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4名の自殺者も。富士通の「システム欠陥」が招いた英国史上“最大の冤罪事件”

イギリスのテレビ局が年明けに放送したドラマをきっかけに、再び注目を集めることとなった英国郵便局スキャンダル。富士通の郵便事業者会計システムの欠陥により発生し、4名の自殺者まで出した「イギリス史上最大の冤罪」とはいったいどのような事件だったのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、同事件を詳しく解説。さらに英紙ガーディアンが指摘した「冤罪事件を招いた仕組み」についても紹介しています。

イギリス史上最大の冤罪事件。富士通のシステム欠陥が招いた郵便局スキャンダル

富士通の会計システムに端を発した、イギリスの郵便事業者における大規模な冤罪事件が、英国民の注目を再び集めている。

事件においては、過去10年以上の間で、700人を超える郵便事業者が横領罪などで起訴され、弁済の要求の果てに破産したり、自殺する人まであらわれた。結果、「英国史上最大の冤罪」と呼ばれるまでに社会問題化。

最近になり、イギリスで事件を扱ったテレビドラマが放送され、事件被害者となった郵便事業者の救済の機運が高まるなか、英政府も巨額の賠償リスクを抱えつつ、富士通を追及している。

他方で、システムの不具合を見逃した英国の司法制度の不備も指摘され、問題は複雑化。英政府は、富士通の幹部を議会に召喚した。

イギリスでは、政府が100%出資する郵便会社である「ポストオフィス」の支店が、英全土に1万店以上ある。それらは、郵便窓口業務のほか、小売店の役割も果たし、あるいは、農村部の中心的な存在となっている。

今回、問題となったのは、ポストオフィスが1990年代に導入した富士通の「ホライゾン」という会計システム。

しかし、窓口で実際に集めた現金の額がシステム上の残高より少なったために、99年~2015年にかけて700人超が横領や不正会計の罪で起訴され、少なくとも4人が自殺した(*1)。

導入当初から報告された多くの問題

もっともホライゾンシステムは、富士通ではなく、1996年にイギリスのInternational Computers Limited(ICL)が開発し、2000年頃に導入されもの。

富士通は90年にICL株の80%を12億9,000万ドル(約1,877億円)で取得し、子会社化。98年に完全子会社化し、02年にはICLブランドは廃止される。

そのため、富士通自体が直接責任を問われなくても、英国の子会社が賠償命令を受けた場合、富士通の業績に影響を与える可能性が。また、ICLは多くの英公共部門の情報システムプロジェクトを受注してきた。

英治安判事裁判所の事案管理ソフトウェア「リブラ」や歳入税関庁、労働・年金省の情報システムなどだ。このようにホライゾンシステムだけでなく、英政府系のITシステムには富士通の技術が不可欠だという(*2)。

ホライゾンシステムは99年からポストオフィスに導入されたものの、導入当初から多くの問題が報告。

仕事を始めた最初の週、管理者がずっと隣にいたのにもかかわらず、すでに500ポンドの不足が生じた(中略)「その時は何とも思わなかったけれど、その後も何度も似たようなことが起きた」(*3)

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TVドラマを契機に高まる新法制定を求める声

ホライゾンシステムに関しては、富士通が直接の開発者でないとはいえ、欧米の消費者からの批判が続くおそれがある。

そもそも問題が再び注目されたのは、今年の1月1日から、イギリスのITVで4日間にわたって放送された新作ドラマ『Mr Bates vs the Post Office』の影響がきっかけ。

ドラマの第1話は、イギリスで920万人に視聴され、ITVの過去3年間の新作ドラマの中で最高の視聴者数を記録。ドラマの成功により、同じ事件を取り扱った22年放送のドキュメンタリー番組『Panorama』にも注目が集まる。

結果、ITVは『Panorama』を1月15日から18日にかけて再放送することを決定(*4)。

また、ドラマが契機となり、英社会では、郵便事業者の名誉を回復し、適切な補償を行うための新法制定を求める声が高まる。

一方、村井英樹官房副長官は12日の記者会見で、

「当該企業で対応が行われているところであり、政府としてコメントすることは差し控えたい」(*5)

とし論評を避けた。

有罪判決がでるたび報奨金を受け取っていたポストオフィスの内部調査チーム

一方、英紙デイリー・テレグラフは11日、ポストオフィスの内部調査チームが、有罪判決がでるたびに報奨金を受け取っていたと報道。

この報奨金の制度は「ビジネスの一部」(*6)となっていたといい、冤罪を招いた土壌を作っていた可能性がある。

イギリスでは検察以外に企業が起訴などの刑事手続きを行う仕組みがあり、ポストオフィスが訴追を行った。

公判では、富士通でシステムを設計した担当者の「正常に機能していた」との証言が決めてとなり、有罪判決が積み上がる(*7)。

対して、英紙ガーディアンは企業が刑事訴追する仕組みがこの冤罪事件を招いたとし、司法制度改革の必要性を訴える。

事態が動いたのは19年のこと。民事訴訟の判決でシステムのミスや不具合が認定され、本格的に郵便事業者の名誉回復の道が開けた。

英BBCによると、これまでに93人に有罪が取り消されたとのこと。しかし全面補償を約束されて和解した人は30人にとどまる(*8)。

英政府はこれまでに賠償金として1億3,800万ポンド(約255億円)を拠出。だが、高額の賠償金を税金で賄うことへの疑問もあり、政府内では富士通の責任を問う声も浮上した。

引用・参考文献

(*1)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」西日本新聞 2024年1月14日付朝刊 5項

(*2)「郵便局冤罪スキャンダルを引き起こした富士通英子会社は買収企業」M&A Online 2024年1月13日

(*3)大井真理子「富士通の会計システムが引き起こした英郵便局スキャンダル」BBC NEWS JAPAN 2022年3月7日

(*4)「富士通も関連した英郵便局スキャンダルを描くドラマ『Mr Bates vs the Post Office』、英国で話題騒然!」海外ドラマNAVI 2024年1月16日

(*5)「富士通子会社の欠陥、論評せず 政府」YJIJI.COM 2024年1月12日

(*6)ロンドン=共同「有罪で調査担当に報奨金」西日本新聞 2024年1月14日付朝刊 5項

(*7)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」

(*8)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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