『セクシー田中さん』作者・芦原妃名子さん急死。赤松健氏の“的外れな投稿”と日テレ側の“他人事感”あふれる「お悔やみ」が大炎上、「良い原作改変」と「原作クラッシャー」の違いとは?

2024.01.30
by kousei_saho
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累計発行部数が100万部を突破し、昨年日本テレビ系列でドラマ化された人気コミック『セクシー田中さん』。その作者である芦原妃名子さんが29日、栃木県内で遺体となって発見された。遺書のようなものも見つかっており、自死と見られる。芦原さんは25日に50歳の誕生日を迎えたばかりだった。

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『セクシー田中さん』は、小学館発行の月刊漫画誌『姉系プチコミック』で17年9月号から連載されている人気作品で、23年10月22日から12月24日まで、女優の木南晴夏(38)の初主演ドラマとして放送されていた。

このドラマを巡る「騒動」が広く知られることとなったのは、脚本を手掛けたA氏による自身のインスタグラムへの投稿。最終回放送日の24日、「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」と綴り、28日には「どうか今後同じことが二度と繰り返されませんように」とポストした。

芦原さんがX(旧ツイッター)で明かした「全貌」

これを受け芦原さんは、自身がドラマ全10話中の9、10話の脚本を担当するに至った経緯を今月26日、X(旧ツイッター)で説明。芦原さんは『セクシー田中さん』のドラマ化に当たり、「必ず漫画に忠実に描き、忠実でない場合は芦原さんが加筆修正する」「完結していない原作漫画の今後に影響を及ぼさないよう、ドラマ終盤のあらすじやセリフは芦原さんが用意する」という2つの条件をドラマ制作サイドに提示し、原作版元の小学館を通し日本テレビに「この条件で本当に良いか」と何度も確認した後に、ドラマ化がスタートしたと明かしていた。

しかし現実は、毎回原作を大きく改変したプロットや脚本が提出され、芦原さんのXによれば「粘りに粘って加筆修正し、やっとの思いでほぼ原作通りの1~7話の脚本の完成にこぎつけ」たというが、8話については修正できず、9、10話については自身が脚本を担当したという。しかし脚本家としては素人であり、漫画の〆切も重なり推敲を重ねることもできなかったこともあり、本人は「力不足が露呈する形となり反省しきりです」と綴っていた。とは言えドラマの評価は、木南の好演もあり決して低いものではなかった。

しかし今年に入ってからの芦原さんの思わぬ「告白」に、ネットは敏感に反応。

《これがテレビ局のやり口か》

《一度ドラマ化OKの言質を取れば原作者の言い分なんて無視するわけね》

《漫画家にとって作品は自分の子供同然なんだからこういうのはひどすぎる》

などといった書き込みがSNS上に溢れた。

ところが28日、芦原さんは当該ポストをすべて削除。こんな言葉を残し急死した。

攻撃したかったわけじゃなくて。

ごめんなさい。

人気漫画家が「ネット私刑」を危惧

芦原さん急死の報を受け多くの著名人が哀悼の意を表したが、漫画家で参院議員でもある赤松健氏(55)もその1人。『ラブひな』や『魔法先生ネギま!』など、アニメ化やドラマ化された作品で知られる赤松氏は29日にXを更新し、その中に「脚本家がオリジナリティを発揮できない(やり甲斐が少ない)ことも創作の職業としては問題」「脚本家を責める流れになってはならない」等と記した。

赤松氏のポストに対するネットの反応

この赤松氏のポストに対しては、ネット上でさまざまな声が上がっている。

《赤松氏の意見は論点ずらし。もっとシンプルに原作クラッシャー》

《原作通り作ると約束したのだからその通りに作れ、契約は守れ》

《創造性を発揮したいなら自分のオリジナルでやれ》

《原作準拠の契約なら、脚本家の役割はその範囲で最高のものを書くこと。それが「やりがい」のはず》

《この場合の脚本家は作曲家というより演奏者。いきなり謎アレンジしたら炎上するのは当然》

ここで気になるのが「原作クラッシャー」なるワード。漫画がドラマ化された際にたびたび聞かれる言葉だが、それとは逆に「良い原作改変」との声が上がる作品があることも事実だ。何が両者を分けるのだろうか。

「良い原作改変」の条件とは

「良い原作改変」について、女性漫画誌の元編集者はこのように語る。

「基本は原作を徹底的に読み込んでいることですね。例えば『岸辺露伴は動かない』。荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフを実写化したものですが、原作を読み込んでいるからこその“良改変”が効いていると言っていいと思います」

