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イスラエルとイランの戦いにアメリカが参戦。バイデンは“中東大戦争”を望んでいるのか

4月1日、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館を空爆したイスラエル。イランの最高指導者ハメネイ師が報復を宣言しましたが、ガザ地区での戦闘を続けるイスラエルはなぜかような行動に出たのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、その裏にあるイスラエルとアメリカの思惑を解説。さらにイランとイスラエルの戦争にアメリカが参戦するとの予想を記しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

アメリカが戦争拡大を望む場所

全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。

私は、ウクライナ戦争と台湾有事について、「軍産複合体を儲けさせたいアメリカが煽っている」という説は「フェイクだ」と断言しています。

どういうことでしょうか?

2018年10月、ペンス副大統領の「反中演説」から「米中覇権戦争の時代」がはじまりました。アメリカは「二正面作戦」を好まないので、ロシアに対しては融和の方向に向かったのです。

しかし、プーチンは2021年11月、大軍をウクライナ国境に集結しはじめました。アメリカ側から挑発があったのでしょうか?ありませんでした。

民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジンは、2023年6月に反乱を起こし、2023年8月飛行機が墜落して亡くなりました。世界中の人が、「プーチンに殺された」と考えています。

ところで、プリゴジンは反乱を起こす前、ウクライナとの戦いで常に最前線で戦い、健闘していました。それで、ロシアでは、「ウクライナ戦争の英雄」とされています。そんなプリゴジンは、プーチンの、「ロシアが先制攻撃しなければ、ウクライナが攻めてきた」という説をはっきりと否定していいます。TBS NEWS DIG 2023年6月24日。

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者は、ウクライナ侵攻について「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして始めた」と主張する新たな動画を公開しました。

 

「ワグネル」創設者 プリゴジン氏

「国防省は国民と大統領をだましている。特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」

 

プリゴジン氏は23日に公開した動画で、プーチン大統領が侵攻開始にあたり、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構の支援を受け、ロシアを攻撃する脅威が高まっているなどと主張したことについて、「そのような異変はなかった」と否定しました。

 

そのうえで、ショイグ国防相や「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥が「自分たちの利益のために戦争を始めた」と強調しました。

 

これまでもショイグ国防相らを厳しく批判してきましたが、今回は侵攻そのものをめぐる政権の主張を否定した形で波紋を呼びそうです。

映像も必見です。

「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして侵攻始めた」ワグネル創設者|TBS NEWS DIG

要するにプリゴジンは、

ロシアが先制攻撃しなければ、ウクライナがロシアに攻め込んできただろう。

という開戦理由について、【 ウソだ 】と暴露したのです。

わかります。既述のように、米中覇権戦争中のアメリカにロシアを挑発する動機はないのです。

台湾について。これも、「軍産複合体を儲けさせたいアメリカが煽っている」という人がいます。いえ、煽っていません。これまで何度も書いていますが、アメリカが台湾有事を望むなら、超簡単な方法があります。蔡英文さんに独立宣言をさせればいいのです。その際、「アメリカが絶対に台湾を守る」「アメリカ、欧州、日本、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどは、即座に国家承認する」と保証すれば、蔡英文さんも喜んで独立宣言するでしょう。

ところが実際のアメリカは、「一つの中国政策を支持する」と繰り返し、台湾の独立を否定しています。アメリカの姿勢は、「台湾の独立は認めない」「でも武力統一も認めない」というものです。

これは、「台湾有事を煽っている」のでしょうか?それとも、「台湾侵攻を起こさないよう」努力しているのでしょうか?答えは明らかです。

アメリカが戦争拡大を望む場所

ここまで聞いて、「論理的」だとは思いつつ、「結局北野はただの親米なのではないか?」と疑問を持たれた方もいるかもしれません。いえ、私は、親米ではありません。もちろん、親ロシアでも、親中国でもありません。私は、常に【 親日 】です。そして、世界情勢については、常に「本当のこと」を書くようにしています。

アメリカは、確かにウクライナ戦争を望みませんでした。そして、台湾有事も望んでいません。だからといって、アメリカは「常に平和を望む正義の国」とはいいません。現状、アメリカが「戦争拡大を望む場所」もあるのです。どこでしょうか?

中東です。なぜ?

私は、有料版の『パワーゲーム』では、2023年8月から、「年内に中東で戦争が起こる可能性がありますよ」と言っていました。そして、その主体は、「イスラエル vs イラン」で、アメリカも参戦する可能性が高いと。

実際、何が起こったのでしょうか?

皆さんご存知のように、今起こっている戦争は、ハマスがイスラエルを奇襲し、民間人を大虐殺したところからはじまっています。しかし、ハマスの後ろにはイランがいるので、これは事実上「イスラエル vs イラン」の戦争なのです。

私は、「ハマスの計画を知っていたから」「年内に中東で戦争が起きる可能性がある」と言っていたのでしょうか?そうではありません。ただ、【 イランが核兵器保有一歩手前まできていること 】を知っていたのです。どういうことでしょうか?私の話が「後付け」ではないことを示すために、『まぐまぐニュース』2023年10月20日付から一部転載します。

これまでの経緯に触れておきます。

 

  • 2018年、トランプが核合意から一方的に離脱し、イランへの制裁を復活させた。イランは、原油輸出が困難になった
  • イランは、それまで核兵器を保有する意志はなかったが、路線を変更し、ウラン濃縮濃度をどんどん上げていった
  • 今年(2023年)3月時点で、ウラン濃縮濃度は83%に達していた(※ 核兵器製造に必要なのは90%以上)

 

『時事』2023年3月5日。

<イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。>

 

  • 9月、イランはIAEAの査察を拒否した

 

これは、「イランが核兵器保有後一歩のところまできているからではないか?」と推測できる。

 

『日経新聞』(2023年)9月17日付。

<国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。査察官はウラン濃縮などを検証している。グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ。>

 

  • そして、イスラエルは、「イランが核兵器を保有する前に先制攻撃をかける」と公言してきた
  • 核兵器保有が迫るイランは、当然「近い将来イスラエルが攻撃してくる」と予想する
  • そのため、影響下にあるハマスに、イスラエルを先制攻撃させた?

