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『セクシー田中さん』声明合戦は「誠意」か「あざとい作文」か?脚本家「初耳」、編集部「寂しいです」に賛否…日テレだけが知る「誰が嘘をついているのか」

大人気コミック『セクシー田中さん』の作者・芦原妃名子さんの急死によりワイドショー等でも取り上げられ、多くの人が知ることとなった同作ドラマ化の脚本を巡るトラブル

脚本を手掛けた相沢友子氏(52)が昨年12月、自身のインスタグラムに「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」と投稿したことを受け、芦原さんが自身のX(旧ツイッター)とブログで1月26日に経緯を説明。ドラマ化に当たり、「必ず漫画に忠実に描き忠実でない場合は芦原さんが加筆修正する」「完結していない原作漫画の今後に影響を及ぼさないようドラマ終盤のあらすじやセリフは芦原さんが用意する」という2つの条件を制作サイドに提示したもののその約束は守られなかったため、第1話から7話については自ら修正し、9、10話の脚本は自身が担当したと明かしていた。

しかし芦原さんはその2日後に当該ポストをすべて削除し、翌29日に栃木県内で遺体となって発見。自死と見られている。芦原さんは25日に50歳の誕生日を迎えたばかりだった。

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相沢氏と小学館が揃って声明を発表

ドラマ化のトラブルが芦原さんの急死という最悪の結果となったことを受け、2月8日、相沢氏と小学館がそれぞれ声明を発表。相沢氏は「今もなお混乱の中にいます」と、原作が連載されていた『姉系プチコミック』編集部が所属する小学館第一コミック局は読者や同社で執筆中の作家らに向け、「私たちが声を挙げるのが遅かったため、多くのご心配をおかけし申し訳ありませんでした」と綴った。

これに対するネットユーザーの反応さまざまだ。相沢氏に対しては

《心情お察しいたします》

《混乱の種をまいたのはあなたじゃないですか》

小学館には

《編集部としての考えや作家さんに対する思いが伝わってきた》

《たしかに遅いね。何か意見でもすり合わせてたの?》

と、それぞれに賛否の声が上がっている。

しかし後に検証するように、両者の主張には「へだたり」が見られることも確かだ。そして混迷を極める「声明合戦」を通して見えてきたのは、「誰かが大きなウソをついていること」である。

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脚本家の相沢友子氏「私にとっては初めて聞くことばかり…」としてアカウントを削除

「このたびは芦原妃名子先生の訃報を聞き、大きな衝撃を受け、未だ深い悲しみに暮れています。心よりお悔やみ申し上げます」との一文から始まる今回の相沢氏のインスタグラムへの投稿。続けて芦原さんがX及びブログに記したトラブルの経緯説明については、以下のように記している。

「私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました。いったい何が事実なのか、何を信じればいいのか、どうしたらいいのか、動揺しているうちに数日が過ぎ、訃報を受けた時には頭が真っ白になりました」

その後は前述したように自身が混乱の中にいることを綴った上で、昨年12月にインスタグラムにポストした件について、

「もっと慎重になるべきだったと深く後悔、反省しています。もし私が本当のことを知っていたら、という思いがずっと頭から離れません」

と、当時はあくまでトラブルを知る立場になかったとした。さらに

「今後このようなことが繰り返されないよう、切に願います」

と書き最後に再び芦原さんの冥福を祈る言葉を添え、この投稿をもってアカウントを削除する旨を明かした。よって現在は以上のポストの閲覧は不可能だ。

「知らなかった」に寄せられる厳しい声

この相沢氏の声明を読んだネットユーザーの反応には、

《原作者の意向が脚本家に伝わりづらいっていう現状があるなら、この人も被害者の1人なのかもしれない》

といった同情的ものもあったが、多くが以下のような批判的な意見だった。声明の根幹をなす「トラブルについて知らなかった」という記述に対しては、

《原作者から大量の加筆修正が入った時点で何かおかしいなってプロデューサーなりに確認しないか?》

《訃報聞く前に経緯を知ったというなら、その時点で「知りませんでした」ってポストすればよかったのに》

といった、「そんなはずはない」「知ったその場でアクションを起こすべきだった」等の声が続出。確かに芦原さんが説明していた通り、初回から修正が入り続けていた状況に対して相沢氏は「異変」を感じなかったのだろうか。関係各所に確認も取らずに仕事を続けていたとしたら、それはそれで大きな問題である。

