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日本人はもっとギリギリに立て。世界的建築家・安藤忠雄は逆境をどう乗り越えたのか?

日本を代表する建築家の安藤忠雄さん。いまや彼の建築物は多くの人々を魅了していますが、それまでは「負け戦」の連続だったそうです。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、負けた時に自分に問うべきこと、分析すべきことを、ウシオ電機創業者・牛尾治朗さんとともに語った対談を紹介しています。

建築家・安藤忠雄が「常にギリギリ」の状態に身を置けと言ったわけ

日本を代表する建築家・安藤忠雄さん。多くの人々を惹きつけてやまない、その比類ない建築が世に知られるまでは「負け戦」の連続だったといいます。

なぜ度重なる逆境を乗り越えてこられたか、自身の勝負哲学を語っていただきました。

※対談のお相手は、ウシオ電機創業者・牛尾治朗さんです(当時)。

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〈牛尾〉
あなたは負けた時に、なぜ負けたかということを徹底的に分析して次に生かしているそうですね。自分がなぜ負けたか、相手のどういうところがよかったかというのを分析して、努力してそれを自分のものにしていると。そういうところはすごく素晴らしいと思うんです。

〈安藤〉
コンペには日本はもちろん、パリやニューヨークやロンドンでもよく参加するんですけど、美術館なんかの公共建築はほとんどコンクール・コンペなんですね。ですから大体200人くらいの参加者の中から経歴や実績で10人くらいに絞って、その人たちに絵や模型を作らせて競うわけですが、まぁよく負けるんです。

けれども、負けてから相手の作ったものを研究すると、やっぱり相手のほうがわれわれ以上にいろんなことを考えていることに気づくわけです。相手に比べたらやっぱり努力も足らん、創造力も足らん、次はこの部分はこういうふうにうまくやらなければいかんなと。そういうふうに、いろんなことに気づいて少し実力がつくけれども、次のコンペでもまた負ける。また少し実力がついて、それでもまた負ける。だけどやっていくうちにいろんなことを覚えて、そのうちに勝つわけです。

ところが、勝つと当然相手の研究はしないですね。これはまずい。勝った時にも相手のことを研究すればもっといいわけですけれども。

〈牛尾〉
なるほど、負けた相手の作品も研究しろと。

〈安藤〉
そうです。だけど大体しない。勝っても負けても、相手を研究して自分たちのまずかったところを集めていくと、次の機会にもっと役立つんです。

この10数年、日本は世界から駄目だ、駄目だと言われ続けていますね。しかし、1980年代に欧米の講演会に行った時に向こうの人は、日本の企業のあり方も、社会のあり方も、そして教育のあり方も、全部素晴らしい。そして、いかに日本に学ぶかが一番大きな課題なんだ、と言っていたんです。

その結果、日本と欧米の立場は逆転しました。それでこの10数年は、アメリカでもヨーロッパでも、日本はどうなっているのか、いつ立ち上がるのかと。いまの日本は、企業のあり方がまずい、教育はもうまったくまずい、何もかもまずいと言われているんです。

〈牛尾〉
おっしゃる通りです。

〈安藤〉
でも、そうは言われながらも、実は日本人はそれほどレベルの低い民族ではないと僕は思っているんですね。

1995年の阪神淡路大震災の日に、僕はちょうどロンドンにいたんです。次の日に日本に帰ってきて被災地を見た時に、これはもう復旧も復興もとんでもないと思いました。

ところが、半年くらいの間に倒れた高速道路は起こし、新幹線は走らせ、倒壊した建物もある程度整理ができて、日常生活にはほとんど問題がないくらいまで回復させました。この姿を見て、日本人はやっぱりいざとなったらすごいなと実感しました。

緊張感を持ち、企業と行政と民間人が垣根を越えて力を合わせると、すごい力を発揮する。ギリギリの状態まで追い込まれて本気を出したら、日本人はやっぱり立ち直るんだなと思ったんです。

ですから、世界中から大変だと言われながら日本がなかなか立ち直れないのは、まだ結構余裕があるからだと思うんですね。余裕があるから緊張感も出ないんです。

〈牛尾〉
なるほど、おっしゃる通りです。

〈安藤〉
僕自身も、最初からチームは小さい、学歴はない、社会的ネットワークもないという状態からスタートしましたから、とにかく自分の力だけでやるしかなかった。

そのためには、負けても決して諦めないように、精神的に頑丈でなければならないし、体力もできたら30代のままで75歳くらいまで仕事ができるように鍛えておかなければいかんと。その気持ちでずっとやってきましたから、負け戦もそれほど気にならずにきたんです。

ですから、日本人はもっとギリギリの状態に置かれているほうがいいと思うんです。

〈牛尾〉
同感ですね。

〈安藤〉
その点、日本の経営者はものすごく闘っているんですが、学生はぬるま湯の中を泳いでいますから、彼らにはもう少し、この国は大変なんだぞということを言ってもらったほうがいい、と思いますね。

(※本記事は『致知』2003年11月号 特集「仕事と人生」より一部を抜粋・編集したものです)

image by: JIANG TIANMU / Shutterstock.com

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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