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最前線で命を救おうと闘う医師たちが呆れた「韓国政府の勘違い対策」

医師不足が深刻となっている韓国で働く必須医療分野の医師たちは今なにを思っているのでしょうか。今回、無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、最前線で命を救うために日々たたかっている「バイタル医師」と呼ばれる医師のインタビューを紹介しています。

生死が寸刻にかかっている患者を救う「バイタル(生命)医師」の死闘

生死が寸刻にかかっている患者を救う医師を「バイタル(生命)医師」という。必須医療分野の医師たちだ。「命を救う」という使命感と自負心で徹夜しながら患者を診るバイタル医師を今回はご紹介したい。

ソウル国立中央医療院外傷センターにはトラックに轢かれたり、工事現場で墜落するなどの事故で四肢や骨、臓器に複合的な損傷を受けた患者が毎日運ばれる。臓器の一部がお腹の外に出た状態だったり、手足が切断された患者もいる。事故後1時間(ゴールデンアワー)以内に治療できなければ、命が危ない。

金ヨンファン外傷センター長(47)は、このような患者を助けるための死闘現場を指揮する。キムセンター長は「血を流しながら入ってきた患者が、うちのチームの治療を受けて日々良くなる姿を見るときとか、頭からつま先まで怪我をして数か月間横になっていた患者が車椅子に座る瞬間を見るときとか、この仕事(重症外傷)を選んで本当に良かったと思う」と話す。彼は「現在、重症外傷分野は数人未満の医療スタッフがかろうじて支える構造」と話した。

外傷センターにはどんな患者が来るのか。

「交通事故や墜落事故で頭からつま先まで全部怪我をした『多発性重症外傷患者』が多い。手足や骨盤、肋骨、脊椎骨が折れ、気胸(肺に穴)や血胸(肺に血液が溜まる)などの臓器損傷まで伴う場合がほとんどだ。外傷は誰にでも起こり得る。だが、生業のために夜に運転するトラック運転手や配達運転手、工事現場の日雇い労働者、建物から飛び降りて人生を終えようとする疎外階層など社会的弱者が特に外傷に脆弱だ。事故予防が最善だろうが、発生した時の外傷センターは「最後の安全網」だ

外傷センターと救急室の違いは。

「夜中に子供が急にお腹が痛いと言ってゴロゴロ転んだら救急室に行けばいい。交通事故に遭ったが、車の破片が飛び、腹部に出血がある場合は外傷センターに運ばれてくる」

外傷センター勤務を決心したきっかけは。

「外科レジデントを終えて詳細専門医課程を悩んでいた時、教授が重篤な患者を治療する姿を見た。素敵だった。集中治療医学専門医課程を踏み始め、外科専門医として集中治療医学を勉強しているうちに重症外傷にも関心が生じた。その頃、国内各地に外傷センターが設立され、外傷分野は私が進むべき道だという気がした」

外傷センターの魅力は。

「死の敷居を越える直前の患者を助けることのやりがいは大きい。生と死を行き来していた患者が数か月間病床に横たわっていただけで、初めて車椅子に乗る時、そしてリハビリを経て初めて歩く時は感激する」

記憶に残る患者がいるか。

「今夏、結婚を控えて交通事故に遭い、脳死判定を受けた女性を思い出す。夢が多かった彼女をあまりにも早い年齢で行かせなければならない家族の悲しみはことばに尽くせるものではない。娘と別れの挨拶ができるように小さな臨終室を用意してあげた。すると、家族が心のこもった感謝の挨拶をしにきた。本当に心が痛んだ。医師がすべての患者を助けることはできなくても、患者と保護者の状況に共感し、常に『慰め』は与えられると信じている」

外傷センターの一日は。

「午前に出勤して回診し、入院患者の状態を確認する。入院患者に何かあったらすぐ駆けつける。同時に、いつ来るか分からない重症外傷患者のために待機する。そうするうちに119救急隊から連絡が来ると、外科だけでなく神経外科・整形外科・胸部外科専門医が『外傷蘇生区域』に駆けつけて患者を待つ。患者が来たら気道を確保し、首に添え木を固定し、出血を抑える処置を一糸乱れぬ手際で
行う。応急手術もすぐに行う」

