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「目をつぶって運転する」くらい危険。日本のインスリン量の決め方に問題あり

糖尿病患者が血糖コントロールを誤って「重症低血糖」の状態になると、意識を失ったり異常行動を起こすなど非常に危険な状態に陥るそうです。日本ではそうした理由で年間約2万件もの救急搬送事例があるとのこと。なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』で、糖尿病専門医の江部康二先生は、日本には欧米で一般的な「カーボカウント」を指導しない専門医が多くいると説明。「カロリー計算だけでインスリン単位を決定」することの危険性を訴えています。

重症低血糖と糖尿病薬

日本糖尿病学会の推計によると、日本では、重症低血糖が原因と考えられる救急搬送が年間約2万件発生しているとされています。

薬の誤使用が原因かとされていますが、糖質を普通に摂取してSU剤やインスリン注射で、食後高血糖をコントロールすること自体が、現実には極めて困難です。少しでも薬の量が多ければ低血糖を生じ、不足すれば食後高血糖を生じます。

血糖値を直接上昇させるのは糖質だけですから、「摂取する糖質量とSU剤やインスリンの量」がぴったりマッチすれば、理論的には血糖コントロール可能です。それが、カーボカウントという方法ですが、結構難しいですし、日本では、このカーボカウントでさえも一般的ではありません。

従って薬の誤使用だけではなく、医師の指導通りに内服したり、注射していても、低血糖は充分起こりえると思います。まれではありますが、糖尿病の方が運転する自動車が暴走して歩行者を巻き込む事故が起きています。運転者が糖尿病薬を服用しており、薬の効きすぎによる低血糖が疑われるケースもあるようです。

実際、高血糖より低血糖のほうが、急性では危険です。また、低血糖発作を起こすほど総死亡率も上がりますので、長期的にもできるだけ低血糖を起こさないことは重要です。

高血糖は、動脈硬化・がん・糖尿病合併症などのリスクとなりますが、基本的に、期間をかけてのことで慢性病としての問題です。一方、低血糖は急性で、一気に意識不明になったり、脳卒中や心筋梗塞の引き金となることもあります。低血糖発作では、意識がもうろうとなり、車を止めようとする余裕は全くなくなると思われます。

低血糖発作のほとんどは、インスリン注射をしているか、SU剤内服の場合です。時に速効型インスリン分泌促進剤でも低血糖を生じます。内服薬でもインスリン注射でも、薬の量が多いほど、低血糖になりやすいのです。

ですから、糖質を普通に食べて、その分大量のインスリンを打ってというパターンは、「糖質量とインスリン量」のマッチングがよほど良くない限り、低血糖と高血糖の乱高下を生じやすいのです。まして、カーボカウントもせずに、カロリー計算を主にインスリンの単位を決めているのは、「目をつぶって車の運転をする」くらい危険なことなのです。

それなのに、まことに残念ながら、多くの病院、糖尿病専門医が「カロリー計算だけでインスリン単位を決定するという暴挙」を患者さんに指導しているのが日本の現状なのです。

日本の医師や栄養士は、相変わらず「カロリー制限高糖質食」を唯一無二の「糖尿病食」として、推奨しています。欧米では、少なくともインスリン注射をしている糖尿人においては、カーボカウントが普通です。これは、「血糖値を直接上げるのは糖質だけで、蛋白質・脂質は直接上げない」という知識が、医者にも患者にも共有されているから、欧米では当たり前のことなのです。

インスリン注射をしている糖尿人の皆さん、カロリー計算でインスリンの量を決めるのは、全く無意味ですので、せめて欧米並みにカーボカウントをしましょう。これにより、低血糖はかなり防げると思います。

勿論、スーパー糖質制限食導入により、最低限のインスリン量に減量することがベストなのはいうまでもありませんね。高雄病院においては、SU剤はスーパー糖質制限食導入により、ほぼ全例で中止できています。

食直前のインスリンの単位は、糖質摂取時に比べて、1/3以下になります。単純にインスリン注射の単位が少ないほど、低血糖も起こしにくいのです。糖質制限食なら、インスリン注射やSU剤など低血糖を起こす薬物の使用量が激減するので、低血糖予防になります。

なお、注射薬として、GLP1受容体作動薬(トルリシティ、ビクトーザなど)、内服薬として、SGLT2阻害薬、メトホルミン、DPP-4阻害剤、αGI剤、ピオグリタゾンは、作用機序から考えると、基本的に低血糖は生じません。しかし、これらの薬も、SU剤やグリニド系剤、インスリンと併用すれば、低血糖はありえます。

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image by: Shutterstock.com

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(財)高雄病院および(社)日本糖質制限医療推進協会 理事長。内科医。漢方医。京都大学医学部卒、同大胸部疾患研究所等を経て、1978年より医局長として高雄病院勤務。2000年理事長就任。高雄病院での豊富な症例をもとに、糖尿病治療、メタボ対策としての糖質制限食療法の体系を確立。自らも二型糖尿病であるために実践し、薬に頼らない進行防止、合併症予防に成功している。

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【著者】 江部康二 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火・金曜日

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