MAG2 NEWS MENU

プーチンの意外な「バイデン支持」と、ようやくメディアが伝え始めた「ウクライナ劣勢」

ウクライナ軍は17日、長く激戦が続いたウクライナ東部の要衝アウディーイウカからの撤退を表明。ウクライナの窮状を伝え始めた西側メディアの懸念が現実のものとなりました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、西側メディアが伝える厳しい戦況を紹介。NATOの反発を呼んだトランプ前アメリカ大統領の発言と、アメリカ大統領選について問われたプーチン大統領の予想外の発言についても伝えています。

ロシアのウクライナ侵攻から2年、ウクライナ劣勢を隠さなくなった現状を中国はどう見ているのか

2024年米大統領選の共和党候補指名争いでトップを走るドナルド・トランプ前大統領の発言が波紋を呼んでいる。

米ブルームバーグは2月11日、「トランプ氏『責任果たさない加盟国守らず』─NATO防衛義務に言及」というタイトルで報じている。記事によるとトランプは〈NATOのある会合で、欧州の首脳から義務を履行していなくても米国は彼らを守るかと問われた際、責任を果たさない連中には「好き勝手行えばよい」とロシアに伝えるだろう〉と発言したという。

当然、NATO(北大西洋条約機構)は強く反発。世界の多くの国からも非難の声があがったが、トランプは発言を修正するどころか、「改めて『負担金を払わなければアメリカは防衛しない』と強調した」(NHK2月16日)のだ。

アメリカでは昨年末からウクライナ支援を含む補正予算案の決議が下院で滞っている。予算成立の見通しも立たないなか、共和党の一部の議員からはウクライナ支援への疑義と打ち切りを公然と求める声も高まり、欧州連合(EU)やNATOとの結束に冷や水を浴びせかけた。

トランプの「守らない」発言は、そうした状況下で飛び出しだけに、NATOにとって強烈な逆風となった。興味深いのはロシアの反応だ。次期大統領選挙に向けて躍進を続けるトランプの動静はロシアには追い風となるとされ、ウラジミール・プーチン大統領もほくそ笑んでいると思われたが、あにはからんや。ロシア国営テレビのインタビュー(14日)に応じたプーチンは予想外のことを口にして世界を驚かせた。

インタビューのなかで、「バイデン大統領とトランプ前大統領のどちらがロシアに望ましい大統領か」と問われ、「バイデン氏だ」と答えたのだ。世界の定説を真っ向から否定する発言だった。

国益の観点からこうした質問には言葉を濁して応じるのが常道だ。プーチンのような老練・老獪な政治家が、このタイミングで失言したとも考えにくい。だとすれば発言の意図はどこにあるのか。それを読み解こうと議論が百出した。

侵攻から間もなく2年、西側メディアはここにきてロシア・ウクライナ戦争の戦況を「ウクライナ不利」と報じ始めた。ドイツのテレビZDFのニュース番組は2月15日、「ロシアによるウクライナ侵攻からおよそ2年、前線のウクライナ兵への補給はますます難しくなっています。多くの場所で弾薬類が不足しています」と伝え、オーストラリアのテレビABCも、15日の放送で「前線のウクライナの兵士は弾薬の確保に苦戦しています」と、悲観した。

フランスのテレビF2(2月15日)は、ウクライナ軍にとって「対ロシアの抵抗のシンボル」となった東部・ドネツク州の都市アウディーイウカでの攻防に注目。「(ウクライナ軍は)前線に追加の部隊を投入していますが、激しい攻撃を受けているかつての工業都市は陥落寸前で、ウクライナ軍は相変わらず弾薬が不足している状況です」と厳しい状況を伝えた。

アウディーイウカでの勝利は象徴的な意味に加え、ウクライナ軍の武器や物資の供給にとって重要な拠点の確保となるだけに戦略的にも重要な意味を持つ。ウクライナ軍が正念場を迎えているとF2は指摘する。

前線では弾薬類だけでなくマンパワーの点でもロシアとの差が際立つようだ。前出・オーストラリアABCテレビは「(ウクライナ軍が)砲弾を一発撃つと、ロシアからは5発から10発の砲弾が返ってくる」との見方を伝え、前出・ドイツZDFも「ロシア側の砲撃力はウクライナの7倍」と報じる。いずれにせよウクライナ軍の劣勢は明らかだ。

バイデン政権の見立てもほぼ同じだ。ジョン・カービー大統領補佐官は会見で、「ウクライナ側から危機的な状況だと報告を受けている。ロシア軍がウクライナの陣地を攻め続けアウディーイウカはロシアの支配下に入る恐れがある」と認めている。

当初は経済制裁で包囲されたロシアが干上がり、撤退を余儀なくされるというシナリオだった。しかし、いまでは多くの欧州のメディアが反対に、「ロシアが長期戦に持ち込もうとしている」と警戒し始めている──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年2月18日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by:Frederic Legrand – COMEO/Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け