外傷センターが1日に見る患者数は。

「救急車に運ばれてくる重症外傷患者は1日2~6人程度だ。入院治療患者は約60人だ」

患者1人のために複数の専門医が付くのか。

「そうだ。外傷はチームワークだ。頭からつま先まで怪我をした患者は、医師1人の力では生かすことができない。チーム員たちが疎通して協力するのが核心だ。国立中央医療院外傷センターは外科専門医4人(キムセンター長を含む)、神経外科・整形外科・胸部外科専門医各1人など専担専門医が計7人いる」

一番大変な点は何か。

「人手不足だ。外科はとっくに忌避科になったが、外傷はその中でも特に人気がない。皮膚美容などに比べてお金をたくさん稼ぐわけでもないのに、当直は多く、訴訟の危険負担まであるので理解できないわけではない」

政府が医学部増員カードを出したが……。

「医大定員を増員したからといって特定科に行けと強制することはできないのではないか。どうせ外傷に使命感を感じない人たちは長く持ちこたえることができない」

外傷学に関心のある後輩たちに言いたいことは。

「外傷センターは死の入り口まで行った患者が来るところだ。彼らを生かして日々良くなる姿をリアルタイムで見守る過程は、医師として大きな動機付けだ。外傷患者を治療するのに楽しさを感じるなら、外傷センターに来ることを迷わないことを願う。朝起きて自分がやりたいことをするために家を出る。これ自体が素晴らしいことであり成功ではないのか」

国立中央医療院は去る7月、保健福祉部が提示した要件を満たし、「ソウル圏域外傷センター」となった。これにより、報酬などに対して福祉部の支援を追加で受けることになる。キムセンター長は「地域唯一の圏域外傷センターとしてソウル市外傷患者のためにきちんと作動する外傷センターシステムを定着させなければならないという使命感がある」と述べた。

ソウル圏域外傷センターとして開所するのに困難が多かったと聞いた。

「国立中央医療院は2013年から外傷センターを育てるために努力したが、人材とお金の問題で何度も挫折した。私が2017年から国立中央医療院外傷センターで勤務を始めたが、その時一緒に働いていた専門医5人が2018年に集団辞職届を出した。専門医が1人しかいないため、外傷センターは閉鎖された。2019年3月から1年間、再び外傷チームを構成して運営したが、新型コロナウイルス感染症で再び困難を経験した。その後、福祉部とソウル市の支援を受け、2020年末から徐々に人材を集めリモデリングを経た後、ソウル圏域外傷センターとしてオープンすることができた。」

重症外傷分野でもソウルと地方の医療格差があるのか。

「ソウルだからといって状況が良くなるわけではない。ソウルの予防可能死亡率(適切な治療を受けていれば生存できた患者の割合)は2019年基準で20%程度で、全国で最も高い。全国平均は15%程度だ。ソウルの「『ビッグ5』病院など大型病院はすでに癌患者などで飽和状態であり、応急外傷患者を受ける人材もスペースもない。医療従事者の待機費用と他の疾患を治療して得られる収益を考えれば、まだ外傷センターが病院執行部の歓迎を受けることは難しい。公共病院として国立中央医療院の役割が重要な理由だ」

作りたい外傷センターの青写真は。

「ソウル圏域外傷センターを越えて最高の『災難専門病院』を作りたい。ビル火災で火傷を負って墜落した患者が発生した場合、現在ソウルではこの患者がどこに行けばいいのか明確な体系がない。これを悩んでいる間、患者は死ぬ。外傷・やけど・感染症などどんな応急患者が来ても患者を収容して最終治療できる病院が必要だ。公共病院である国立中央医療院がその役割を果たさなければならないと信じている」

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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