建国以来の好景気に沸いた日々も今は昔、不動産バルブが崩壊し窮地に追い込まれつつある中国経済。しかし中国企業と取引経験のあるファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、「もっと巨大な中国投資バブル崩壊の一つの現象に過ぎないのでは」とします。なぜこのように見立てるのでしょうか。坂口さんが自身のメルマガ『j-fashion journal』でその理由を詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:国家バブルの崩壊
不動産バブルだけじゃない。中国「国家バブル」の崩壊
1.バブルは借金が問題
バブル経済とは、土地・株式・貴金属などの資産価格が、実体を伴わないまま異常に上昇を続ける経済の状態を指す。しかし、バブルが保たれていれば問題はない。問題はバブル崩壊だ。
バブル崩壊は、異常に上昇した資産が暴落すること。それでも、手持ちの資金で購入していれば大きな問題はない。所有者が損をするだけだ。
例えば、不動産価格が上昇し続ける不動産バブル経済下では、銀行から資金を借り入れて不動産を購入する。購入した物件を直ぐに売却しても利益が出るのだから、借金して購入するのが賢い選択となる。
バブル経済の問題点は、価格が上がることではなく、借金が増えることである。銀行も担保価値が上がるので、更に資金を貸し付ける。銀行は貸金が増え、借り手は借金が増える。その裏付けは担保価値であり、担保価値が下がれば、借り手は借金が返済不能、銀行は回収不能となる。最悪の場合、銀行も借り手も破産する。
2.中国投資バブルの崩壊
中国の不動産バブルは弾けた。不動産バブル崩壊は事実だが、それはもっと巨大な中国投資バブル崩壊の一つの現象に過ぎないのではないか。
中国は改革開放政策によって、世界経済の舞台にデビューした。中国は経済成長する意欲があり、無限の可能性を秘めていた。米国金融資本は、中国に資金を与え、経済政策を指導し、技術を供与した。WTO加盟を推進し、米国株式市場への上場を促した。製造業を中国に集中し、「世界の工場」と呼ばれるまでに成長させた。投資すればするほど、多くのリターンが返ってくる。正に、中国投資バブルだった。
中国投資バブルは、中国の経済バブルを引き起こした。このま成長を続ければ、やがて米国経済を追い越すのではないか、という観測も生れた。
そんなムードの中で、中国の製造業は供給過剰に陥った。また、地方政府の財政を支えていた不動産開発ビジネスも供給過剰に陥った。実体経済以上の投資が行われた結果だ。
中国経済の足元が崩れても、習近平は自信を持っていた。中国は大国、強国になった。強気の戦狼外交を続ければ、世界各国は中国の実力を認めるに違いない。中国は世界の工場であり、先進国は中国に依存している。中国経済は揺るがないと考えたのだ。
習近平の米国敵対政策によって、米国は中国を投資対象から、安全保障上の脅威の対象へと変えた。そして、デカップリング、経済制裁が強化された。
そんな状況で、中国はゼロコロナ政策を3年間続けた。輸出は減少し、若者の失業率は上がった。内需は低迷し、外国人観光客も来なくなった。外資企業は次々と中国から撤退し、中国の資本は海外に逃げ出した。
不動産開発企業は倒産し、金融機関も事実上破綻した。地方政府の公務員の給料も支払われず、銀行預金も降ろせない。中国政府に対する抗議活動が中国全土で起きている。
中国にお金が入らなくなった。そして、中国投資バブルは崩壊した。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
3.中国経済そのものがバブルだった
中国経済は実体以上の評価を受けていた。世界第2位のGDPも、借金によるインフラ投資、先進国の下請け組み立て工場、コモディティ商品の輸出等に支えられていたに過ぎない。これらはどれも先進国に依存していた。先進国からの投資、先進国からの発注、先進国への輸出が中心であり、先進国との縁が切れれば中国経済は成立しない。
最近になって、中国は先進国以外の新興国、発展途上国を重視するようになった。しかし、先進国との貿易ほどの利益は期待できない。また、これらの国々は中国の競合相手でもある。
中国の経済成長が下落しても、借金がなければ回復することは可能だ。しかし、中央政府も地方政府も金融機関も民間企業も、巨額の借金を抱えている。中国人民も不動産ローンを抱えている。不動産を所有していない農民工、若者は借金がなくても仕事がない。
考えてみれば、中国の経済全体がバブルだった。不動産バブル、投資バブル、輸出バブル、製造業バブル、そして一帯一路バブル。どれも過大評価がなされ、世界も中国自身もそれを信じたのだ。そして、巨額の借金を重ねていった。
10年以上前、私は中国の友人に「中国の不動産バブルは必ず崩壊する」と言ったことがある。しかし、「そう言われても、中国の不動産価格は下がったことがないので、誰も信じないよ」と返された。今にして思えば、政府も企業も個人も借金を返済して、自己資本を蓄えることを優先すべきだった。バブル経済は経験しないと見えないのである。
編集後記「締めの都々逸」
「借りたお金で 贅沢しても 泡銭なら 消えていく」
世界にはお金が余っているンですね。「あそこに投資すれば儲かるよ」という評判が立てば、そこにお金が集まります。お金が集まれば経済は成長します。経営者が偉いわけでもないし、政治家が偉いわけでもありません。単にお金が偉いのです。
このお金中心の体制から抜け出す。そうしないと、嫌な人間になってしまいます。GDPなど追いかけていると幸せにはなりません。大切なのはお金より幸せ。そして、幸せとは心の持ちようです。お金の持ちようではありません。(坂口昌章)
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