さらにインスタに投稿したことを反省する部分については、

《知らなかったというのが本当だったとしても、原作者に対する誹謗中傷めいた内容をインスタに投稿する時点で何か勘違いしてる気がする》

《原作者が口出してくるのに腹が立ってインスタに書きなぐっちゃったんだろうけど、それがいい大人のやることとは思えない》

という指摘が数多くなされている。脚本家という「言葉を扱う職業」である以上、言葉の持つ力は誰よりも知る立場にあると言っても過言ではない相沢氏。さらに人気ドラマのシナリオを手掛けるという、ある意味影響力の大きい人間が「誹謗中傷」とも取れるコメントを誰しもが目にできる場に書き込むことは、不用意にすぎる。「勘違いしている」と受け取られるのも、「大人のやることではない」と感想を持たれるのも、全て自己責任だ。

ネットにはこのような書き込みも。

《「今後このようなことが繰り返されないよう」って、何に対して言ってるのか意味不明》

《この人は何が繰り返されることに怯えてるんだろう。原作に手を入れまくる脚本家が批判されることなのかな》

もっともな疑問である。今回のトラブルで矛先が自身に向いたことを指しているのか、それとも脚本家に原作者の意向が知らされないことか。しかしこれとて、以下で取り上げる小学館サイドの声明を読めば、相沢氏に非があることは明らかだ。

声明全体に対する反応としては、

《謝罪しているようで実は何も謝罪していない文章。こういうところで脚本家の本領発揮ですね》

《去年インスタに投稿したときは原作者って書いてるのに今回は先生。反省の色を出すテクニック?》

相沢氏本人に意図はないかも知れないが、ネットユーザーは全文から匂い立つ「自分は悪くない」という雰囲気への違和感を示しているようだ。

小学館第一コミック局「寂しいです、先生」

一方、『セクシー田中さん』の原作が連載されていた『姉系プチコミック』編集部が所属する小学館第一コミック局(以下 コミック局)も同じく8日、同社公式サイトで、小学館本社とともに声明を発表。本社としてのコメント「今回のような事態となったことは痛恨の極み」「再発防止に努めて参ります」という出版社然としたものであったが、「作家の皆様 読者の皆様 関係者の皆様へ」として綴られたコミック局の文面は全体を通して感情にあふれるものだった。

冒頭に「芦原妃名子先生の訃報に接し、私たち第一コミック局編集者一同は、深い悲しみと共に、強い悔恨の中にいます」と記した後、ドラマの放送前に発売された『セクシー田中さん』単行本第7巻に掲載されている芦原さんのメッセージを紹介。重要箇所なので長くなるがここに引こう。

「『原作の完結前に映像化されることに対してどのように向き合ったのか』について、こう言及されています。

<まだまだ連載半ばの作品なので、賛否両論あると思いますが キャラやあらすじ等、原作から大きく逸れたと私が感じた箇所はしっかり修正させて頂いている>

<物語終盤の原作にはまだないオリジナルの展開や、そこに向かう為の必要なアレンジについては、あらすじからセリフに至るまで全て私が書かせて頂いてます。恐らく8話以降に収録されるはず。>

作者として、ごく当然かつ真っ当なことを綴られる中で、先生は<恐らくめちゃくちゃうざかったと思います…。>とも書いていらっしゃいました」

さらにこのことをもって、

「先の2023年8月31日付の芦原先生のコメントが、ドラマ放送開始日2023年10月22日よりも2か月近く前に書かれ、そしてドラマ放送開始前に7巻が発売されているという時系列からも、ドラマ制作にあたってくださっていたスタッフの皆様にはご意向が伝わっていた状況は事実かと思います」

としている。ここから判明するのは、相沢氏が脚本を担当する立場にありながら「原作」を読んでいなかったという事実だ。社会学者の古市憲寿氏(39)もX(旧Twitter)で次のように指摘している。