 

『朝日新聞DIGITAL』2023年10月9日付。

<米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は8日、イスラム組織ハマスがイスラエルにしかけた大規模な攻撃はイランの関係者が準備段階から協力し、最終的なゴーサインを出したと報じた。ハマスと、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの幹部の話として伝えた。>

<WSJによると、イラン革命防衛隊のメンバーは8月から、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスと、イスラエルに向けた陸海空の侵攻について協議した。レバノンの首都ベイルートで革命防衛隊やハマス、ヒズボラらのメンバーによる会議が重ねられ、攻撃の詳細が計画されたという。最終決定の会合は2日にあったとしている。>

 

これが今回の戦争に関する私の見解です。

この読みが事実だとすれば、イスラエルは、イランの核施設を攻撃し、イランの核兵器保有を止めようとするでしょう。

 

しかし、イスラエルがイランの核施設を攻撃するためには「口実」が必要です。「真珠湾攻撃」「ロシアのウクライナ侵攻」「今回のハマスによるイスラエル攻撃」などなどを見てもわかるように、「先制攻撃は評判が悪い」のです。

 

だからできれば、「イランがイスラエルを先に攻撃したので、イスラエルはやむを得ずイランを攻撃した」という形にしたいでしょう。

【関連】イラン介入は“大歓迎”か?イスラエルが欲しい「核施設攻撃」の口実

さて、これに関連してイスラエル軍は4月1日、シリアのイラン大使館を空爆し、13人を殺害しました。『テレ朝ニュース』4月3日付。

1日、ダマスカスにあるイラン大使館の建物がイスラエル軍によるとみられる空爆を受け、イランの国営メディアによりますと、これまでに少なくとも13人が死亡しました。

イランの最高指導者と大統領は、報復を示唆しました。

最高指導者のハメネイ師は2日に声明を出し、「この罪を犯したことを後悔させる」「邪悪な政権は我々の勇敢な者の手によって罰せられるだろう」などとイスラエルへの報復を示唆しました。

 

また、イランのライシ大統領も攻撃が「非人道的な侵略で、国際規則の明白な違反」だと非難し、対抗措置を取ると述べました。

この件、普通は「なぜハマスと戦うイスラエルは、イランを攻撃して戦線を拡大するのか、意味がわからない」となるでしょう。しかし、目的は「イランの核兵器製造施設破壊」なので、戦線を拡大しなければならない。

次に、「イスラエルが先制攻撃したら評判が下がるのでは?」という疑問はあるでしょう。この事件だけ見ると、イスラエルが先制攻撃したような印象です。

しかし、まずイスラエルに先制攻撃をしたのは、イランの勢力下にあるハマスです。そして、同じくイランの勢力下にあるレバノン・ヒズボラ、イエメン・フーシ派などがイスラエルを攻撃している。イエメン・フーシ派は、紅海を通過する商船を攻撃しているため、国際社会から敵視されています。

ですから、「はじめたのはイスラエル」とは言えません。

イスラエルがシリアのイラン大使館を空爆しても、国際社会は「どっちもどっち」としか思わないでしょう。それよりもイスラエルの問題は、ガザで大量に民間人が犠牲になっていることで、国際世論が冷たくなっていることです。

もう一つ、「イランが核兵器保有を目指していることを知っているなら、なぜアメリカは国連安保理で議論しないのか?」という疑問も出るかもしれません。アメリカは、イランの核問題を国連安保理で議論したくなのです。

なぜ?対北朝鮮の失敗を繰り返してしまうからです。北朝鮮の後ろには中国とロシアがいて、制裁を強化することができません。常任理事国中国とロシアが、拒否権を使うからです。

イランの核問題を国連安保理で議論し、制裁を科そうとしても無理でしょう。中国とロシアが拒否権を使ってイランを守るからです。

アメリカは、イランの核兵器問題を、「国連安保理」を通さずに解決しようとしている。つまり、「物理的に破壊すること」です。

今後のシナリオ

これから、アメリカ、イスラエルは、どう動くのでしょうか?

アメリカとイスラエルは、イランの参戦を望みます。そして、どこかの時点でアメリカが参戦し、イランの核兵器製造施設を破壊するでしょう。このことは、アメリカが「中東大戦争を望んでいる」ことを意味しません。アメリカは、「下手すると4正面作戦になるリスク」を抱えているのです。

「4正面」とは、

です。

イランに関しては、「核兵器製造施設を破壊して終わり」にしたいのでしょう。ですが、イランがそれで引き下がる保証はありません。中国とロシアは、むしろアメリカ、イスラエルとイランが大戦争になることを望むでしょう。そうなれば、アメリカは、ますますウクライナを支援できなくなります。

中国にとって、唯一の脅威アメリカが疲弊し弱体化するのを見るのは、大いなる喜びでしょう。アメリカの弱体化が進めば、台湾統一も容易になりそうです。

というわけで、アメリカは、ウクライナ戦争を望まなかったし、台湾有事も望んでいない。しかし、イランについては、「核兵器問題」があるので、紛争を拡大したいという話でした。

「拡大したい」といっても、「核兵器製造施設を破壊しやすい状況をつくる」程度の拡大です。イランとの全面戦争を望んでいるわけではありません。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2024年4月3日号より一部抜粋)

image by: Mohasseyn / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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