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ホンマでっか池田教授がジープで谷から転落した時に考えていたこと

不慮の事故に遭遇し「死ぬかもしれない」と思ったときに、人は何を思うのでしょうか。「死にたくない!」という気持ちよりも、やり残したことが思い浮かんで後悔したと語るのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、30代の終わり頃、ジープごと谷に転落し一命をとりとめた体験を述懐。76歳になったいまは、ミニトマトはよくできても大玉トマトはなかなかできず諦めた庭仕事をしながら、突然命の危険にさらされる熱中症の予防には気を使っていると伝えています。

熱中症を心配しながら庭でミニトマトを作る

定年になってから、家庭菜園で様々な野菜を栽培し始めて、いろいろ勉強になったけれども、76歳なので勉強した成果が将来に役立つかどうかは定かではない。そうだ、来年はこうしよう、と思っても来年生きているかどうか分からない歳になってしまった。

若者と老人の違いは、若者は客観的には自分の余命は有限だと思っていても、主観的には余命はまだ無限だと思っており、老人は客観的にも主観的にも、自分の余命は有限だと思っていることである。私も70歳くらいまでは若者だったけれど、今や立派な老人である。

しかし、客観や主観がどうあろうと、実のところ人はいつ死ぬか分からない。主観的には無限に生きると思っていた若者が事故でいきなり死ぬこともあるし、呆け老人で、あと数年の命と思われていた老人が、呆けながら20年くらい生きることもある。私は30代の終わりの頃、虫採りに行ってジープごと谷に落ちたことがあった。落ちながら思ったことは、「まずいこれは死ぬかもしれない。構造主義生物学の本を書いておけばよかった」ということだけだった。

当時私は、柴谷篤弘先生と共に、構造主義生物学という新しいパラダイムを掲げて、その最初の本格的なマニュフェストを書くと公言していたので、本を書く前に死ぬのは勘弁してもらいたいと思ったのだ。落ちながら、死ぬだろうな、とは思ったけれど、不思議なことに死ぬこと自体は怖くなかった。本を書かなかったことの後悔の方が大きく、死ぬというところまで頭が回らなかったのだ。全身打撲で、1カ月ほど寝ていたが、命が助かって初めて死ぬのが怖くなり、死なないでよかったとしみじみ思った。

それでも助かってしまえば、その後の余命は主観的には無限だという状態に戻ってしまったが、いつ死ぬか分からないから「構造主義生物学」の本だけは書かねばならない、という気持ちになり、この年の夏に、ねじり鉢巻きで本を1冊書き上げた。私の最初の理論書『構造主義生物学とは何か』である。

畑仕事は車の運転ほど危なくないので、事故で死ぬ確率は少ないと思うけれど、石に躓いて転んで、別の大きな石に頭をぶつけて死ぬ可能性はゼロではない。今年の夏はことのほか暑く、夢中で畑仕事をすると熱中症になる確率は相当大きかったに違いない。若者は運動能力も体温調節能力も優れているので、躓くことも熱中症になることも滅多にないだろうが、老人はやばいのである。

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それで、30分も庭に出ていると女房が心配して水を持ってきてくれる。喉は別に乾いてないが、せっかくだからコップ一杯の水を飲んで、また畑仕事をする。喉は乾いてないから、まだ水はいらないと言っていると、いきなり熱中症になってしまうのが老人なのである。

私が最初に熱中症になった時も、喉も乾いてなく水も飲みたいとは思っていなかったが、妙に汗が出て暑いなと思って、鏡を見たら顔が真っ赤になって火照っていたのだ。女房に「顔が熱いんだけど」と見せた途端、「あなた、それ熱中症ですよ」と言われて、アイスノンで頭や脇の下を冷やしたが、夜中まで体温は下がらなかった。それで用心して喉が渇いてなくても水は定期的に飲むようにしているので、それ以来、熱中症になりかけたことはあるけれど、熱中症になったことはない。

さて今年の家庭菜園だが、ミニトマトとパプリカとピーマンとトウガラシだけを作ってあとは作らなかった。何年かやってみて、キュウリ、ナス、キヌサヤ、オクラ、ゴーヤを作るのは下手で、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、ニンジン、ダイコンといった根菜は土が悪くて、難しいということが分かったのである。

トマトもミニトマトはよくできるけれど、大玉トマトは上手くいったことがないので、もう挑戦しないことにした。上手に野菜を作っている近所の人に聞いても、大玉トマトは難しいということなので、素人には無理そうだ。

私が山梨大学に赴任したばかりの頃の学生諸君は、定年の年になって、野菜造りを始めた人もちらほらいて、そのうちの一人は見事なシャインマスカットを作って、私に送ってくれた。山梨は気候がブドウ栽培に向いていることもあるが、玄人のブドウ農家が作ったかと見まがうような見事な出来だ。もう一人は浜松に住んでいて、8月に下部温泉で飲み会を開いた時に、大きなスイカを持ってきた。自宅の庭で作ったのだという。甘くておいしいスイカだった。3個しかできなかったと言っていたが、3個もできれば上出来である。スーパーで1個3000円くらいしそうだ。

スイカは未熟な時にカラスに見つかると食べられてしまうそうで、さらに動かしてはダメだというので、作るのは大変そうだ。かつて将棋の米長邦雄が結構広い自宅の庭を全部スイカ畑にしてスイカを作ったが、1個しかできなかったと書いていたが、あまりコストパフォーマンスがよさそうな作物ではないようだ。数年前に、隣家でスイカを作るといって、スイカのつるが庭いっぱいに広がっていたが、上手くできなかったみたい──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年10月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:romeovip_md/Shutterstock.com

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