ネタバレになるので詳述は避けるが、確かに同作には原作で重要な「スタンド」という言葉は使用されていない。しかしそれでも原作ファンからのブーイングはあまり聞こえてこない。

さらに元編集者は続ける。

「原作の何が支持されているのか、登場人物の人格など深く理解していることも条件の一つに入ってくるのではないでしょうか。個人的に例を上げれば、ゲイのカップルを主人公に据えたよしながふみ先生原作で、テレビドラマ化に続いて映画化もされた『きのう何食べた?』で、山本耕史さん扮する重要なサブキャラの小日向大策さんは、原作では“ガッチリ体形のクマ系”として描かれています。このキャスティングに最初のうちこそ戸惑っていた原作ファンも、『これはこれでアリ、むしろ大アリ』という姿勢に変わっていきました」

その他、「良い原作改変」の条件として元編集者は、「原作の魅力をさらに引き出す方向に創造性を発揮している」という項目を上げ、「原作に忠実」と言われているもののまったく違うエンディングが用意されている放送回もあるという、安倍夜郎による『深夜食堂』を上げている。

「原作クラッシャー」の被害に遭っていた赤松氏

生前の芦原妃名子さんは、自身の「告白」により脚本家A氏に炎上の矛先が向いてしまったことを悩み、前掲の通り「そういうつもりではなかった」という旨をXで表明している。ネット上ではこの件を苦にして死を選んだという見方が多いが、それ以上に「原作に対するリスペクトのなさ」にショックを受けていたように思えてならない。「毎回原作を大きく改変したプロットや脚本が提出」されてきていた点などの実情を知れば知るほど、その思いは強くなる一方だ。

Xへのポストに批判的な意見を集めてしまっている赤松氏だが、実は彼も「原作クラッシャー」の被害者でもある。アニメ化された『魔法先生ネギま!』では、原作にはなかった「ヒロインの火葬」が描かれているのだ。ただし赤松氏はもともとアニメ化に当たっては「好きにやってくれ」というスタンスであるため、「被害者」という意識は持ち合わせていない可能性も大きい。このように、自身の作品に対する考え方はさまざまであり、またメンタルの強さも人それぞれであることを付け加えておきたい。

責任の所在

芦原妃名子さんの作品は、これまでも『砂時計』(TBS系、後に映画化)や『Piece』(日本テレビ系)が実写化されている。そんな彼女だからこそ、「原作クラッシャー」に繋がりがちなテレビ業界の実態を熟知していたのではないだろうか。

このような事態を防ぐため、制作サイドに対して事前に条件を提示していたとも考えられるが、約束事が守られなければ打つ手はない。これはテレビ局サイドの大きな「責任」である。ネット上にもテレビ局サイドを批判する書き込みが多数見られることも、その証拠の一つではないだろうか。

《テレビ局の横暴が許される時代じゃない》

《テレビ局が各方面に失礼なのは、一般人にも漏れ聞こえてくる》

《テレビ局の罪は重いな》

《テレビ局は人間ではない》

《テレビ局はどこに存在意義があるの?》

また、『テラスハウス』(フジテレビ系など)の出演者だった木村花さん(22)が自死した際、その責任をネット民に押し付けるような姿勢も決して容認できない。さらに上掲の「テレビ局が各方面に失礼なのは、一般人にも漏れ聞こえてくる」というポストが証明するように、テレビ局の問題は何も「ドラマ原作改変」だけに止まらない。たとえば街ロケ番組でのスタッフの横暴さなどといった「テレビ屋の特権意識」は広く知られており、多くの市民が辟易しているのもまた事実だ。

自己保身的に過ぎる日テレの対応に猛批判

芦原さんの急死を受け、『セクシー田中さん』を放送した日本テレビは番組の公式サイトに「お悔やみ」のコメントを掲載。しかしその内容は、首を傾げたくなるものであった。以下、全文を引く。

芦原妃名子さんの訃報に接し、
哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。
2023年10月期の日曜ドラマ「セクシー田中さん」につきまして
日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら
脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。
本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております。

セクシー田中さん(日テレ公式ページ)

この日テレ側の「お悔やみ」は、あまりに「自己保身」に走り過ぎてはいないだろうか。今回の悲しすぎる結末の責任の多くは、彼らテレビ局側にある。業界慣習の違いや“すれ違い”という言葉で済ませてよい話ではないだろう。

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