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武家の世を作り出した2人の美女。歴史作家が解説する平安“性”絵巻

NHK大河ドラマ『光る君へ』の放送スタートで注目を集める平安時代。その末期の宮中や朝廷内には、性に対して奔放だった人物も存在していたようです。今回のメルマガ『歴史時代作家 早見俊の無料メルマガ」』では時代小説の名手として知られる作家の早見俊さんが、そんな「平安性絵巻」とも言うべきあれやこれやを詳しく紹介。当時を記した貴重な資料が800年近くも封印されてきた事情も明らかにしています。

平安「性」絵巻

日本史上初の武家政権を築いた平清盛には白河上皇の御落胤という伝説があります。清盛の母は白河上皇の愛人であった祇園女御で白河上皇が清盛の父忠盛に与えた時には清盛を身籠っていたと噂されていたのです。事の真偽はわかりませんが、清盛が武士として初めて公卿に列し、従一位太政大臣にまで昇り詰めることができたのは上皇の御落胤だからと受け止められていたことは確かなようです。

ところで祇園女御には養女がいました。藤原璋子(しょうし)です。璋子は大納言藤原公実の娘でしたが7歳の時に死別、以後祇園女御の養女として育てられました。璋子は類希なる美貌に恵まれ、養母同様に白河上皇の愛人となりました。

時に白河上皇は還暦過ぎ、璋子は13歳でした。上皇の精力絶倫ぶりに驚くべきか璋子の早熟ぶりに感心すべきでしょうか。ともかく、性に目覚めた璋子は、以後上皇を嫉妬させる程に大勢の男たちと関係を結びます。それでも上皇は璋子の将来を思い、関白藤原忠実の息子忠通に嫁がせようとしました。ところが、璋子の奔放さは朝廷では有名で忠実に拒絶されてしまいました。

困り果てた白河上皇はなんと、孫である鳥羽天皇の中宮にしました。ところが、白河上皇と璋子はその後も肉体関係を続け、璋子は白河上皇の子を身籠ります。後の崇徳天皇です。形式上は長男、しかし血筋からすれば叔父に当たる崇徳天皇を鳥羽上皇は嫌いました。璋子の色香に耽溺しながらも藤原得子(なりこ)を寵愛し、男子をもうけます。そして、白河上皇が崩御すると、崇徳天皇を退け、僅か3歳の男子を天皇に就けました。近衛天皇です。

こうなると面白くない崇徳上皇は鳥羽上皇への復讐の機会を窺います。近衛天皇が崩御したのを好機と捉え、院政を行おうとしました。しかし鳥羽上皇と得子は崇徳上皇の弟を天皇に就け崇徳上皇による院政を阻止しました。この時皇位に就いたのが後白河天皇です。崇徳上皇は激怒し後白河天皇と争い、保元の乱が起きました。御存じ清盛台頭の騒乱ですね。こうしてみると祇園女御、藤原璋子、二人の美妃の色香が騒乱を巻き起こし、武家の世を作り出したと言えるかもしれませんね。

その保元の乱で崇徳上皇に味方した傑物が藤原頼長です。

頼長は左大臣で、「悪左府」と呼ばれていました。この時代の悪は悪いというより、恐れられる程に出来る人物を称していました。

頼長は平安時代末期の朝廷に権勢を振るったものの保元の乱で敗死しました。数え37歳の若さです。頼長は切れ者と評判で妥協を許さない苛烈な人柄、朝廷で大変に恐れられたそうです。

猛烈に出来る男頼長は極めて神経質で几帳面でした。平安時代に限らず、貴族には筆まめな人が多く、数多くの日記を残していますが、頼長の日記は群を抜いて詳細な記録となっています。朝廷の中枢にいた彼は儀式、典礼に精通していたため、日記「台記」は後年の貴族にとって朝廷儀礼の教科書となりました。

それほどに貴重な資料、「台記」ですが長年に亘って封印されていました。公開されたのは戦後ですから800年近い歳月に亘って、ごく一部の人間の目にしか触れてこなかったのです。理由は明確、男色関係及び性描写の凄まじさにあります。頼長は政務や日常の暮らしばかりか、経験した性交も細大漏らさず書き残していたのです。日記によると源氏などの武士が好みであったことがわかります。

頼長に限らず貴族の間で男色は珍しくありませんでしたから源氏、平氏といった武士が台頭した背景には男色があったのかもしれません。

頼長は男色相手との性交の感想まで記しています。「乱暴にされたけど気持ちよかった」とか、「精を漏らしてしまった」などと恥じらいながら書き残しています。逞しい男に強引に男の操を奪われることに快感を得ていたようです。しかも相手は好みの男ばかりか憎い政敵とも交わっていたのでした。

昼間は政敵を容赦なく苛めるS、夜は性敵に手籠めにされるM。悪左府は政治、性事の達人でした。猛々しい男に抱かれて悦びの声を上げるか弱き悪左府、これぞ平安絵巻でしょうか。

image by: Shutterstock.com

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歴史、ミステリー四方山話、思いつくまま日本史、世界史、国内、海外のミステリーを語ります。また、自作の裏話なども披露致します。

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【著者】 早見俊 【発行周期】 週刊

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