コミック局はこの後、同社のマンガ誌の読者や執筆中の作家らに向け

「プチコミック編集部が芦原妃名子先生に寄り添い、共にあったと信じてくださったこと、感謝に堪えません。その優しさに甘えず、これまで以上に漫画家の皆様に安心して作品を作っていただくため、私たちは対策を考え続けます」

と続け、声明の最後をこう締めくくった。

「本メッセージを書くにあたり、『これは誰かを傷つける結果にならないか』『今の私たちの立場で発信してはいけない言葉なのではないか』『私たちの気持ち表明にならぬよう』『感情的にならぬよう』『冷静な文章を……』と皆で熟慮を重ねて参りました。

それでもどうしてもどうしても、私たちにも寂しいと言わせてください。

寂しいです、先生」

「誰かがどこかでウソをついているとか…」

この声明を、業界関係者はどう読んだのか。元女性漫画誌の男性編集者はこのように語る。

「実は私自身も、担当外でしたが編集していた雑誌に執筆してくださっていた作家さんの急死を経験しています。今回の芦原先生のケースとはまったく異なる原因でしたが、喪失感は大きかったですね。ですから小学館コミック局さんのメッセージには心を動かされました。一緒に作品を作っていた方が亡くなったわけですから、感情が出ていても当然かな、と思います」

しかしこうも続ける。

「気になってネットの書き込みもいろいろ見たんですが、あざとさを指摘する人もいましたね。そうか、そういう受け取り方もあるのかと感じさせられました」(同前)

事実、コミック局の声明へのネットの反応は大半が好意的なものだが、元編集者の男性の言う通り「あざとさ」に着目した意見も散見される。ここではそれらの書き込みも含め紹介したい。

《今言えることを精一杯書いてくれていると思えたし、何より泣けた》

《こんなお涙頂戴的な作文に感動してるようじゃ作者も救われないよな》

まさに正反対の受け取り方だ。また、同じ部分に対してもこれだけの乖離もある。

《「寂しいです、先生」というのが素直な気持ちだと思う。すべての田中さんファンが編集部と同じ気持ちを共有できてるよ》

《「私たちにも寂しいと言わせてください」なんて同情を誘う言い回し、そのわりに核心部分には触れないという。あざとい》

この声明は、以下に代表されるように現役の漫画家からも大きな支持を得ている。

このような「支持表明」にも違った意見が上がるのもネットの世界だ。

《作家さんを安心させるのも編集部の仕事だし、実際に漫画家さんも好意的に受け取ってるんだからそれだけでも意味があるんじゃないかと思う》

《身内をかばうのは当たり前。編集者と漫画家の口裏合わせっていう可能性はないのか?》

あらためて男性編集者に聞いた。

「編集部と作家さんの口裏合わせっていうのはさすがにどうかと思いますが、脚本家さんの『知らなかった』に対応するように小学館サイドが『知ってたはず』と、両者が同じ日にコメントを出したのは気になりますね。あまり考えたくありませんが、誰かがどこかでウソをついているとか…」

こうなってくると俄然注目を集めるのが、ドラマを制作・放送した日本テレビの反応だ。

日本テレビに求められるトラブルの説明責任

日本テレビは芦原さんの急死を受け、すぐさまドラマの公式HPに「お悔やみ」を掲載。その中で、「映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」と記している。

セクシー田中さん(日テレ公式ページ)

しかしその後は一言も発することなく沈黙を守り続けたままだ。脚本家と小学館の意見に食い違いが見られる中、「真相」を知るのは日本テレビだけであり、「誰がウソをついているのか」を知るのもまた日本テレビだけである。それでもなお沈黙を貫こうというのだろうか。

1人の尊い命が失われてしまった今回の『セクシー田中さん』を巡るトラブル。未だ説明責任を果たさない日本テレビの罪は重いと言わざるを得ない。

X(旧Twitter)の反応

※本記事内のツイートにつきましては、Twitterのツイート埋め込み機能を利用して掲載させていただいております。

image by : Osugi / Shutterstock.com

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