それをしなかったのはなぜなのか。おそらく、警察側は何らかの理由で自殺として処理したかったが、司法解剖による鑑定では自殺と断定できる所見はなかった、あるいは他殺の疑いが濃いという見方が出たのではないだろうか。

このため、警察は送致できず、未解決事件となって宙に浮いた。局面が変わったのは2018年のことだ。大塚署の女性刑事が疑問点に気づいたのがきっかけで再捜査がはじまった。X子さんが自民党の有力な衆院議員である木原氏と再婚していたため、エース級ぞろいの殺人犯捜査第一係が投入される大がかりな捜査となり、事件当夜、現場にいたと見られるX子さんや、その父親の自宅がそれぞれ捜索され、X子さんへの事情聴取が続けられた。ところが、警察は安田さんの遺族に理由も告げないまま、突然、捜査を打ち切った。

X子さんの取り調べにあたっていた佐藤氏も、上司である佐和田立雄管理官(当時)から、「明日で全て終わりだ」と聞いただけだったという。

再捜査が打ち切られたあとも、この一件が検察に送致されることはなく、現在に至っている。露木長官が「事件性はない」と明確に言い切ったのだから、その証拠をそろえて地検に送致するべきなのだが、おそらくは先述した通り、司法解剖の鑑定との食い違いがあるため、できないのであろう。

そこに「警察の苦悩がにじんでいる」と村上弁護士は指摘し、次のように言う。

「あそこで長官が事件性がないと言わずに、被疑者不詳とか、所在不明とか、あるいは捜査中ですといえば、そんなに大ごとにならなかった。長官が終了のコメントを出したため、その理由が見つからずに困っているのでは」

2006年の事件当初、大塚署が捜査に及び腰だった理由は不明だ。X子さんの父が、警視庁の警部だったことと関係があるのかどうかもわからない。だが、解剖の鑑定も待たずに「自殺」で処理しようとしたその初期対応が今も尾を引いているのは確かだ。

事件に決着がつけられず、宙ぶらりんになっていたところに、今年の夏から週刊文春の“木原事件”キャンペーンがスタートした。内閣官房副長官をつとめていた木原氏は岸田首相が頼りにする最側近だ。木原氏は文春の記事を「事実無根」としており、官邸は政権を守るためにも、その主張を支える必要があった。

7月13日の露木警察庁長官の発言は、そういう背景から生まれたものだろう。週刊文春の報道によると、発言の後、露木長官は「火消しをしろ」と警視庁の重松弘教刑事部長に命じたが、その露木氏に「どうにかしてやれよ」と働きかけたのが、木原氏と同じ内閣官房副長官をつとめる栗生俊一氏だった。

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警察が見つけられなかった「受理しない」正当な理由

7月26日夜、重松部長と刑事部のナンバー2である井ノ口徹参事官、國府田剛捜査一課長が鳩首密議をしたのも、「自殺」とする根拠をひねり出すためのものだった。その結果をもとに8月9日、警視庁捜査一課のW警部が、再捜査を求める安田さんの遺族にこう説明している。

「捜査の結果、部屋の状況やご遺体の状況から、争ったような跡は認められなかったんですね。自殺と考えて矛盾はありません」(文春オンライン)

しかし、繰り返しになるが、地検への「送致」手続きがなされていない以上、法的には捜査が終了したことにはなっていない。刑事訴訟法第246条に、こう定められている。

司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

微罪処分として、送致せずに処理することはあるが、強制捜査(捜索・差押え、逮捕など)をした事件については、それはできない。安田種雄さんの事件は家宅捜索を行っているので、送致を必要とする。

今回、警察が告訴状を受理した背景としては、受理しないという正当な理由が見つからないことが第一にあげられる。「事件性がない」という露木長官の発言には何の根拠もない。その証拠に検察への「送致」すらできていない。捜査を途中でやめたことへの現場の捜査員の不満もある。

文春の続けざまの報道とネットでの拡散により、警察への不信感が世間に広がっている。もし警察が受理しない場合、検察に告訴状が持ち込まれることもありうるだろう。そうなると警察の一存では決められなくなる。検察には、厳然として安田さん不審死の事件番号がついた解剖鑑定書が存在しているのだ。

つまり、受理しても困るが、受理しなくても厄介なことになる。それならいっそのこと受理し、正当なやり方に立ち戻るしか方法はない、と考えたのではないか。

官邸のほうも動きがとれないだろう。なにしろ、警視庁刑事部長室での密談が週刊文春に漏れるほど、警察内部には公平性を欠く捜査への不満が渦巻いている。今となってはヘタに手出しができないはずだ。

遺族側の動きをよそに、幹事長代理となってからも木原誠二氏は精力的に岸田首相の参謀役をこなしている。朝一番に首相公邸や官邸を訪れたり、休日に公邸で岸田首相と打ち合わせたりしている。むろん、平静を装いながらも安田さんの遺族の動きは気になっていることだろう。

告訴状の提出と受理についてはテレビ東京が報道したが、今後、警察が捜査にとりかかれば、他の大手メディアも無視できなくなるにちがいない。岸田首相は木原氏を官房副長官から外したものの、幹事長代理として側近に置き続け、政権炎上の火種を残してしまった。リベラル層はもちろん、いわゆる岩盤保守層からも評判の悪い岸田政権。木原氏の心の動揺が、ただでさえ方向の定まらない政策に反映していかなければいいのだが…。

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image by: 木原誠二 - Home | Facebook

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